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パイプオルガンでポップスを弾く
開拓精神が魅力のオルガニスト

2023/11/29

インタビュー

『クリスマス・オルガンコンサート』山口綾規

高さ10メートルを誇るパイプオルガンの音色と、美しいソプラノの歌声で彩る「クリスマス・オルガンコンサート」。住友生命いずみホールで毎年行われるこの舞台に、4年連続でオルガニスト・山口綾規が出演する。王道のクラシックから、映画『タイタニック』『アナと雪の女王』の曲、さらに今年優勝フィーバーに沸いた“アレ”の曲まで登場する趣向を凝らした構成。長年国内外で活動し、NHK連続テレビ小説『エール』の音楽指導も務めた山口に、「楽器の王様」と言われるパイプオルガンの魅力や、今回のコンサートについて聞いた。

――住友生命いずみホールのパイプオルガンの印象はいかがですか?

「残響が美しいですね。鍵盤からパッと手を離した時、音がフワッとなって消えるところなど、弾いている私も気持ちいいですが、歌っている方はもっと気持ちいいだろうなと思います」

――今年はアルゼンチンのソプラノ歌手、マリア・サヴァスターノさんとの共演。予定曲にミュージカル『エビータ』の「アルゼンチンよ泣かないで」などが入っていますね。

「この曲は有名ですし、私も弾いたことがあります。マリアさんは世界中のオペラハウスで歌ってらっしゃる素晴らしい経歴の方で、初めて共演しますが、どんなパワーを持ってらっしゃるのだろうととても楽しみです。アルゼンチンはタンゴ以外にも面白い音楽がある国で、私自身2回訪れたことがあり、地球の裏側ですがクセになりました(笑)」

――セットリストにはほかに、バッハとシューベルト、両作曲家の「アヴェ・マリア」、「くるみ割り人形」メドレーなどクリスマスにぴったりの曲が並んでいます。

「クリスマスにはクラシックもポピュラーも名曲がいっぱいあるんですよ。パイプオルガンというと、なかなか生で聴く機会が少ない楽器だと思うので、前半はまず王道のクラシックのレパートリーを楽しんでいただき、後半はちょっとくだけた感じになればいいなと。今年は大阪にとって特別な年で、〝アレ〟も演奏しようかなと思っています(笑)」


――2020年の同コンサートでも、NHK連続テレビ小説『エール』で注目を浴びた古関裕而さん作曲の『六甲おろし』を演奏されましたね!

「そうです!あの時はまだコロナの真っただ中で、お客様は声を出せなかったですが、今年は会場の皆さんと一緒に楽しめる何かができればうれしいです」


――映画『タイタニック』より「My heart will go on」、『アナと雪の女王』より「レット・イット・ゴー!」なども予定されています。

「やはり知っている曲があるのとないのとではコンサートの印象も違いますし、『アナと雪の女王』は比較的新しいディズニーの曲で、子どもたちまでストーリーを知っているということからも選びました。オルガンコンサートって、初めて足を運ぶという方が必ずいるんですよ。ピアノは聴いたことがあっても、オルガン自体を知らない若い方も多い。ですから名曲を入り口に、ホールの壁や空間が震えるようなオルガンの響きを、ぜひ生で味わっていただきたいです」

――ピアノもオルガンも鍵盤ですが、オルガンには足の鍵盤がたくさんあり、また違った高度な技術が必要に感じます。

「足をこれほど使うのは特殊ですよね。ただ、足でも弾くことで、手はラクなんです。ピアノだとこうやって(遠くまで手を伸ばす)8オクターブまで跳躍がありますが、オルガンは5オクターブで、低音は足鍵盤を使います。それにオルガンは鍵盤を押しておくと、ずっと音が伸びるという違いもあります」


――そういう意味でも、聴いているときの体感が違うのですね。山口さんはオルガンの魅力に惹かれて、早稲田大学政治経済学部を卒業後、東京芸術大学音楽学部に進学し、オルガンを学ばれた経歴をお持ちです。

「もう30年ほど前の話なのですが、大学に入り、時間に余裕があるなかで色々なものに触れ、出会ったのがパイプオルガンでした。余談ですが、何年か前に早稲田大学の同窓会組織でパイプオルガンを弾いた時、総長に『すいません、(在学中勉強したこととは)関係ないことをやっていて』とご挨拶したら、『早稲田の卒業生がいろんな分野で活躍しているのが大事なんですよ』と優しいお言葉を頂きました」


――2023年10月には、日本人初のシアターオルガンCD『コンニチハ・フロム・サンディエゴ』を発売されました。これは音楽家として大きなトピックスに?

「実は中学時代からシアターオルガンをいつか弾きたいと思っていたので、『やっと!』という思いです。シアターオルガンは映画に音がなかった時代、映画館でオーケストラのサウンドを再現するために演奏された楽器で、打楽器ともつながっているんですよ」


――オルガンにですか!?

「はい。鍵盤を触ると木琴や小太鼓が鳴るというように。日本にはほとんどない楽器なのでアメリカに渡り、いろんなツテを頼って、ようやくCD収録が叶いました。私自身50歳になり、職業人生も折り返し点を過ぎたところ。ぜひ今後残していきたいものとして、シアターオルガンに力を注ぎたいです」


――やはりずっとオルガニストとして開拓のお気持ちがありますか?

「日本のパイプオルガンでポップスを弾き始めた、というのはちょっと大きな功績だと自負しています(笑)。もちろん教会でそんなことはしないですよ。今でこそコンサートでポップスを弾くことは普通になりましたが、20年ほど前は弾かせてもらえない空気感がありました。このコンサートでも、前半のクラシックの部、後半のポップスの部で、音色の違いから異なる楽器のように聴こえると思います。そのコントラストをぜひ楽しんでください」

取材・文:小野寺亜紀

    

クリスマス・オルガンコンサート

|日時|2023/12/23(土) 12:00 / 16:00
|会場|住友生命いずみホール

▶▶ 公演詳細

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