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舞台『ブロードウェイ・バウンド』PARCO劇場 観劇レポート

2025/9/29

公演レポ

PARCO PRODUCE 2025 「ブロードウェイ・バウンド」

ブロードウェイを代表するコメディ作家、ニール・サイモンの『ブロードウェイ・バウンド』が東京で開幕した。

本作は、ニール・サイモンが自身を投影したユージン・ジェロームを主人公にした、自伝的作品“B・B三部作”と呼ばれるシリーズの完結編だ。
思春期真っただ中の少年時代『ブライトン・ビーチ回顧録』、さまざまな人種の仲間と過ごし初恋も経験した従軍時代『ビロクシー・ブルース』、そこに今回の『ブロードウェイ・バウンド』が連なり、いよいよコメディ作家を目指して一歩を踏み出す。

ユージンを演じるのは、2021年の『ブライトン・ビーチ回顧録』から続投となる佐藤勝利。
さらに、母親・ケイト役の松下由樹、父親・ジャック役の神保悟志、兄・スタンリー役の入野自由も、『ブライトン・ビーチ回顧録』から4年越しに再集結。
家族が同じ配役で、違う作品を演じるとは実に珍しい、なかなかあることじゃない。

ここに、小島聖が叔母・ブランチ役で、浅野和之が祖父・ベン役で新たに参加。
これだけの実力派演劇人がギュッと揃ったからには、濃厚な舞台になることを期待せずにはおれない。

前回は14歳の少年を熱演した佐藤。初のストレート・プレイを堂々と演じ切り、演技だけでなく、どこから見ても少年そのものの仕上がりに高い評価を得た。
今回は、そこから9年後の23歳になった青年ユージンに挑む。ユージンの成長の中に、佐藤自身の成長も内包させながら、自立した本物の大人へと人生の歩を進めていく。

家族が暮らす家のセット、その右側に置かれたテーブルに、母・ケイトが静かにクロスをかけるところから物語は始まった。テーブル=食卓は、ケイトにとってかけがえのない家族の象徴。かつては賑やかだったテーブルも、いまやケイトが並べる皿のようには全員が揃わない。

寒い冬の夜、入野演じる兄のスタンリーが、ラジオ番組にコントのシナリオを書く仕事を取って帰ってきた。
興奮の頂点にいる兄と、一晩では書けないと反論する弟。兄弟ならではの遠慮のない応酬が、息ぴったりの佐藤と入野で繰り広げられ、ときにハラハラ、ときにクスクス、思わずぷっと吹き出してしまう瞬間も。2人は間合いも絶妙で、セリフだけでなくその動きにも注目だ。

そうやって兄弟が仲良くケンカ(と仲直りと意気投合)を繰り返しながらシナリオを進めていく一方で、互いに相容れない主張をぶつけ合う家族もいる。
再婚相手のおかげで裕福になったブランチは、愛しているがゆえに、父ベンを極寒のこの地から温暖な街へ連れて行きたいと説得するが、貧富の差を憎む社会主義者のベンは頑固一徹で首を縦に振らない。
一方、ケイトとジャックは、年を取ってカタチが変わってしまった夫婦の関係性を、どうやって受け入れたらよいかがわからない。夫婦のギクシャクはいつしか家族全員を巻き込み、それぞれの問題を誘発し――。

本当に濃密な会話劇だ。
観ているこちらの胸が苦しくなるような辛辣さもありながら、この会話がどこへ向かうのか気になって目が離せない。彼らに幸せになってほしい、でも、彼らの本当の幸せってなんだろう? ぐんぐん惹き込まれながら、自分のどこかで、わたしだったらどうするだろうと活発に動きだす感情もある。

そんな濃厚な見応えのなかにも、ときおり、ふっと訪れる“抜け感”がたまらなかった。
人は、笑わせようとしていないからおかしい、ということがあるが、まさにそんな感じ。
浅野の飄々としたとぼけ方や、松下の予想外の返答と、達者な役者が生舞台で魅せてくれる“抜け”は誠に贅沢。
佐藤と入野の兄弟に至っては、その会話をそのままシナリオに書けばウケるのに!とツッコみかけ、これこそが、まんまとニール・サイモン(青井陽治翻訳)の筆の術中にハマったのだなと気づかされ、二重に笑ってしまう。

美しいシーンもある。若いころにダンスホールで映画スターと踊ったことがあるケイトが、ユージンにせがまれてその記憶を話して聞かせる場面だ。松下のしなやかな手のしぐさは、かつてダンサーだったと信じられる。ユージンにとって初めて見る母のなかの女だったかもしれない。佐藤が表現する表情も見逃せない。

家族のリアルな葛藤と夢を目の当たりにできる本作。
前回『ブライトン・ビーチ回顧録』に続いて観る人には、ユージンとその家族の変わらないところ、変わったところを懐かしさとともに味わえ、これが初見の人は、密度の高い会話劇のおもしろさを実体験できるはず。

ユージン家族の秘密を共有しながら、緻密な空気を劇場で堪能してほしい。

撮影:加藤幸広
取材・文:丸古玲子

 

PARCO PRODUCE 2025
「ブロードウェイ・バウンド」


■作
ニール・サイモン
■翻訳
青井陽治
■演出
小山ゆうな

■出演
佐藤勝利 松下由樹 入野自由
神保悟志 小島聖 浅野和之

▶▶オフィシャルサイト




大阪公演

|日時|2025/10/02(木)~2025/10/13(月・祝)≪全14回≫
|会場|COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール
▶▶公演詳細

 

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