ミュージカル『おとこたち』が2023年3月12日（日）、東京・PARCO劇場にて開幕した。同作は、2014年に劇団ハイバイによりストレートプレイとして初演。ミュージカル化にあたり、作・演出を手掛けた岩井秀人自身が脚本・演出。前野健太の音楽とタッグを組んだ。ユースケ・サンタマリア、藤井隆、吉原光夫、大原櫻子、川上友里 、橋本さとしらが出演し、4人の男たちによる人生の悲喜劇が描かれる。

前説に登場したのは、ユースケ・サンタマリア。ゲネプロではミュージカル『おとこたち』にまつわる架空の稽古秘話を披露しつつ、劇場の注意事項を面白おかしく伝えてくれた。自然体のような、掴みどころのないような――得も言われぬ空気感を纏いきったところで、本編がスタート。舞台上には老人たちがのそのそと集まり、いつのまにか物語が始まっていた。

ユースケが演じる山田が、軽快に観客へ語り始める。最初のシーンは、とある老人ホーム。はつらつとしている老齢の山田だが、職員たちとの会話はなにやら噛み合っていないようだ。やがて時代は巻き戻り、22歳のおとこたちがカラオケボックスに集合する場面へ。山田の卒業祝いのために集まった津川（藤井）、鈴木（吉原）、森田（橋本）。どうやら各々が趣味嗜好の異なるファションヘルスに行った経験談を語り合っているらしい。体力の限りはしゃぎあう様子は、すっかり若者そのものだ。

それぞれのキャラクター像が、肉厚なナンバーで形成されていくのも楽しみの一つだ。俳優として名を馳せるも酒が原因で堕落していく津川は、最も輝かしい経歴であるヒーロー戦隊シリーズのテーマソングを彷彿とさせる旋律をコミカルに歌い上げる。仲間内で唯一の勝ち組エリートな鈴木は、ご機嫌なパーティーナンバーを風格漂う歌唱力でトップバッターを飾った。妻がありながら若い女と不倫する森田は、適当すぎる言動が的確に表現された詞と壮大なバラードのアンバランスさで笑いを誘ってくるから油断ならない。

4人の中で、最も生々しい存在感を放っていたのがストーリーテラーの山田。新卒で入った会社をすぐに退職した後、クレーム対応に追われるコールセンターへ再就職……という一連の流れも、誰かの隣に寄り添っていそうな気がする。特に印象的だったナンバーは、一幕中盤に訪れる純子（大原櫻子）との言葉の掛け合い。セリフがムーディーな音楽にのり、歌い出す寸前のような絶妙なテンションがリズミカルに紡がれていく不思議な楽曲が待ち構えている。

劇中に登場する“おんなたち”の輝きも美しい。川上友里の絶妙すぎる間合いは、いつだって観客のテンポを確実に捉えていく。男たちにとってさまざまな女性像を演じ分ける大原が歌い出せば、劇場の空気は一変。ソロナンバーはもちろん、吉原演じる鈴木とのデュエット『愛される資格』は歌い出しから心が震えた。

4人の男たちの、22歳から85歳までの人生を描く群像劇。次々に代わる語り手と、ハートウォーミングな前野健太の音楽がドラマティックに彩っていく。悲劇を喜劇に、喜劇を悲劇として描き出す岩井秀人の世界観に加え、各々の役者による卓越した間合いの巧みさに唸る場面が何度もあった。隙があれば時事ネタや小ネタを挟み、気を緩める隙も無いテンポは、笑い愛に溢れた大阪公演でも化学反応を起こしてくれそうだ。劇中、随所でセットのスロープを渡り歩いていく登場人物たち。緩やかなカーブと勾配が描く曲線は、人生という道を示しているようにも感じた。

3月11日（土）に行われた初日前会見では「ついに（初日の）明日、30年の芸能生活が終わるんだ。それくらいの恐怖心があります」とユーモアのような本心のようなユースケ・サンタマリアの心境で会見がスタート。そんなユースケに、藤井が「ユースケさんはなんでも褒めてくれる。長い時間をご一緒するのは初めてでしたが、器の大きさを知った」と語る場面も。吉原は「藤井さん、（橋本）さとしさんが表現にストイックすぎて思わず笑いが起き、稽古が止まってしまうことが何度もあった」と振り返り、橋本も「初日を直前に控え、フワッとしています（笑）。この定まりきらない感じが、今作にすごく合っているのでは」と分析していた。

東京・PARCO劇場に続き、4月8日（土）～4月9日（日）には大阪・森ノ宮ピロティホール、4月15日（土）～4月16日（日）には福岡・キャナルシティ劇場での上演が予定されている。「人生のロールプレイのようなもの。生でやっていく空気がすごく大事な作品なので、お客さんの空気をもらいながら演じていく俳優さんたちにお願いしました。毎回違うロールプレイを見せてくれるはず」と岩井が評した今作を、どうか見逃さないでほしい。

取材・文：潮田茗

大阪公演

｜日時｜2023/04/08(土) 12:00 / 17:00
　　　　2023/04/09(日) 12:00
｜会場｜森ノ宮ピロティホール

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