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【舞台「ある都市の死」】shoji とOguriが小曽根真と描く 戦禍を生きたピアニストの人生

2023/11/10

取材レポ

舞台「ある都市の死」

 世界的ダンスパフォーマンスグループs**t kingz(シットキングス)のメンバーで、俳優としても活動の幅を広げている持田将史(shoji)と小栗基裕(Oguri)が、世界的ジャズピアニストの小曽根真と共演する舞台『ある都市の死』。題材は2002年に映画公開され、アカデミー賞3部門受賞など高い評価を得た『戦場のピアニスト』。そのタイトルの原題が『ある都市の死』だ。主人公は壮絶な第二次世界大戦下を生き抜いたポーランドのピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマン。そして敵国ドイツの将校ながら、シュピルマンを救った・ホーゼンフェルト、さらに、シュピルマンの息子・クリストファー。今作に登場する3人の人物を演じ分け、ダンスでも表現するという持田と小栗に話を聞いた。

 物語は、クリストファーが11歳の時、屋根裏で一冊の本を見つけるところから始まる。それは戦火の街を1人でさまよい、生き延びた父・シュピルマンの記憶だった。1939年のワルシャワ。戦争が始まり、ナチス・ドイツによるユダヤ人迫害が激しさを増す中、ポーランド放送局の専属ピアニストだったシュピルマンは、家族とも生き別れ、破壊された街で何度も死の危機に直面しながら何とか生き延びる。が、1944年11月、ついにドイツ国防軍の将校ホーゼンフェルトに見つかってしまう…。

 この作品について小栗は「戦争を問い、人種差別を問い、家族の物語でもあり、また体制や組織の中にいる人間の弱さなど、いろいろなテーマが何重にも重なっている」と話す。持田は「戦争の作品は軍人が戦いに行く物語が多いけれど、シュピルマンは戦っていない。これは一人の人間が生き延びた作品であって、困難に立ち向かって生きるという普遍的なテーマを持った、すごく大切な物語だと思う」と続ける。

 この物語で主人公が生きた壮絶な戦禍を、ピアノと言葉とダンスで一体どうやって描くのか。多忙な3人の稽古は、7月から月1回のペースで始まった。上演台本・演出の瀬戸山美咲と2人は、朗読×ダンスで見せた『My friend Jekyll(マイフレンドジキル)』に続き2回目のタッグ。「まだ、瀬戸山さんと探っている状態」と言う。そして小曽根。ピアニストのシュピルマンとして舞台上に存在し、戦争で破壊されていく街の魂もピアノで表現するという。これまで井上ひさしの『組曲虐殺』など、演劇との共演でも評価を得ている小曽根だが、「自分の想像の枠を超える新しい作品に出逢えるかもしれないという期待と、シュピルマンという役を自分の音楽がどこまで表現できるのか」と出演を決めた。

 稽古場では「ちゃんとやらないと、という思いが強くて、何度も何度も台本を読み込んで準備した」という2人に、小曽根は「それを一回フラットにして、一緒にゼロから作ってみよう」と提案し、2人が台本を音読するのに合わせてその場で生の音楽を入れ始める。「そこに僕たちも引っ張られるように読むようになって、そうしたら同じ波長が少しずつ生まれて、作品が見えて来るような感じで。初めての経験でした」と持田。「もっとお互いに反応し合って、その場で生まれたものでやっていきたい」と言う小曽根との稽古は、「まさにみんなでセッションしてる感じ」。小曽根のセッション感、呼応する2人のダンス、それを尊重し大切に稽古を進める瀬戸山。世界的なアーティストたちの感性が触発され、ワクワクするような化学反応が起こり始めている。

 「一音鳴らすだけで世界が見えてくる。本当にすごい人」(持田)。「すごいライブを見せられて、でも会うとめちゃくちゃフランク。そのギャップや格好良さが憧れ」(小栗)。今、2人の小曽根推しが止まらない。「すごく大切な時間を過ごしている気がしています。あとで振り返った時、絶対に今この瞬間が自分のターニングポイントと言えるところにいると」。小曽根との出会いは自らを見直す機会となり、多くの学びを得ているようだ。

 「これまで観てきたs**t kingzのダンスが、小曽根さんの素晴らしいピアノと組み合わさった時どういうものになるのか。観たことのない2人のダンスが観られると思うので、それを是非体験してほしい」(小栗)。「シュピルマンは音楽があったからこそ生き残れたんじゃないかなと思います。エンターテインメントは人生にとって大切なもので、それが生きることにつながっていく。丁寧に描いて、そう感じてもらえるきっかけになったらいいなと思います」(持田)。

 10月25日に開催されたダンサー史上初となるs**t kingzの武道館ライブを終え、彼らはワルシャワへ飛ぶ。「ちゃんと風景を見て作品を描きたい。だから、また今とは違う気持ちで次の稽古に臨めると思っています」。社会派演劇が得意な瀬戸山のもと、3人の卓越した感性のセッションが生む稀有なパフォーマンス。2度と同じものは観ることができない、そのビビッドで劇的な瞬間に立ち会いたい。

取材・文/高橋晴代
 

 

舞台「ある都市の死」

■原作
・ウワディスワフ・シュピルマン(佐藤泰一 訳)『戦場のピアニスト』(春秋社刊)
・クリストファー・W.A. スピルマン『シュピルマンの時計』(小学館刊)
・ヘルマン・フィンケ(高田ゆみ子 訳)『「戦場のピアニスト」を救ったドイツ国防軍将校:ヴィルム・ホーゼンフェルトの生涯』(白水社刊)
■上演台本・演出
瀬戸山美咲

■出演
持田将史(s**t kingz)
小栗基裕(s**t kingz)
小曽根 真

オフィシャルサイト
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大阪公演

|日時|2023/12/12(火)~2023/12/13(水)≪全3回≫
|会場|サンケイホールブリーゼ
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