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ニール・サイモン作品は会話&見せ場の連打。コメディから人間愛や葛藤を感じてほしい

2025/9/2

インタビュー

PARCO PRODUCE 2025 「ブロードウェイ・バウンド」

20世紀を代表するコメディ王で、ブロードウェイにはニール・サイモン劇場があるほど、演劇界に大きな功績を遺した劇作家ニール・サイモン。彼が手掛けた「ブロードウェイ・バウンド」の大阪公演が10月2日(木)~13日(月・祝)にCOOL JAPAN PARK OSAKA WWホールで開幕する。30本以上の戯曲を世に送り出したサイモン作品の中でも、今作は〝B・B三部作〟と呼ばれる彼の自伝的戯曲の一つ。サイモンを投影した14歳の少年ユージンに佐藤勝利、彼の母親ケイトに松下由樹を迎え、2021年に上演された舞台「ブライトン・ビーチ回顧録」(以下「ブライトン」)、ユージンが新兵訓練キャンプで過ごす「ビロクシー・ブルース」、それに続く完結編が「ブロードウェイ・バウンド」だ。「ブライトン」のメインキャストが続投する今作について、松下に話を聞いた。

――「ブロードウェイ・バウンド」は、1949年、ニューヨークのブルックリンで家族と暮らす23歳のユージン(佐藤)が兄のスタンリー(入野自由)と共にコメディ作家を目指す物語です。「ブライトン」は4年前に上演されましたが、手ごたえはいかがでしたか。

「コロナ禍だったので、普段のコミュニケーションも取れない状態だったんです。でも、会話劇のストレートプレイで家族の物語なので、稽古を含めて、皆、舞台上の家族というコミュニケーションが取れていました。今回、また皆に再会した時に、会話のキャッチボールや間合い、かけあいなどあのころの感触が次々と蘇ってきました。ユージンが思春期の14歳で、佐藤さんが初々しく生き生きと演じられていましたが、今回そのユージンが23歳に成長しているので、今まで培ってきたコミュニケーションがすごく大事になっていますね。」

――松下さん自身の感触は?

「私は20代の時にサイモンの舞台「パパ、映画に出して!」をやっているので、サイモンの独特の言葉の選び方や物語の運び方が体になじんでいるんです。4年前のケイトの感触も体に残っていて、母親なので、テーブルにお料理を並べたり、台所に行ったりする動きは言われるまでもなくやれるという自分がいて(笑)。
ただ、私が、夫のジャック(神保悟志)との関係が「ブライトン」では比較的うまくいっていたのに、なんで今回はこうなったの?と切り替えができていなくて(笑)。切り替えをして、今の関係からスタートさせ、深みを出していかなきゃいけないんですが、気持ちを引きずっていますね。」

――ジャック、一体、何をしたの?と(笑)。舞台が開幕して、また気持ちが変化していくのでしょうね。

「一瞬にして時が流れてお客さんが23歳のユージンと出会うように、家族全員が年月を重ねているわけですから。そこにフィットできるように、私が引きずりをなくさないと(笑)。」

――今、稽古場はどんな様子ですか。

「サイモンの戯曲はスピードのいい会話劇なので、どこも見せ場の連打で、演じる側も大変なんですけど、すごくよくできた作品なので、皆、セリフを体になじませつつ、演者と役柄の面白さがドンドンと開花していっている状態ですね。」

――今回、どのようにケイトを演じていきたいですか。

「4年前は母親という要素が強い上に、妻でもあったんですが、今回はケイトの父親のベン(浅野和之)も一緒に暮らしています。娘として、母として、妻として、女としてという要素がふんだんに盛り込まれているので、そこをちゃんと伝わるように演じるというのが課題ですね。」

――演出家の小山ゆうなさんとのお仕事はいかがですか。

「時代背景やバックボーンをすごく丁寧に説明してくれて、演者の気持ちに寄り添いながら、何を伝えたいのか、アドバイスも含めて対話を重ねる。そういうプラスプラスの演出をしてくださいます。」

――社会主義者のベンをはじめ、個性豊かな家族ですが、ケイトはどのように家族を見ていると思われますか。
 
「ベンにしてもジャックにしても、ケイトは彼らのプライドを傷つけない。ケイトは家族のために自分を押し殺し、我慢して、どんな状況でも家族第一で皆に食事を作る。でも子どもはドンドン成長していき、夫は気にかけてくれず、何のために私はやっているのと。今の時代にも通ずる普遍的なことですよね。
前回は一歩引いて、自分を押し殺して家族を支えていくことを心がけていたんですが、そうでもないのが今作で、ケイトが気持ちをぶつけていくので、そこが面白いですね。夫婦間のヒリついた関係をなるべく勃発させないようにと抑えながら、結局、勃発してしまう。流れや緩急が激しくて、お客さんも笑ってハラハラしながら、先が見えるようで見えない感覚が面白いと思います。ユージンとスタンリーの絶妙な会話やユージンが皆を和ませようとするシーンもあり、そのバランスもすごく面白いですよね。」

――ユージンとスタンリーがコントを作るシーンも面白いですね。あんな感じでサイモンは兄(※実兄とは実際にコンビを組んでテレビやラジオで脚本を書いていた)とコントを作ったんだろうと想像させられます。

「勝利君も入野君もいいものを作ろうともう興奮状態で(笑)、前回よりパワーアップしています。兄弟が夢や希望に向かっている物語なので、二人のエネルギーが弾けていますね。」

――ベン役の浅野さんが、ものすごく役とフィットされそうです(笑)。

「フィットされています(笑)。今回、初参加のケイトの妹ブランチ役の小島聖ちゃんもそうですし、皆、とてもいい化学反応が起きています。浅野さんの持ち味のユーモアと、ベンの厳格でありながら頑ななおじいちゃんのバランスがすごくいいアクセントになっているし、現場でも浅野さんは面白い方なので、そのお人柄でコミュニケーションがより取れていますね。」

――今回、佐藤さんはいかがですか。

「前回はすごくかわいい次男坊で、今は青年になって、兄弟二人で夢を追いかけていく。ケイトは応援しようとしているけど、ジャックは「そんな浮ついた世界で」と反対している。ケイトはそのジレンマもありつつも二人の息子を愛しているんです。でもケイトが唯一、娘時代の思い出も含めて話ができる相手はユ一ジンなんです。
勝利君は成長されていますが、前回と同じフレッシュな生き生きしたユージンというのは変わらずいます。コミカルさだけではなく、キュートなかわいらしさもあるので、サイモン作品の難しさを軽く超えていくと思います。」

――難しいところはどこですか。

「言葉のキャッチボールや間合いをお客さんに飽きさせないように届けていくには、すごくエネルギーを持って演じなきゃいけない。そこは大変なんですけど、ドンドン体になじませていったら、普段からすごくコミュニケーションが取れているメンバーなので、芝居をぶつけるのも、受けるのも両方できるから、稽古を重ねれば重ねるほど、いいものになっていく予感しかないです(笑)。」

――台本だけでもセリフのタイミングや間合いが完璧で、ウイットとユーモアに富み、ホロリとさせられる。サイモンは改めてすごい作家だなと思います。

「読んでいるだけでそうなので、舞台でしゃべった時に、お客さんがイメージできて映像が浮かぶようなセリフを言えるようにしなきゃと思っています。後半はケイトのセリフ量も多いですし、見せ場のダンスシーンも含めて、楽しかったな、面白かったなと思っていただきたいですね。」

――サイモンの自伝を読むと、あのダンスのシーンを描きたくて「ブロードウェイ・バウンド」を書いたそうですね。母親への愛情にあふれていますね。

「ダンスのシーンはこれから稽古が始まるんです。振付の先生もいらっしゃるので楽しみですね。素敵なシーンになるように頑張ります。」

――松下さんはダンスをされていましたよね。

「私が昔、習っていたのは、ジャズダンスやタップ、クラシックバレエなんですよ。今は習ってはいないんですけど、踊るのは大好きです。」

――先ほどケイトの感触が残っているとおっしゃっていましたが、ほかの役はどうですか。松下さんが主演して大ブームとなった「オイシーのが好き!」「想い出にかわるまで」などのトレンディドラマは鮮烈で、かぶりついて拝見していました。

「ありがとうございます。デビュー作となった映画「アイコ十六歳」に出た時の「よーいスタート、カット」のあの感触が体の一部に残っていますね。「オイシーのが好き!」も自転車を折りたたんで駅のロッカーに預けるシーンとか(笑)。」

――覚えています(笑)。松下さん演じる主人公が「あれ買って、これ買って」と男性に欲しいものを買わせるシーンに憧れていました(笑)。

「最終話のシーンですね。ありましたね(笑)。」

――「想い出にかわるまで」は、姉の恋人を奪う役で、役柄なのに、道で会う知らない人にまで批判されたことがあったそうですね。

「役名で覚えてもらえるのはすごくありがたいことで、嫌われ役で嫌われるのも一つの醍醐味だと思うんです。若い時は戸惑うこともありましたが、役として見ていただければ、楽しんでもらっているということにつながるので、今回もケイトお母さんとして見てもらえるほうがうれしいですね。色んな役を経験させていただいて、それが自分の血や肉となって技術として成長させてくれているんだと思います。」

――最後にメッセージをお願いします。

「コメディ作品ではありますが、人間の深い愛情やヒリつく葛藤を感じてもらえると思います。ぜひ、劇場でユージン一家を見届けていただけたら。ニール・サイモンを知らない若い方も多いと思いますので、今回で知ってもらえればうれしいですね。」

 
取材・文 米満ゆう子

 

PARCO PRODUCE 2025
「ブロードウェイ・バウンド」

■作
ニール・サイモン
■翻訳
青井陽治
■演出
小山ゆうな

■出演
佐藤勝利 松下由樹 入野自由
神保悟志 小島聖 浅野和之

▶▶オフィシャルサイト




大阪公演

|日時|2025/10/02(木)~2025/10/13(月・祝)≪全14回≫
|会場|COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール
▶▶公演詳細

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