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ダンス界のスーパースター、アダム・クーパーが贈る。かつてないほど斬新な新演出の「コーラスライン」

2025/9/25

公演レポ

ミュージカル『コーラスライン』日本特別公演

こんな「コーラスライン」は未だかつて見たことがない!観劇後、その素晴らしさに立ち尽くしてしまったーー。ダンス界のスーパースター、アダム・クーパーが出演するミュージカル「コーラスライン」が東京の東京建物Brillia HALLで幕を開けた。クーパーはもちろん、大注目なのは、20世紀を代表する伝説的なミュージカル「コーラスライン」に現代的な要素を盛り込み、振付などを変えた新演出にしたことだ。

新作ミュージカルに出演するダンサーを選ぶニューヨークのオーディション会場が舞台。クーパーはメンバーを選考する演出家・ザックの役だ。私は今まで、ブロードウェイやアメリカの地方、海外キャストによる来日公演など、様々な「コーラスライン」を見てきたが、ザックは舞台上にはほとんど登場せず、客席からマイクで威圧的な声を聞かせるというのが通常だ。しかし、新演出版では、クーパーはステージ上や客席、客席の通路など至る所に現れる。

「次はバレエのコンビネーションを」「タップダンスの経験は?」などとザックは直接ダンサーと会話し、時に厳しく指示を出していく。目まぐるしく移動するので、彼が劇場のどこにいるか常に追ってしまう。ザックのほかを圧するオーラや存在感、ただ者ではない貫禄はスターのクーパーが演じるからこそ。一方、ダンサーを演じる多様な人種で構成された若いキャストの歌とダンスもトップレベルで迫力があり、その実力に唸らされた。ザックも見たいが、ダンサーたちの若さや情熱、パワーが束となって舞台上で弾けるので、両方に見とれてしまう。

1975年にブロードウェイで誕生し、15年間ロングランを続け、トニー賞などを総なめした「コーラスライン」。その後、映画になり、世界中で舞台が上演され、社会現象を引き起こした。そのオリジナル版の原案・演出・振付は天才的な演出家・振付家として知られ、「ドリーム・ガールズ」など数々の名作を残し、44歳の若さで亡くなったマイケル・ベネットだ。オリジナル版に出演したダンサーのバーヨーク・リーに取材した時は、「ベネットはダンサー同士の緊張感を掻き立て、対立させるのがうまかった」と語っていた。ザックはその天才肌で冷淡な一面もあったベネットを投影させたといわれているが、クーパー演じるザックは、厳しいながらも温かい。ダンサーの冗談におどけたり、笑ったり、「スランプはある」と励ましたりもする。そんなザックの背中に、名門ロイヤル・バレエ団の元プリンシパルダンサーで、男性が白鳥を踊る「スワンレイク」や、映画「ビリー・エリオット」で世界的に有名になり、日本でもバレエブームを引き起こしたクーパーの人生を重ねずにはいられない。

2022年に来阪した「雨に唄えば」では、舞台上で14トンの豪雨に打たれながら、傘を差して優美に歌い踊ったクーパーの姿を鮮烈に覚えている方も多いだろう。生き馬の目を抜くような厳しいショービジネスの世界で超一流であり続けることは、血のにじむような努力や人知れない葛藤があったはずだ。特に楽曲「At the Ballet」(バレエでは)は、どんなにつらい時でも「バレエの世界が夢と救いだった」と若いダンサーたちが次々に歌い、ステップを踏む。また、「What I Did for Love」では、選んだ道が「好きだからこそ命を燃やした」とダンサーたちが歌う。それを舞台上でやさしく見守るザックの温かさが胸にグッと迫る。元プリンシパルは何を思うのだろうか。

新演出版は2021年、英国で演出家ニコライ・フォスターの手により、クーパーが同役で初演、高い評価を得た。ダンサーが人生を語るシーンは、オリジナル版よりスピーディーでテンポよく進み、ドンドンと引き込まれて飽きさせない。ダンスもベネットの振付の良さを残しつつ、よりモダンにユニークに進化させた。

ジェンダーやコンプレックス、ルッキズムに悩む1970年代のダンサーたちの問題は、今の私たちと変わらないと感じる。さらに、フォスターが、一人ひとりのダンサーのキャラクターを、ダンスも含めて、より現代的に、ダイナミックに形成した。観客はダンサーの物語を自分の事のように感じたり、学校の教室で友達の告白を聞いているような感覚を味わったりするはずだ。

照明にも息をのみ驚かされた。ダンサーの物語らしく、大きなステージライトを使った粋な演出は今まで見たことがなく、思わず声を上げてしまった。音楽もジャズを取り入れたり、新しいアレンジが洒落ている。

また、クーパーには、ファンが待望する小さなソロのダンスシーンが用意されている。どこで登場するのか楽しみにしてほしい。場は静まり返り、息を殺して見てしまった。

日本ではテレビのCMでおなじみの名曲「One」のイントロが始まると、いよいよクライマックスだ。鏡をバックに、ダンサーたちがピカピカの金色のシルクハットに燕尾服やレオタードを着て一列に並び、歌い踊る姿は、その派手さと豪華さが相まったブロードウェイミュージカルを象徴する歴史的な名シーン一つだ。オーソドックスなベネットの振付もワクワクするが、今回はダンサーたちが舞台で舞う金色の蝶々のようにも見え、幻想的な斬新さが加わり、期待以上だ。観客は大喜びで総立ちになった。

クーパーは「『ONE』は、皆が成し遂げたことのセレブレーション」だとコメントしている。私は、現代を生きる人々への、ベネットをはじめ、クーパーや、すべてのダンサーたちからのエールだと受け取った。

取材・文 米満ゆう子

 

ミュージカル『コーラスライン』日本特別公演

■出演
アダム・クーパー 他

■原案・振付・演出
マイケル・ベネット
■台本
ジェームズ・カークウッド/ニコラス・ダンテ
■音楽
マーヴィン・ハムリッシュ
■作詞
エドワード・クレバン
■共同振付
ボブ・エイヴィアン

■演出
ニコライ・フォスター 
■振付
エレン・ケーン 
■セットデザイン
グレイス・スマート 
■ミュージカル・スーパーヴァイザー
デイヴィッド・シュラブソール  
■衣裳デザイン
エディ・リンドレー 
■照明デザイン
ハワード・ハドソン 
■音響デザイン
トム・マーシャル

▶▶オフィシャルサイト




大阪公演

|日時|2025/10/02(木)~2025/10/06(月)≪全6回≫
|会場|梅田芸術劇場 メインホール
▶▶公演詳細

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