2023/4/21
インタビュー
圧倒的な存在感と抜群の巧さで多くの観客を魅了し、全国区の人気を誇る立川談春。そして、落語通を唸らせ、初心者も虜にする実力派・柳家三三。東京落語を代表する二人が、三遊亭圓朝作の怪談噺「牡丹灯籠」をリレーで演じる「俺たちの圓朝を聴け!」のツアーが2月の福岡公演を皮切りにスタートした。関西では兵庫県立芸術文化センターで、9月8日から10日まで3日間連続の公演が行われる。談春と三三が、リレーで挑む公演への意気込みを語った。
きっかけは、ここ数年の混迷した社会情勢に対する談春の思いだった。「この国はどうなっちゃうんだと僕でも思うようなことがあったんですね。ウクライナの侵攻だの、安倍元首相の暗殺だの。確実に時代は変わっていく。少なくとも僕が思っている価値観は受け入れられない方に行くだろうと。これ、何で学べばいいんだろうとなった時に、ふと思い浮かんだのが三遊亭圓朝なんです。圓朝という人は生まれてから死ぬまでの半分の時間が江戸時代、残りの半分は明治。明治になった途端に、ほかの江戸っ子並びに東京人が取り残されていく中で、鮮やかにキャリアアップをしつつ、その激動の時代を生き抜いた。あ、この人なんじゃないか」と思い、圓朝に興味を持ったと言う。
談春が「圓朝作品をリレーで」と考えた時に、頭に浮かんだのが後輩の柳家三三だった。談春は2011年に亡くなった立川談志の弟子、三三は一昨年亡くなった柳家小三治の弟子で、ともに五代目柳家小さんの孫弟子だ。談春は「20年ちょっと前に初めて三三さんを聞いたんですね。その時は名前も知らなかった。落語を聞いた時に、間違いなく僕が同じ年だった頃よりうまいと思った初めてで最後の落語家なんですよ。すごいなと思って。その時に聞いたのも「鰍沢」っていう圓朝作品だったんです。圓朝作品をやるんだったら、三三さんしか考えられないと思いました。トーンと言いましょうか、楽器としてのチューニングが合うんです」と三三の芸を評価し、「ひょっとすると僕は三三さんに喰われるな。ぴりっとしないと、どうにもならないという空気感が作られるだろうな」と期待を込めた。
2006年に、談春は真打になったばかりの三三に、「談春七夜」と題する7日間連続の独演会の前座を頼み、その第6夜で2人は圓朝作の「乳房榎」をリレーで演じた。それまで談春ファンに受け入れられないと感じていた三三だが、その日の観客は三三が思っていた以上の反応を見せた。三三は「翌日、7日目の千秋楽のトップで上がったら、お客さんの空気がほんとに一夜にして変わったのがわかりましたね。お客さん全体が、俺たちはお前を認めたよって」と当時を振り返り、「世の中に知っていただくきっかけを一番作っていただいたのが談春兄さんです」と感謝した。
落語中興の祖と言われる三遊亭円朝は人情噺や怪談噺を数多く残した。その中で、今回2人が選んだのは歌舞伎や映画などでも知られる人気作「牡丹灯籠」だ。「牡丹灯籠」は「四谷怪談」、「皿屋敷」と並ぶ日本の三大怪談噺の一つであるとともに、幽霊との悲しい恋や人の業、人間模様を見事に描いた長編の人情噺でもある。「1時間ずつやっても40日くらいかかる噺でしょ? それを少なくとも毎日2時間ずつで6時間、6話に何とかまとめようと。初日にする『お露と新三郎』っていうのは若い男女の本当にウブな純愛で、それを僕がやったらどうなるのっていう噺になる。三三さんが2日目に「お札はがし」をやるんだけど、悪い人が出てこないんだよね~、悪い人じゃないから。だけど全国を回って、最後には三三の悪女、三三の思う、どうしても定めに抗えない男が出てきたら、とってもいいだろうな」と談春。三三は「どの噺も僕は基本的にあまりスタンスは変わらないんですよ。どんな噺もどうしゃべったら一番面白くなるかなっていうことなんですよね。怪談噺は特に怖がらせることを眼目としてやっているわけではないので、ある意味、どれだけお客さまが勝手にそう思ってくださるかにかかっている。僕はしゃべっている自分もお客さまも含めて、その空間が全部その噺の世界で満たされればいいなと思います」と語った。
圓朝作品を3日連続で、2人が交互にリレーで演じること自体が珍しい。「共演者の要素が加わることによって、より自分が思ってもみなかった景色が見られるっていうのは演者としてすごく期待していることです」と三三。一方、談春は「対バンだと思うよ。古典落語だから、仲がいい2人がリレーで一つの世界を作っていこうなんて全くない! でも、信じているものが、いいと思うものが似通っていると思うんで、芸に対する一貫した価値観、技術を含め、それは伝わると思います」と意気込んだ。
「牡丹灯籠」のほかに、2人は軽めの噺をそれぞれ一席ずつ演じる。そして「息があってきて、おもしろくなってきた!」という2人のトークも期待大だ。「これが成立するなら、結構長いスパンでやっていきたいと思っているんです」と談春。シリーズ化も視野に入れた圓朝作品のリレー公演は見逃せない。
取材・文・写真=日高美恵