2023/4/14
公演レポ
劇団☆新感線の『ミナト町純情オセロ~月がとっても慕情篇~』大阪公演が開幕した。原作は部下イアーゴーの計略で破滅の道を行く軍人オセロと妻デズデモーナを描いた、シェイクスピアの四大悲劇のひとつ『オセロー』。青木豪が大胆に翻案して書き下ろし、橋本じゅん主演で上演した『港町純情オセロ』から12年。これは再演ではない。青木が「『新作』と言っていいほどの改訂」と言う、新たな新感線版『オセロー』の誕生だ。
上演時間は20分の休憩を入れて3時間40分。その長さにひるみかけたが、いやいや、青木の緻密な脚本と三宅健に高田聖子らキャラ立ちの役者陣、そしていのうえひでのりの演出に引き込まれ、観終わった時の充足感と言ったら! シェイクスピア、全然知らなくてOK。観たのは初日前日のゲネプロ(本番と同じように演じる通し稽古)。観客のいない客席で観る新感線の舞台とは…笑っても1人、手が痛くなるほど拍手しても1人。この思い伝えたい!でも伝わらない! そんな悔しい気持ちを抱え、観劇レポート届けます。
冒頭。岩に打ちつける波しぶきを背景に浮かぶ、新感線のロゴマーク。任侠映画かいっ! のツッコミから開幕。はい、任侠ものなので。舞台は1955年、関西の港町・神部。ここをシマとするヤクザ組織・沙鷗(さおう)組の若頭筆頭・亜牟蘭(あむら)オセロ(三宅健)は、ブラジル人の血を引き、図抜けた腕っぷしと度胸が武器のまっすぐな男。若頭補佐の汐見丈(寺西拓人)とシマを広げて来た彼は今、病院にいる。四国の新進ヤクザ・観音組との抗争で組長が射殺され、自らも傷ついた。その時知り合った病院長の娘・モナ(松井玲奈)はオセロにぞっこん、父にウソつき会いに来る。キラッキラで可愛いしかないモナにオセロも惚れた。組を抜け、モナと夫婦になろうと決める。笑えるほどラブラブな2人。もう、勝手にせんか~い!と、そうはいかないのが、先代組長の未亡人アイ子(高田聖子)。二代目組長の襲名を辞退、カタギになる!? 「足抜けは自分と組に対する裏切りや!」。しかもモナと結婚させると甘言を使い、金づるにしてきた市議会議員・三ノ宮一郎(粟根まこと)への目論見もご破算に。アイ子、怒り心頭! 姐さん、怖い~。
一方、沙鷗組の上部組織・赤穂組は、観音組を倒すことを条件にオセロの足抜けを認める。オセロは、漁師の顔役・紋田(河野まさと)の協力で海上戦を制し、観音組を壊滅に追い込む。その祝宴の陰。アイ子は部下の布引(川原正嗣)にデマを吹き込まれ、オセロのせいで組長が死んだと思い込む。復しゅうに燃えるアイ子。姐さん、悲しい、でも超怖い~! ここから物語は本題へと突き進む。の前に“つづく”の文字。休憩入りま~す!
1幕は約90分。会話劇の中にアクションはもちろん、笑いもあり、ダンスもうまく盛り込まれて新感線らしい。また昭和な曲調の音楽や、思いを乗せて歌われる“テネシーワルツ”が切なくしみる。
2幕は110分。休憩中にトイレは済ませよう。が、この110分、ラストへとなだれ込む物語のうねりに時間を忘れてしまうほど濃い。アイ子の周到な罠、苦しむオセロ、困惑するモナ。悪意が生む巧みな言葉に翻弄される人々の前に、悲劇が大きな口を開けている…。
策略のウソ、デマの思い込み。信じてしまう人間の弱さ、拭い去れない不信の念。原作通りの舞台では、「そんなに簡単に信じる?」とツッコミたくなることも。それが今作では、各登場人物の背景にあるこれまで経験したできごとや現状、心の奥に持つ思いを描くことで、ウソやデマを「もしかしたら」と信じ込んでしまう気持ちに説得力を持たせた。遠い外国の話ではなく日本の、それも感情表現と本音勝負に最適な言葉・関西弁を使って。だからこそ笑いも怒りも、喜びも悲しみも、ストレートに伝わり、シェイクスピアの『オセロー』よりわかりやすく、自分事として感じることができる。原作ではオセローのデズデモーナへの不信の決め手は、不注意で落とした大切なハンカチの行方。この芝居ではオセロからの贈り物は同じだが、不注意に落とすのではない。アイ子が巧みに仕掛け、手に入れてオセロをハメるのだ。アイ子の怖さはイアーゴーの上を行く。ほかのヤクザの女たちの思いと生き様もしっかり絡ませ、青木の脚本は12年前から間違いなく腕を上げた。
役柄と出演者について。思い込んだら周囲が見えなくなるほど一途なオセロ役には、いのうえも本人も言う「まっすぐな三宅健」。カッコイイ、そしてラブラブのシーンとかめっちゃ弾けてて、こんな彼の姿これまで見たことないのでは? 初めての新感線、何かを振り切った感じだし、楽しそうだし。先の会見で大阪公演までに「ちゃんと関西弁が体になじむように頑張ります!」と言っていた三宅。約束守った。エライ! 登場人物は粒立ちキャラ満載だ。まっすぐに愛を生きるお嬢様モナは、オモシロも大丈夫な松井玲奈。汐見は一見かっこいいが実は薄っぺらで酒癖が悪い、でも憎めない。寺西拓人、いい役もらった。議員のくせにおマヌケな三ノ宮を演じる粟根まことは、おキマリの神出鬼没な変装も健在。あと赤穂組の親分・村木仁と樹里絵・村木よし子のSM夫婦の存在感、まぁキョーレツ!そして最後に沙鷗アイ子を演じる高田聖子。もともと今作は、高田のイアーゴー役を提案されたいのうえの「おもしろい!」から始まった。イメージは映画『極道の妻たち』の岩下志麻ばりだけど、極悪。女は怖い、の言葉通り。芯に立って全体を引っ張る空気感、関西弁が気持ちいいぐらいキマる。その堂々たる女イアーゴー、シェイクスピアに見せてやりたい。この芝居、大阪弁のわかる人間が観てこそ、おもしろさ倍増。関西人、必見!
取材・文=高橋晴代
撮影=田中亜紀
2023年劇団☆新感線43周年興行・春公演
Shinkansen faces Shakespeare
『ミナト町純情オセロ~月がとっても慕情篇~』
■出演
三宅 健
松井玲奈 粟根まこと 寺西拓人
右近健一 河野まさと 逆木圭一郎 村木よし子 インディ高橋 山本カナコ
礒野慎吾 中谷さとみ 保坂エマ 村木 仁 川原正嗣 武田浩二
藤家 剛 川島弘之 菊地雄人 あきつ来野良 藤田修平 下島一成
岸波紗世子 髙橋優香 工藤頌子 毛利アンナ可奈子
高田聖子
■原作
ウィリアム・シェイクスピア(松岡和子翻訳版「オセロー」ちくま文庫より)
■作
青木 豪
■演出
いのうえひでのり
|日時|2023/04/13(木)~2023/05/01(月)≪全19回≫
|会場|COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール
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