2025/4/14
インタビュー
――これまでニッポン放送さんとの舞台はすべて原作ものでしたが、ついに上田さんの新作のターンが来ました。
「今回もなにか原作を持とうかな? と思ったんですけど、僕が今やりたいこととは、どれとも寄り添い切れないという感じがして。だから特定の作品ではなく、いろんな宇宙もののSF作品をサンプリングして、オリジナルの舞台にしようと思いました。」
――「宇宙ものがやりたい」というのが、先にあったのですね。
「1970年代ぐらいに、宇宙開発の隆盛に伴って、宇宙を舞台にした漫画とか映画がめちゃくちゃ盛り上がったんです。今ってまた、宇宙開発が再燃しているようだけど、それで宇宙ものの作品が作られているか? というと、そんなこともないなあと思ったので、今やるのにいい題材じゃないかと思いました。」
――原作はないとは言いつつも、このタイトルであるとか、キャストが11人いるってところで、いろいろ推し量られるものがあります。
「『エイリアン』はもうタイトルでリスペクトしていますし、萩尾望都先生の漫画とか『惑星ソラリス』とか、いろんな宇宙もののSF作品のオマージュがあります。脚本を書くにあたっては、いろんな宇宙の本を読んで「あ、これ舞台で言いたいな」という言葉を、ワード帳に貯めました。今回は歌もの芝居でもあるので、歌詞の中でもいろいろ網羅しています。メテオロイドって言いたいから、メテオロイドが出てくる歌詞を書こう、みたいな。」
――スペースオペラですか?
「5・6曲ありますけど、オペラというほどではない(笑)。スペース音楽劇です。」
――伊藤万理華さんは、上田さん脚本のドラマ『時をかけるな、恋人たち』で、クールなタイムパトロールを好演していたから、主役にキャスティングされたのでしょうか?
「確かにそれもありましたけど、いろんなインタビューを読んで、サイエンス・フィクションが好きなんじゃないかと思ったからです。それで祈るような気持ちでオファーしたら、実際に「SFが好き」と言ってくださったので「ああ、よかった」と思いました。宇宙ものって、宇宙で労苦に見舞われがちなんですけど、それに見舞われまくる人をやってもらいます。ご本人も脚本を読んで「今回は私、不憫系ですね」っておっしゃってました(笑)。」
――井之脇さんは上田作品だけでなく、コメディの舞台自体も初めての出演です。
「「宇宙ものに、どういう人を呼んだら化学変化的にハマるんだろう?」というのを考えたときに、井之脇さんは宇宙ガチ勢なパイロットっぽいと勝手に思いました。多分地上では言うことのない言葉……「航行軌道がそれてる!」とかの台詞が似合いそうで(笑)。どの役者さんを選ぶ時もそうなんですけど「この人から、こんな言葉を聞きたい」というのが、僕の場合は大きいです。」
――シシド・カフカさんのキャスティングも意外でしたが、実はシシドさんはヨーロッパ企画をよくご覧になってたそうですね。
「そうなんです。だから僕の作る作品をお嫌いではないはずと、お誘いする勇気を後押しされました。シシドさんは僕との掛け算があまり想像できない、まさに「未知との遭遇」という感じが強いので、宇宙を漂流する吟遊詩人をやっていただきます。」
――かもめんたるさんと男性ブランコさんが、前回の『鴨川ホルモー、ワンスモア』に引き続き出演されますが、お笑いの人たちと組む相乗効果は何かありますか?
「僕はお笑いが好きですけど、芸人さんと一緒に作品を作ると、僕が完全に(キャラクターを)描ききっていいのかな? という難しさを感じることがよくあったんです。でもこの2組は俳優としてもお上手なうえに、笑いを本拠地として戦って培ってきた、コント力のようなものをいかんなく発揮してくださる。(出演者)11人中4人が芸人というのはめずらしいですけど、今演劇のコメディを本気で考える時に、芸人さんと組むことは避けて通れない気がします。」
――上田さんはヨーロッパ企画旗揚げの頃から、SF色を全面に出したコメディを作り続けていますが、舞台でSFを見せる面白さはどこにあるんでしょうか?
「まず「SFでコメディをする」という団体自体が、少なくとも僕の周りにはなかったんですよ。演劇ってどちらかというと文芸の世界だから、理系的な要素……サイエンスの成分が、非常に足りてないなって(笑)。それだったら(理系の)僕が入る余地があるなあと思ったんです。」
――確かに上田さんの大きな売りになりましたよね。
「それと最近思うようになったのが、演劇は「嘘」が付けるんやなって。たとえば映画で宇宙ものをやろうとしたら、なかなか予算が大変だと思うけど、演劇だったらできる。」
――俳優が「ここは宇宙です」と言い切ったり、演出の見せ方次第で、いくらでも観客に「宇宙」を想像させることができる表現ですから。
「本当にそういうこと。やろうと思えばハリウッド映画級の話もできるから、それはすごく大きいです。」
――最近は映像でも上田さんの作品が増えましたが、舞台だからこそ味わえる上田ワールドの魅力とは?
「やっぱりコメディじゃないですか? 映像作品ってそんなに笑いばっかりを入れられないけど、舞台なら笑いに特化できるので。特に今回はオリジナルですからね。今までは原作✕上田成分みたいなカラーがあったんですけど、今回は僕の成分がかなり濃い目というか、原液みたいになると思います。」
――だとすると、純粋に笑いを求める人にもピッタリな舞台になりそうですね。
「もうそんな気持ちでやってますよ。「これぞSFコメディ」と言えるものを作ろうと。でも宇宙ものって、やっぱり簡単にはできないですね。地上の劇に比べると、いろんなことが大変(笑)。でも本当にあるエネルギーに満ちた、大気圏突破! みたいな作品ができるんじゃないかと思うので、演劇のコメディを観たことがないという人には、ぜひ劇場に来ていただきたいです。」
取材・文:吉永美和子
『リプリー、あいにくの宇宙ね』
■脚本・演出
上田 誠(ヨーロッパ企画)
■出演
伊藤万理華
井之脇 海
シシド・カフカ
石田剛太(ヨーロッパ企画)
中川晴樹(ヨーロッパ企画)
金丸慎太郎(ヨーロッパ企画)
野口かおる
浦井のりひろ(男性ブランコ)
平井まさあき(男性ブランコ)
槙尾ユウスケ(かもめんたる)
岩崎う大(かもめんたる)
▶▶オフィシャルサイト
|日時|2025/06/06(金)~2025/06/08(日)≪全4回≫
|会場|森ノ宮ピロティホール
▶▶公演詳細
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