2023/12/1
インタビュー
【物語】
11歳のクリストファーが、屋根裏で一冊の本を見つける。それは、壮絶な第二次世界大戦下の街を1人でさまよい、生き延びた父・シュピルマンの記憶だった。1939年のワルシャワ。戦争が始まり、ナチス・ドイツによるユダヤ人迫害が激しさを増す中、ポーランド放送局の専属ピアニストだったシュピルマンは、家族とも生き別れ、破壊された街で何度も死の危機に直面しながら何とか生き延びる。が、1944年11月、ついにドイツ国防軍の将校ホーゼンフェルトに見つかってしまう…。
「ワクワクとドキドキとハラハラと、えらいこっちゃ~!思ってます(笑)。そもそも僕は、今までやったことないとか、できないことってなると燃える性格なんですよ」。世界の小曽根をして「挑戦しがいのある作品」とまで言わしめた今回。一体どんな舞台になるのか。
小曽根は舞台上にピアニストのシュピルマンとして登場する。彼が弾くのは映画でもキーとなったショパンの「ノクターン第20番嬰ハ短調『遺作』」とシュピルマン自身が作曲した曲。「僕が弾いてはいるけれども、シュピルマンが弾いているような演奏が出来たら」。この2曲以外、すべて即興演奏だ。小曽根の音楽で物語とテーマが展開していく、非常に重要な役割を担う。「2人のセリフの声のトーンやダンスもある。彼らの動きを視野に入れて弾きつつ、その瞬間のお客さんのエネルギーも含めて、そこに起こる化学反応を自分の中で感じながら音を紡いで行かないと。だから今、僕はしゃべらないけどセリフを全部入れている最中です。知ってないと音楽を付けていけないから」。
音楽は持田と小栗と呼応し、彼らは登場人物のセリフを語りながら身体表現で受け、発信する。それは観客の感性を刺激し、一人一人の中に物語世界のイメージを想起させる。ワルシャワの街が、シュピルマンの心の動きが、そしてさまざまなテーマがそこに立ち上がってくるだろう。「うまくいけば、三次元四次元空間にお客さんを誘える。僕らはそれを目指して頑張ろうと話しています」。
ジャズのセッションにも似た、難易度の高い舞台作りに挑む3人と、その全体を俯瞰しながら導く演出の瀬戸山。通常の芝居の舞台にはない“おもしろさ”が生まれるはずだ。これは、世界水準の彼らだからこそ出来る作品。持田と小栗は「一音鳴らすだけで世界が見えるすごい人。憧れです」と、声をそろえて小曽根推し。「絶対に今、この瞬間が人生のターニングポイントと言える大切なところにいる」と、小曽根との出会いに感謝と学びの日々だ。小曽根もまた2人の豊かな感性や卓越したダンスに触れ「この人ら本物や、と思ってうれしくて。同志として舞台に臨めることが光栄なピカピカの2人」と喜び、互いに信頼と熱いエネルギーの交換を楽しんでいる。そして「目指すものは“本物”です」。
ファンには「これまで聴いたことのない音色で、おそらくまた新しい小曽根真を観ていただけるんじゃないかな」とメッセージ。そしてみなさんへ。「見たこともないワルシャワの街が見れるといいですね。立ち止まって考えて、自分がここに生きているという奇跡を、自分がこの世界を作っているひとりなんだということを、みなさんが実感できるようなエネルギーをそこに出すから、劇場で、思いのままに感じてほしい。真剣勝負で紡いでいく芝居になると思うので、そのエネルギーは多分みなさんに届くと思います。『なんか、よかったなぁ』って、みなさんに感じてもらえたら、僕はうれしいなぁ」。
その時だけその空間に誕生する世界。2度と同じものは観られない。高度な感性のセッションから生まれる劇的で稀有な瞬間を、あなたもそこにいて体感し目撃してほしい。
取材・文/高橋晴代
舞台「ある都市の死」
■原作
・ウワディスワフ・シュピルマン(佐藤泰一 訳)『戦場のピアニスト』(春秋社刊)
・クリストファー・W.A. スピルマン『シュピルマンの時計』(小学館刊)
・ヘルマン・フィンケ(高田ゆみ子 訳)『「戦場のピアニスト」を救ったドイツ国防軍将校:ヴィルム・ホーゼンフェルトの生涯』(白水社刊)
■上演台本・演出
瀬戸山美咲
■出演
持田将史(s**t kingz)
小栗基裕(s**t kingz)
小曽根 真
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|日時|2023/12/12(火)~2023/12/13(水)≪全3回≫
|会場|サンケイホールブリーゼ
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