2023/11/8
インタビュー
――永井さんを迎えて、これから再度、稽古に入られるそうですね。
宅間「新たに稽古をし直すことになりました。永井君はタクフェスの『わらいのまち』に出ているし、個人的なつきあいもあるので、結果的には良かったなと。ここを越えれば、大阪公演から始まる残りの公演は非常にいい形で迎えられるんじゃないかと前向きな気持ちではあります」
――今までのキャリアの中でこういうことは?
宅間「ないですよ、人生初です(笑)。禍を転じて福と為すで、結果としていい方向に向かえばいいなと」
――先立ってはヒロインの舞子役も事情でキャストの方が降板し、入山さんとダブルキャストの高柳明音さんは急遽、お稽古されたそうですね。
入山「10日間ぐらいはありました」
宅間「入山さんと高柳さんが舞子をやってくれることになって救世主だと思いました。入山さんは稽古に来た初日からセリフが『入っています』と」
入山「覚えてきました」
宅間「入山やるねぇ!と、めっちゃ評価が高かったんだけど、主役の交代のことで薄れつつある(笑)」
――(笑)。でも大変だったのではないですか。
入山「そうですね」
宅間「あんまり苦労している感じには見えなかったんだけど(笑)」
入山「喜んでいいのか悪いのか(笑)。初演の映像を見て、台本を読んで、自分のシーンだけに集中しました。皆の稽古を見ながらこういう展開になるんだと。新しい形でお芝居したなという感じはありますね」
――永井さん演じる高槻純二の恋人で、シェアハウスの住人・舞子は要の役ですし、どう作り上げていったのですか。
宅間「初演の映像を参考にしてもらったんです。でも納得していない部分もありましたし、初演をなぞることはしたくなくて。僕はいつも稽古前に、丁寧に話をしてから始めるんですが、とにかく今回は時間がない。でも僕が言いたいことや、やってもらいたいことを彼女はなんとなく分かっていた。少し煽るようなことは言いましたけど」
入山「覚えてないです(笑)」
宅間「舞子は初演で田畑智子さんが演じていて、評価が出ちゃっているから比べられてしまう。上手い下手より、感情的にバーンといくシーンが多いんで、集中力とあとは自分たちの意識次第だと。二人とも責任感が強いので、それには応えてくれています。舞子はコミカルなシーンがあるんですが、『あれ、入山ってこんな感じだったっけ?』と思うぐらい面白いことをやってくれる。コミカルさがはまるかなと思っていたら、はまったので意外でしたね。今回、入山さんにはあまり何も言ってない気がする」
入山「言われてないですね(笑)。今のところ、コミカルなシーンも含めて楽しんでやっています。昔だったら、できないことが多すぎて楽しいシーンもきつかったんですよね。今は楽しいことを楽しくやれているなと感じます」
――タクフェス10周年で、満を持して再演する理由は?
宅間「僕にとっては思い入れがある作品なので、10周年に自信作をと。言ってしまえば、どれも自信作なんですけど。今回を見逃すとあと10年は見られないよというぐらいの思いでできたらなと思います」
――宅間さん演じる高槻耕太郎は、純二の息子で60年後の未来からやって来ます。この作品を書いたきっかけは?
宅間「初演の前の年に離婚しまして。息子がいたんですけど、なかなか会わせてもらえなくて。彼に会いたいという気持ちがすごくあったので、初演では僕が純二役で、息子の耕太郎(中村梅雀)が会いにくるという設定にしたんですね。僕は息子のチビのことをものすごくアイラブユーだよと思っていたのを形にしたかったわけじゃないですけど、息子への思いが色濃く出ている。息子がお父さんのために命を懸けるという、当時の自分からすればいやらしい話なんですけど(笑)。息子に僕が愛していたことを分かってほしいなという思いが軸になっていたんです」
――なるほど。セリフがひと際、実感を伴うものだったので、何か個人的なことがあるのかなと感じました。
宅間「3、4年前から『晩餐』を再演するのは、10周年でやろうと決めていたんですが、今年、稽古が始まる1か月ぐらいに前に父が亡くなりまして…」
――そうですか…。
宅間「すごい巡り合わせだなと。僕が息子役をやるという今年に自分の父を亡くした。また、面白いのは、どこの家庭でも多いと思うんですが、死んでから知らなかった事実が出てきて、それが物語とリンクしているんですよね。そこを計算して、自分の父に照らし合わせて書いたつもりは全くなくて。当時はチビのことをずっと考えていたんで、あんまり父のことは考えてなかったんですよ(笑)。10年の巡り合わせで、息子のことを書いたつもりが、父と自分の話になっていたという。あんまりこれを言うと、僕の個人的な芝居になるので、話してこなかったんですけど。10年の再演で不思議な縁を感じています」
入山「私もタクフェスに出していただくのは3回目なんですが、いつも何かしら人生とリンクしているんです。実は私も父が昨年亡くなったんですよ。それを経て感じることがあるなと思いました」
――それはつらいですね…。演じる上で影響が大きいでしょうね。
宅間「今で2公演終わったんですが、リサーチして役づくりする必要がない。お客さんも息子と父、息子と母と色んな目線で見られると思うし、かぶると思うんです」
入山「私は大阪公演で初めて舞子を演じるので、やってみないと分からないですね」
宅間「稽古の状況では、今回すごくはまっているんですよ。ここまではまるとは思わなかったな(笑)」
入山「フフフフッ。何ででしょうね」
宅間「入山さんはパブリックイメージとは全然違うんですよ。シュツとしたクールなイメージなんだけど、芝居に対する姿勢も含めて、すごく熱い。どっちかと言うと、くどいぐらい(笑)」
入山「そんなことないです(笑)」
宅間「精神的には関西人に近いんです」
入山「近くはないです(笑)」
宅間「自覚がないのが一番、面倒くさい(笑)。入山さんは稽古場がホームで、最初の日に『皆、引き連れて飲みに行くぞ』みたいな勢いです」
入山「自分でもびっくりしたんですけど、稽古の初日に稽古場で平気で寝そべっていて(笑)。『なんで初日からそんな感じなの?』と共演者に言われるぐらいアットホームなんですよね」
――アットホームといえば、入山さんは現在、メキシコ在住ですが、何か人生観が変わりましたか?メキシコ人は「今日と明日をどうハッピーに生きるか」という考え方で、日本人は老後など将来を考えて不安になりすぎると聞いたことがあります。
入山「その通りです。老後のことを言っている人には会ったことがないです(笑)。皆、金曜日にどう仕事を抜けてパーティをするかということに集中している(笑)。その明るさにめちゃくちゃ影響されていますね。火事場の馬鹿力じゃないですけど、その場で対応しなきゃいけないことが急に出てくるので、その能力がめちゃくちゃ身に付いたなと」
宅間「まさに今回の公演にピッタリだね(笑)」
入山「いつ死ぬか分からないので、今を楽しまないと」
――宅間さんはいかがですか。
宅間「自分がこの仕事をしているのは、これをやりたいと思って生きているから。毎回そうですけど、手を抜いてやることはないじゃないですか。全力でやる。色々やってきて、チャンスももらえたし、『あれとこれをやってないから死にたくない』というよりは、いつ死んでも大丈夫。楽しむより一生懸命やって、お客さんに喜んでもらい、結果を出した時に、仲間とも絆が生まれる。毎回、ちゃんと生きているつもりなんです」
――ますます、大阪公演が楽しみになりました。
入山「タクフェスにいらしたことがある方は分かると思うんですけど、泣いて笑って心が温まる作品です」
宅間「演劇に興味がない方が思っている演劇の概念は覆ると思います。関西の人は『新喜劇』で舞台を見慣れていると思うんですけど、芸人の石田靖さんがタクフェスは『おしゃれな新喜劇です』と言っていて」
入山「アハハハッ、面白い」
宅間「舞台ってこんなに面白くて自由なんだと思ってもらえると思います。入門編だと思って、気楽に、ちょっと高い新喜劇だと思って(笑)、遊びに来てください!」
取材・文 米満ゆう子
タクフェス第11弾『晩餐』
|日程|2023/11/16(木)~2023/11/19(日)≪全5回≫
|会場|シアター・ドラマシティ
■作・演出
宅間孝行
■出演
永井大
入山杏奈(Wキャスト) 高柳明音(Wキャスト)/
森迫永依 浜谷健司 /
広田亮平 大薮丘 櫻井佑樹(劇団EXILE)
中野恵那 菅原ブリタニー /
加藤貴子 / 宅間孝行
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