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「ゴッホ・アライブ」内覧会レポート

2023/4/19

公演レポ

ゴッホ・アライブ

最新技術が織り成す映像体験空間で追体験するゴッホの人生

6/4(日)まで兵庫県立美術館で開催される「ゴッホの世界に飛び込め! ゴッホ・アライブ」は、五感で楽しむ全く新しい没入型の展覧会として、これまでに世界で850万人を超える人々を魅了してきた注目の展覧会。「ゴッホ・アライブ」の面白さは、ひまわり畑、ファンゴッホの部屋などを再現したフォトスポットがあったり、全編撮影OKだったりとエンターテインメントとしての側面と、最新技術が織り成す映像体験空間で波乱万丈なフィンセント・ウィレム・ファン・ゴッホの人生を追体験するという芸術的側面の2つを調和させ、両立させている点だ。

27歳で画家になり、37歳という若さでその人生に幕を下ろしたゴッホは、そのわずか10年のキャリアの中で作風を常に変化させ続けた。幼少期から感受性が強く、晩年は重い精神疾患を患い自らの耳を切り落とすというショッキングな事件を引き起こすなど、精力的な創作活動の一方で生涯不安定な精神状態だったと言われているゴッホ。今回の展覧会ではその人生を「オランダ時代」「パリ時代」、「アルル時代」、「サン=レミ時代」、「オーヴェール=シュル=オワーズ時代」に分け、激しい心情の移り変わりが投影された作品を通して彼の生涯を辿っていく。

まずはゴッホの生い立ちや代表作について書かれたパネルに目を通し、知識を深めながら会場へ。黒いカーテンをくぐると、巨大なキャンバスのようなモニターがずらりと並び、床を含めた会場全体に映像が映し出される。静かな展示室で次々と絵画を閲覧していく従来の美術展とは異なり、観客は次々と流れる3000点に及ぶ大迫力の作品画像とクラシック音楽に身を委ね、ゴッホの世界に没入する。

ゴッホの生涯を辿る旅は、彼の故郷であるオランダからのスタート。プロテスタントの牧師の息子として生まれた彼は、自分が育った中産階級の暮らしと労働者階級の暮らしの違いを強く意識しており、「オランダ時代」の作品では必死に働く農民や労働者の懸命な姿を捉えている。風景や人、物がくすんだ大地の色で描かれ、暗く重い作風は現代で多くの人が持つゴッホの鮮やかで華やかなイメージとはかけ離れているかもしれない。

オランダの次はパリへ。パリで印象派やポスト印象派の優れた作家たちと出会うことで作風に大きな変化が。様式や線などもガラリと変わったが、中でも色彩は明るく鮮やかに、そして光や影を表すだけではなく感情を表すものとして用い始めたことは大きなターニングポイントと言えるだろう。ゴッホが日本美術と出会ったのもこの頃。歌川広重の≪花咲く梅の木≫を模写した作品がモニターに映し出されると、日本民謡の「さくら、さくら」が流れる。全世界共通の展示なだけに、この瞬間を日本で見られるのは趣深い体験だ。

創作意欲を大きく刺激したパリでの生活も、次第に冷たく閉鎖的なものに感じるようになったゴッホは、南フランスのアルルへと居を移すことに。アルルで過ごした時間は彼の人生の中で最も幸せなひと時だっただろうとも言われ、様々な黄色を用いた華やかな代表作≪ヒマワリ≫もこの時代に描かれた。モニターには「How lovely yellow is! It stands for the sun.(黄色はなんて素敵なんだろう! それは太陽の色だ)」というゴッホの言葉が流れ、彼が黄色を特別な色として大切にしていたことがわかる。本人の言葉と作品を同時に味わえるのも「ゴッホ・アライブ」ならではの魅力と言えるだろう。

穏やかで豊かだったアルルでの生活は、ゴッホの精神状態が傾いたことで次第に影を落としていく。≪アルルのフィンセントの寝室≫に見られる歪んだ遠近法は当時の精神の不安定さを顕著に表した作品だと言われている。次第に音楽も重厚なものに変わり、会場が不穏な空気に包まれると、まるでゴッホの人生を追体験しているような気分に。

そして「サン=レミ時代」へ。ゴッホは自らサン=レミの療養院に入院した。入院中も絵を描き続けたが、病状は芳しくなく、発作を繰り返し、時には絵具を食べるなどの自傷行為を行うことも。作品も、苦悶に満ちた療養院の光景から、穏やかで微かな希望が見える≪星月夜≫まで様々なテイストのものが描かれた。展覧会では独特の渦巻のようなタッチで描かれた≪星月夜≫の夜空が、マルチチャンネル・モーショングラフィックスによってうねりを見せる。その様子はまさに幻覚に悩まされながら危機と安定の狭間を生きたゴッホの心情のようだ。

最後は「オーヴェール=シュル=オワーズ時代」。療養院に入院して1年が経ってもなお、ゴッホの精神状態は悪化する一方だった。新たな治療を受けるためオーヴェール=シュル=オワーズに移り、ポール・ガシェ医師の元へ移ることに。会場にはフランスの田園地方を思わせるアロマの香りが漂い、彼が最期を過ごした土地に想いを馳せながら作品を眺める。最終セクションである「オーヴェール=シュル=オワーズ時代」を締めくくるのは遺作の一つと言われている≪カラスの飛ぶ麦畑≫。ゴッホの最期については諸説あるものの、麦畑で自らを拳銃で撃ったと言われている。モニターに映し出された≪カラスの飛ぶ麦畑≫はゆらゆらと動き出し、発砲音が鳴り響くと――…。

ゴッホはどんな想いで、それぞれの作品を描いたのか。そして我々はそこから何を感じ取るのか。ここでしか味わえない感情の渦をぜひ多くの人に体感してほしい。

TEXT:鷲野恭子(ヴエロ)

ゴッホ・アライブ

|会 期|2023/03/18(土)~2023/06/04(日)
|休館日|月曜日
|時 間|10:00~18:00(最終入場は閉館の60分前まで)
|会 場|兵庫県立美術館 ギャラリー棟3階

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