2019/12/20
連載コラム
笑ってる。目の前で、女が笑ってる。
詳しく言うと、母が、わたしの母が、笑ってる。
大声を出しながら、ヒーヒー言いながら、文字通り爆笑している。
人が笑っている時には、何かしらの理由が、何かしらの原因がある。
そんなことは当然のことだ。言わずもがなのことである。
関係無いが中学生の時に「言わずもがなのことである!」にハマっていてそればかり言っていた時期があったことを思い出した。
実にどうでもいい個人的な思い出だ。
実にどうでもいい個人的な思い出を、たまに思い出してはまたすぐ忘れる日々を送っている。
実にどうでもよく、実に幸せである。
それすら、どうでもいいことなのだけど。
とにかく、目の前で、笑っているんだ。わたしの目の前で。
人が恐怖を覚える瞬間には様々な理由があるが、たった今のわたしが感じている恐怖のワケは、ただひとつ。
「理由がわからない」だ。
人は「理由がわからない」のにひたすら笑う人を目の前にするとここまで怖いという感情になれるのだ。びっくりした。実の母親を目の前にしてここまで恐ろしい気持ちになれる日が来るとは思いもしなかった。
そんな怖さと向き合いながらこの文章を書いている。わたしは今、書いている。
さて、最近のわたしはというと、11月からツアーが始まった。全国6ヵ所のライブハウスツアー。
勿論、新曲も披露する。初日、初めてお客さんの前でやることになるその新曲のイントロ、緊張のイントロ。
初お披露目のその時というのはいつだって、どきどきわくわくするものだ。隣を見ると、相方が泣いていた。正確に言うと泣いているように見えた。申し訳ない、本当に申し訳ないが、それのおかげで笑いそうになった。それがわたしの想ひ出。何故泣いているのか、分からなくて、笑いそうになってしまったのである。
勿論、そんなクスッと笑ってしまうようなハッピーで愉快な楽曲では無いのだが、何故だか泣きそうになっている相方を見たわたしの顔は微笑んでいた。もしかしてもしかすると人として人間として終わっているのかもしれない。
そんなことすらどうでもいいがその新曲は是非とも聴いて頂きたい。是非ともツアーに来て頂きたい。
そんなこんなで顔を上げたがまだ母が笑っていた。ワケがわからないわたしは遂に笑っているワケを本人に聞いてみたんだ。
「どうして笑っているの」
『わたしもなんでかわからない』。
ただただ、恐怖である。アディオス。
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・チャラン・ポ・ランタン Vo.ももの私の想ひ出のショウ Vol.47
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