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【インタビュー】ミュージカル『アルジャーノンに花束を』浦井健治

2023/3/17

インタビュー

ミュージカル『アルジャーノンに花束を』

チャーリイは実は我々だった
観客が目撃し、気づいてほしい

ミュージカル「アルジャーノンに花束を」が浦井健治主演で再び上演される。同作はダニエル・キイスが1959年に発表した同名小説で世界的に大ヒットし、欧米で映画化、日本ではテレビドラマ化された。舞台版は、浦井主演で2006年に日本で初めてミュージカルになり2014年も彼が続投し再演。上演5回目となる今回は浦井が9年ぶりに主役を務める。32歳になっても幼児なみの知能しかないチャーリイ(浦井)に、大学の先生が頭を良くしてくれるという話が舞い込む。彼は、白ネズミのアルジャーノンとともに人体実験をされ、天才に変わっていく…という物語。浦井が胸に去来する思いを語ってくれた。

――2006年の初演は、浦井さんにとってミュージカル初主演でした。

「すごく緊張したのを覚えています。演出家の荻田浩一さん、作曲家の斉藤恒芳さんと共にオリジナルのミュージカルをゼロから作り上げる創作の現場を体験させていただいた。斉藤さんの家で曲を聴き、『こんな感じなんだ』とワクワクしたり、稽古場に届けられるできたばかりの楽曲を皆で聴いてシーンを作ったり、自分たちのミュージカルを立ち上げていくことの喜びと、すごい熱量を感じたのを覚えています。このうえなく幸せで、今でも自分のバイブルですし、学んだことや見た景色、お客さまの反応など、すごく影響が大きかった作品ですね」

――2014年の再演はいかがでしたか。

「その時の僕は32歳で、チャーリイと同じ年だったんです。等身大で、よりナチュラルにスピーディに、ジェットコースターのような感覚でお客さんに見やすいリズムや形を提示できたかなと。荻田さんが『僕たちのチャーリイはこれが完成形だね』と言ってくださったのを覚えています」

――浦井さんもそう感じましたか。

「プレイヤーは動かされてなんぼなので、僕自身としては、まだまだですね。今回、またこうして戻ってこれたのは、いろいろなタイミングが合ったんです」

――チャーリイが人体実験され、彼の知能が子どもから60代の教授レベル、そして天才へと変貌していく姿が凄まじかったです。その表現力で2006年には「第31回菊田一夫演劇賞」、2014年には「第22回読売演劇大賞最優秀男優賞」を受賞されましたね。

「演じていると思われないように、チャーリイはこういう人なんだと思わせたら役者としては成功なんですけど、そこが一番難しい。物語はSFですが、コロナ禍の今、我々にとってはヒリヒリする状況で他人事ではない。もうSFじゃなくなっている。チャーリイが賢くなることで、周りの人たちは自分のエゴや業に向きあって変化するんですが、チャーリイの内情は最後までずっと変わらない。お客さまがハッとし、身につまされ、チャーリイは実は我々だったんだと感じてもらうのがこの作品なんです。だから変わらないというのが演じる上で一番大切で、一番、難しいですね。この子は何も変わってなかったんだと目撃し、気づいてほしいんです」

――難しい役どころですが、どう向き合いましたか。

「初演の時は、ある施設に行かせていただいたんです。皆、本当に目がキラキラしていて素敵で、何物にも代えられない才能を持っていて、真っすぐな心と眼差しが印象的でした。皆の日常やそれぞれの願い、思うことは我々と変わらないと感じました」

――そこがチャーリイに表れているのでしょうね。

「さきほども言いましたが、なるべく表現をしないようにしていますし、リスペクトもあります。チャーリイは家族に認められたい、周りの人と友達になりたい、皆と一緒に生きていきたいだけ。『だからぼくは賢くなりたい。なぜなら…』ということなんですよね。この作品は、SFやファンタジーと言われていますが、実はダニエル・キイスさんは人間の攻防を描いている。チャーリイから見た景色で、いかに人間はおろかで自分勝手なのかという群像劇でもあるんです」

――知識や知能だけを追い求めすぎると、間違った方向にいってしまう。書かれたのは1959年ですが、AIが発達した現代はまさにそう感じさせられます。

「権力や金銭感覚もそうかもしれない。人間は変わらず、ずっと闘い続け、ねたみ合い続けている。普通であることが何よりも実は平和に生きられるのかもしれないですよね」

――タイトルにも出てくる、「花束を」というセリフは舞台でもグッとくるシーンですね。

「花束が願いと希望、未来への思いを表しているんです。でも、その核となるのはすごく冷たい部分。ラストは苦い気持ちにもなりますが、花束の意味を知れば、すごく温かい気持ちでお客さまには受け取ってもらえると思うんです。
 例えば、お葬式では皆で語り合ったり笑ったりして、思い出と共に死者を胸に抱えて生きて行こうと切り替えをしますよね。花束にはそういう意味もあると思うんです。初演でアルジャーノンを演じた森新吾が2019年に急逝したので、今回はその思いも込めたいと思っています。新吾は、ボーカル&パフォーマンスグループ、DIAMOND☆DOGSのメンバーで、グループのリーダーのよし君(東山義久)が、今回、チャーリイに接するストラウス博士役です。そして新吾と仲が良かった長澤風海がアルジャーノンを演じている。色々とリンクするのはキャスティングの妙で、新吾を呼び戻すような思いで舞台に立ちたいです」

――それを知って見ると、また違いますね。

「そこまでは知らないお客さまも、もちろんいらっしゃいますが、でも、何かが芽生え、周りの人を大切にしよう、明日も頑張って生きていこうと、花束を受け取れるような作品なので、ぜひ、劇場に来ていただきたいです!」

取材・文 米満ゆう子

ミュージカル『アルジャーノンに花束を』

■原作
ダニエル・キイス「アルジャーノンに花束を」(ハヤカワ文庫)
■脚本・作詞・オリジナル演出
荻田浩一
■演出・振付
上島雪夫
■音楽
斉藤恒芳

■出演
浦井健治
大山真志、長澤風海、若松渓太
大月さゆ、藤田奈那、渡来美友
東山義久
北翔海莉

大阪公演

|日時|2023/05/13(土)~2023/05/14(日)≪全3回≫
|会場|COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール
▶▶ 公演詳細
▶▶オフィシャルサイト

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