「自己肯定感の高い」竜星涼が
社会に馴染めない青年を演じる面白さ

　派遣会社でピエロの仕事をしている青年・太郎（竜星涼）と、道端で彼の手品を見て家までついてきた老婆（高橋惠子）。二人の不思議な共同生活が始まり――。劇団「はえぎわ」を主宰し、岸田國士戯曲賞も受賞したノゾエ征爾が、高齢者施設十数箇所を回り2010年に生み出した舞台が、新しい豪華キャストで4度目の上演を果たす。ノゾエは「二人の奇妙な共同生活に家族や同僚たちが巻き込まれるなかで、老いや進化というテーマに触れていく、人間賛歌の物語です」と解説する。太郎はコミュニケーションが苦手で社会に馴染めず、ギリギリの生活を送っている人物。この役を竜星涼にオファーした理由について、「竜星くんは健やかな明るいイメージがある、とても好きな俳優さん。太郎との距離は遠いと思うのですが、作品が新しい境地へいくためにその遠さが欲しかった」と打ち明ける。

　ドラマ『スタンドUPスタート』で主演するなど活躍が続く竜星は、自身を「信じられないくらい自己肯定感が高いタイプ」と笑い、「太郎とは正反対の性格だと思うのですが、そういう僕にこの役を託してくださったノゾエさんの心意気ある船に乗って、一緒に冒険したいです。それが僕の成長にもつながると思うし、一生懸命“今”を生きられたら！」と意気込む。

　太郎を心配する兄の晴郎役を演じるのは藤井隆。もともとノゾエが演じていた役で、「藤井さんの突飛なエネルギーや瞬発力、普段持ってらっしゃる優しさがこの役には必要だと思いました」とノゾエ。藤井は「絶対思い入れのある役だと思いますし、『藤井がこの役で良かった』と思っていただけるよう、命を懸けてやろうと思います。ノゾエさん自身、人に対する想いや優しさが溢れていて、それが台詞にも出ているので、『こういう優しさを忘れていた』と、僕自身教えていただけるのでは」と期待を寄せた。

シンプルかつ斬新な演出で
観客の想像力を引き出す

　ノゾエ征爾の作品には初出演の竜星と藤井。竜星は、「生きていればぶつかるであろうことを、ユーモアを交えながら描かれている。黒板とチョークでお芝居を展開していくのも面白いですし、お客様も一緒に想像しながら作り上げていく作品。今の時代に皆さんが何を感じ取って帰ってくださるのか楽しみです」と、テーマの深さや、役者がチョークでモノや感情を書き示す演出についても触れた。

　また藤井は、「年を重ねていくと体の調子が悪くなりますよね。それはこういうことなのでは…、という一つの仮説というか答えを、物語の中でノゾエさんが出してらっしゃる。僕はそんなふうに考えたことがなかったので非常に面白いと思ったし、ぜひいろいろな年代の方に観ていただきたいです」と熱くアピールした。

　藤井と竜星は2020年に舞台『大地』で共演。当時楽屋で藤井が竜星に「2個入りのパンのうち1個をもらった」というエピソードも披露。「そうやってヒョイと飛び越えてくる可愛い人で、太郎も愛らしい」と、藤井が竜星を見る眼差しは温かい。竜星も20歳以上年上の藤井を、「小さい頃からのスター。演劇では何を起こすか分からない爆発力があって刺激をもらえます」と信頼している。「演出家と役者が対等に話をできることが演劇の創作では一番大事」というノゾエのポリシーのもと、自然にコミュニケーションがとれているという三人。東京公演を経ての京都や岡山での上演に、「完全に仕上がっていると思うので、ぜひお越しいただけたらと思います！」と、藤井が作品の“進化”を約束した。

取材・文：小野寺亜紀
撮影：西木義和

京都公演

｜日時｜2023/09/30(土)～2023/10/01(日)≪全3回≫
｜会場｜京都劇場
▶▶公演詳細
　

岡山公演

｜日時｜2023/10/11(水)～2023/10/12(木)≪全2回≫
｜会場｜岡山芸術創造劇場 ハレノワ 中劇場
▶▶公演詳細

＼関連記事はこちら／