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【村松崇継】シンプルに音楽を届けたい
愛するピアノと共に原点回帰

2023/12/4

インタビュー

村松崇継 コンサートツアー Piano Sings 2023

ピアニスト・作曲家として活躍する村松崇継が12月15日(金)にコンサート「Piano Sings 2023」を開く。5歳からピアノを始め、高校在学中にオリジナルソロアルバム「窓」でデビュー。大学生の時に映画「狗神」の劇伴音楽を担当し、その後、「64-ロクヨン-前編」「護られなかった者たちへ」などで日本アカデミー賞優秀音楽賞を3度受賞。ジョシュ・グローバンや山内惠介ら多くのアーティストに楽曲提供するほか、舞台、テレビドラマの音楽も手掛け、その才能はとどまるところをしらない。コンサートに向けた思いや、楽曲に込められた驚くべきエピソードなどを話してくれた。

――まず、今回のコンサートの構成を教えてください。

「コロナ禍でコンサート活動ができなくて、大阪でのコンサートは3年振りなんです。映画やドラマの作曲や楽曲提供をしていますが、もう一回、自分の原点に戻りたくて。最新の楽曲の数々を、僕がピアノで演奏するという本来のスタイルでお届けします。演奏者はパーカッショニストと僕だけというシンプルな構成です」

――作曲活動とコンサート活動をバランス良くすることが大切なのでしょうか。

「たくさんオファーをいただくとすごく嬉しいんですが、例えば、歌手の方のレンジをふまえたり、映画の場合は、監督の感性に合わせての曲づくりなんです。本当に自分が書きたいものとはまた違ってきますよね。なかなか時間がないんですけど、自分のオリジナル作品を書きつつ、演奏を年に一回はやって、原点に帰るというのがライフスタイルに合っていると感じています」

――子どものころから五線譜を日記代わりに作曲をされていたそうですね。

「文才がないので(笑)、絵日記のように作曲していた時代がありました。普段の生活の中でも、歩いている時に自分の頭の中で音楽を鳴らしてイマジネーションを膨らませているんです。スーパーに行く時はスーパーに行く曲。ジムでワークアウトする時はその曲を作っています」

――それが当たり前なのですね。

「中学校ぐらいから癖になっていて、自分のテーマを流すといいますか。失恋したり悲しいことがあったりしても悲劇のヒーロー・ヒロインのように自分を演出する。第三者として客観的に自分を見ているんですよね。ちょっと引きますよね(笑)?」

――いいえ、そんな才能はないから羨ましいです。これはいいなと思ったら楽譜に書き起こすのですか。

「たまにいい名曲が生まれるんですよ、キターッみたいな。そういう時は携帯に歌って録音します。最近、ジムで思いつくことが多くて、急いで走って帰ります」

――そうやって日々過ごせるのは芸術家ならではですね。映画音楽の場合はどうするのでしょうか。

「監督の感性に沿って作るんですが、自分ではあっちのほうがいいのに、これで大丈夫?と思うこともあるんですよ。でも、出来上がると勉強になる。駆け出しのころは、『なんで、ここにこの曲?』とモヤモヤしたこともあったけど、30歳を超えて、過去にモヤモヤしていた作品をもう一回見直すと、なるほど監督はこういう意図だったんだと理解できるようになるんです。大人になったんでしょうね。今回、コンサートでやる映画やドラマの楽曲は、自分でもいいと思って作ったものが、素晴らしいと採用されて、いい形で仕上がった作品ばかりです」

――イギリスのボーイソプラノグループ、リベラが歌うアニメ映画『火の鳥 エデンの花』のエンディングテーマ『永遠の絆』を作曲されましたが、これはオファーがあったのですか。

「もともと作っていた曲なんです。リベラのプロデューサーのロバート・プライズマンが亡くなって追悼の思いを込めて作っていたら、お話がきたんです。ちょうど出来上がってきた音源が『あれ?これ、めちゃくちゃ「火の鳥」のエンディングにふさわしい』というミラクルが起きまして。手塚治虫さんの言いたかったことを包み込んでいて、プロデューサーをはじめ皆いいと。こんなことはなかなかないですね。これもご縁です。もともとはピアノで作っていた曲ですので、本来の原石みたいなものをコンサートで出せるんじゃないかと思っています」

――山内惠介さんの『こころ万華鏡』を作曲されていますが、演歌もお聴きになるのですか?

「父が民謡や演歌が大好きだったので、結構、好きで小さいころから聴いていましたね。山内さんは色んな側面を持っているエンターテイナーで、演歌の枠を超えてはじけられる人。山内さんを一曲の中で盛り上げちゃおうと。松井五郎さんが後から歌詞を付けてくださったんですが、今の世界情勢や日本は元気がないので、盛り上げたい。山内さんが歌うことで変わるよねと。コンサートは山内さんバージョンとは違うんですが、ノリノリではじけた感じになると思います」

――コンサートでは即興コーナーもありますね。

「お客さんからテーマをいただいて、即興で演奏します。コンサート前に用紙を配って、休憩中に回収し、僕がピックアップして、会場のお客さんとやり取りした上で作ります。関西では『私の花粉症』というリクエストがあったりして(笑)、結構、難易度が高いんですよ」

――今まで関西で一番大変だったリクエストは?

「『ボケとツッコミ』ですね。ピアノで一人コントをしてくださいと(笑)。大変でしたけど頑張りました」

――吉本新喜劇調なのでしょうか(笑)? 聴いてみたかったです。ほかの地域ではそんなリクエストはないのですか?

「ないですね。『夕焼け』とか無難なものです(笑)。関西で即興が鍛えられたので、いつも楽しみです」

――村松さんの楽曲『紙について思う僕のいくつかのこと』は、タイトルが小説みたいですが、何を思って書かれたのですか。

「高校生のころ、ノートを買う時に普通のノートを買うか、60円ほど高い茶色っぽい再生紙のノートを買うかでコンビニでずっと悩んじゃって。そこから環境破壊や森林破壊、60円の差がどれだけ意味があるんだろう、どれだけ森林伐採されなくなるんだろうというテーマが8小節ぐらい浮かんできたんです」

――クラシックやジャズが入った壮大な曲ですよね。

「最終的には60円が大事なんだと壮大な大地を描くように曲で伝えるんです。最近はそのいきさつを話すようにしているんですけど、タイトルだけだと分からない。今の話をふまえてコンサートでも聴いてもらえれば嬉しいです」

――心して聴きます。『The Magic is Gone』もジャジーで素敵な曲ですが、こちらは?

「魔法が解けてしまったという意味で、コンサートでもよく話しているんですが、30代の時、クリスマスデートの時に表参道のみずほ銀行の前で18時半に待ち合わせをしていたんです。18時20分ごろに行ったら、18時22分に「今日は行けません」と携帯にラインが一言だけ入ったんですよ。もう少し待ってみてもそこから何もないんです。『どうしたの?何か悪かったですか』というメッセージを送ったら、ブロックされて送れないんですよ…」

――ひどいですね…。

「たった15分の間にラインがブロックされてしまった。魔法が解けてしまったという曲なんです。腹が立つというよりも、呆然と立ちすくんじゃって。プレゼントも買ってお店の予約もしている。それ以来、その人の居所すら分からないんです。その思いを伝えたいと毎回、弾き続けています(笑)」

――ある意味で聴きどころですね。ところで、連続テレビ小説『だんだん』の劇中歌で、竹内まりやさんも歌い有名になった『いのちの歌』ですが、年々、感じ方が変わってきましたか。

「弾くごとに毎回違う感じがしますね。作った当初は32歳だったんですけど、その後に父が逝き、親友が亡くなったり、昨年、愛犬が亡くなったりして命の重みや思うことも違いますね。色んな発見があり、色んなことを教えてもらえるというか。まさか自分の代表曲になるとは思っていなかったので、すごく不思議なご縁があるんだなと。僕も45歳になって、いまだに独り者で、このままずっと一生一人だと思うんですよ」

――いえいえ、それは分からないです(笑)。

「ここは笑うところじゃないですよ(笑)。一日一日をやっぱり大事に生きなきゃと。いつ、何が起こるか分からないということを思う年齢になったというのはありますね」

――新しいワンちゃんは迎えないのですか?

「もう迎えちゃったんです、2匹も。両手に花です。ほんと寂しくないですし、絶対裏切らないですから。魔法は解けないです(笑)」

――それは良かったです。新しいワンちゃんをテーマにした曲はあるのでしょうか?

「まだです。でも、これから生みます(笑)」

――期待しています。最後にメッセージをお願いします。

「大阪は久しぶりで、もう皆さんに忘れられかけているかもしれません(笑)。自分の愛するピアノと共にシンプルに音楽を届けたいと思っているので、ぜひ、来ていただけたら嬉しいです」

取材・文 米満ゆう子

 

村松崇継 コンサートツアー
Piano Sings 2023

|日時|2023/12/15(金) 18:30
|会場|東大阪市文化創造館 ジャトーハーモニー小ホール

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