2024/6/12
公演レポ
ジュディ・ガーランドの名前は知らなくても、『オズの魔法使』の物語や、その劇中歌『オーバー・ザ・レインボー』は、一度は聞いたことがあるのではないだろうか。本作、戸田恵子による一人舞台『虹のかけら ~もうひとりのジュディ』は、映画『オズの魔法使』のドロシー役で一躍世界のスターダムに登り、その後もハリウッドのミュージカル大女優として一世を風靡したジュディ・ガーランドを題材にしたものだ。
初演は2018年。前年2017年に還暦を迎えた戸田の生誕60周年記念作品として、三谷幸喜が構成・演出を担った。2019年には全国23か所のツアーを成功させて戸田の代表作の一つとなり、ついにこのたび、2024年6月にWeill Recital Hall(ニューヨーク・カーネギー・ワイル・リサイタルホール)での公演が決定。NY出発前には東京を皮切りにプレビュー公演が、NY公演後にはCOOL JAPAN PARK OSAKA TTホールほかで凱旋公演も予定されている。いよいよ始まる5年ぶりの本作上演に臨み、プレビュー公演第一弾の東京にて戸田が会見。続いて行われたゲネプロをレポート!
「泣いても笑っても俳優はわたししか出てきません」と戸田が言うように完全なる一人舞台。ステージ中央に立つ彼女の周囲には、ピアノ、ベース、ドラムの生演奏が加わる。ピアノは戸田の長年の音楽仲間であり、本作の音楽監督も務める荻野清子。ミュージシャンたちは燕尾服をキリッと着こなし、煌びやかながらも上品な衣装に身を包んだレディの戸田を音楽の波で包み込んでいく。
本作の主人公・ジュディは、ジュディ・ガーランドではなく、タイトルが示す“もうひとりのジュディ”。フライヤーに寄せた三谷のコメントによると、「映画『オズの魔法使』で全世界のアイドルとなった、天性のミュージカルスター、ジュディ・ガーランド。その人生は華やかさと哀しさが入り交じった数奇なものでした。しかしこれは彼女の物語ではありません。ジュディと同じ名を持ち、彼女の付き人として、専属の代役として、長年に渡って影のように寄り添った 一人の女性、ジュディ・シルバーマン。彼女の生涯を知る人はほとんどいません」。戸田はジュディ・シルバーマンの日記を手にし、シルバーマンのほうのジュディとなって心の内を読み上げていく。シルバーマンのジュディと、ガーランドのジュディは、同い年。2人が初めて出会った17歳から、20代、30代と年を重ねていくに合わせ大人びていく戸田の朗読の声に気づき、その繊細な表現にゾクッとした。名前は同じでも、光と影、表と裏、まったく違った人生を歩む2人のジュディ。「ジュディを愛し続け、そして憎み続けた、もう一人のジュディ」(三谷コメント)の日記からほとばしる言葉たちが、戸田の身体を通して客席へと鮮烈に届く。愚痴をこぼしてもいいところで笑顔になったり、泣いてもいいところで声色をやわらげたりと、戸田渾身の“もう一人のジュディ”の懸命さに心を奪われ、観ているこちらもあっという間に感情移入してしまう。
折々に挟まれる歌がまた素晴らしい。ステップを踏みながら歌詞のキャラクターになりきって歌う戸田を見ていると、ものすごくハッピーになれるのだ。“もう一人のジュディ”の目線で追うジュディ・ガーランドの生涯は激しく壮絶だが、そこには絶望ではなく復活と希望が、時にはユーモアだってある。歌われる楽曲には英語の歌も、日本語の歌もあるのだが、意味がよくわかる日本語の歌詞には思わずニヤッとくるフレーズもちらほら。戸田がまた、そこを絶妙に歌い上げてくるのがたまらない。客席で思わず体が動いてしまったら、戸田と一緒にリズムを取り、手拍子や拍手をぜひ贈ってほしい。ステージと客席の一体感は、特に歌のシーンで盛り上がりそうだ。
朗読や、ジュディ以外の戸田のセリフの背後に聞こえてくる効果音なども、聞き逃さないで楽しんでほしい重要ポイント。ピアノ、ベース、ドラム、3つの楽器以外の音色が次々に現れ、物語をいっそう彩っていく。ここに結構おもしろネタが潜んでいるのだ。その音はそう来たか!と、うれしくなるほどに。
このたびの再々演はNYカーネギーでの上演が大前提。カーネギーは劇場ではなく、コンサートホールであるため、「そこに持って行くために、ずいぶん三谷さんにもお知恵とお力をいただいてシンプルになりました」と戸田。「よりシンプルになったことで、自分で言うのもなんですが、ジュディ・ガーランド像がくっきりと浮かび上がってきたんじゃないかなと思っています。楽曲やストーリー、プロットはなに一つ変わっていないけれど、スタイルが変わったといいますか。よりハッキリと、観てくださるみなさまの頭の中で様々に想像していただけると思います。この歳でいうのもアレですが、ずいぶん大人のイメージになったんじゃないかと(笑)」と語る。
心に響く日記の朗読、ハッピーな歌と音楽、ときどきのユーモア。会見で、これまでと違う見どころを戸田は、「細かなところに三谷さんからのノートがたくさんありましたので、さらに深く、楽しく、おもしろくなりました」と明かしてくれた。どんなノート?とさらに詳しく聞くと、「より深く、より楽しく、よりおもしろくと、“より”が強いんです。5年前にも演じたのに、まだこんな発見があるのか、こんな発想ができるのかと、一つの作品なのにまだまだ掘り下げていけることを実感しました。“おもしろ部分”も含めて(笑)。またまた新しい引き出しを開けていただきましたね、三谷さんとのお仕事はそこも本当に楽しみ。わたしにこんなところがあるんだな、こんなことができるんだなと、味わいながら楽しい思いをしています」。
三谷と戸田のタッグである。安定の実力の上にも、さらに花咲く魅力の数々、最後の最後まで見せ場あり。ぜひ劇場で見届けてほしい。
取材・文=丸古玲子
撮影=宮川舞子
「虹のかけら ~もうひとりのジュディ」
■構成・演出
三谷幸喜
■音楽監督
荻野清子
■振付・ステージング
本間憲一
■出演
戸田恵子
■演奏
ピアノ:荻野清子
ドラム:BUN Imai
ベース:鈴木陽子
▶▶オフィシャルサイト
|日時|2024/07/05(金) 18:00
2024/07/06(土) 13:00
2024/07/07(日) 13:00
|会場|COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール
▶▶公演詳細
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