2023/1/21
公演レポ
第二次世界大戦直前の上海を舞台に、実力と美貌を武器に生き抜いたダンサーの半生を描く舞台『マヌエラ』が2023年1月15日(土)、東京建物 Brillia HALLにて開幕した。1999年に上演された同作に音楽とダンスを融合させ、本作が宝塚歌劇団退団後の初主演舞台となる珠城りょう主演で上演。渡辺大、パックン、演出も手掛ける千葉哲也らとともに“上海の薔薇”と呼ばれた実在の日本人ダンサーを描き出す。
四方をフェンスで囲まれ、無秩序さが漂う舞台セット。周りは間接照明とテーブル席が囲み、中央に鎮座している。上海の夜の街と、ダンスホールが融合したステージが開演の時間を待ちわびていた。重々しい足音が聞こえてきたかと思うと、客席の通路を通って司会者(千葉哲也)とピアニスト(磯部莉菜子)が登壇。厳然たる語り口は、劇場全体をあっという間に混沌たる上海の世界へと誘ってしまった。やがてダンサーたちが、艶やかながらも力強く踊り始める。
物語の舞台は、第二次世界大戦前。日本海軍士官として上海の地へ降り立った和田海軍中尉(渡辺大)はダンスホールで永末妙子(珠城りょう)と出会う。かつてダンサーとして将来を期待されていた妙子は、日本を脱し上海へ駆け落ちした過去があった。国よりも己の道を突き進み、さらに軍人嫌いを明言する妙子と和田は反発。互いの信念を譲らずぶつかり合う様には迫力が込められているが、どこか小粋なセリフの応酬にはクスッとさせられる。
世界的なキャバレーであるムーラン・ルージュのスターだったパスコラ(パックン)に見い出された妙子。嬉しさを爆発させ、ロシア人ダンサーである友人のリューバ(齋藤かなこ)ら仲間たちと踊る姿はとてもキュートだ。生演奏されるピアノはあるときはコミカルに、またあるときは情感たっぷりなBGMを生み出し、舞台を鮮やかに彩っていく。
豪快でパワフル、生命力にあふれた妙子の姿はどんどん心に焼き付いていく。何者かに追われる青年チェン(宮崎秋人)と出会った際のとっさの行動も、和田との再会を果たした場面でも、彼女らしい言葉や振る舞いに夢中になってしまうのだ。
パスコラのプロデュースにより、国籍不明の美しき一流スターダンサー“マヌエラ”としてステージに立った妙子。美しく、強く、人目を惹きつける圧倒的な存在感を持ち、時に儚く運命に翻弄される……絶えず多彩に踊り続けていくような生き様を、珠城がしっかりと観客の心に刻み付けた。ダンスシーンは圧巻の一言。飾らぬ私服で街中に現れる妙子も、華やかなドレスに身を包みステージに立つマヌエラも、見る者の心を奪う踊りを見せてくれる。
怪しげに暗躍する貿易商の村岡(宮川浩)、影の市長と呼ばれる杜月笙(岡田亮輔)が持つ得体の知れなさにより、光も影も混ざり合った上海フランス租界の情景が思い浮かぶ。そんな時代だからこそ、妙子や取り巻く人々の人間味が際立ってくるのだ。華々しいキャリアから一見すると傲慢にも思えるパスコラだが、ある人物に見せる表情には慈しみが溢れている。一人の青年として、またダンサーとして生きるチェンの葛藤が垣間見える瞬間には何度も息をのんだ。とりわけ際立ったのは、和田が抱える妙子への好意。堅物ゆえ素直になれない行動がもどかしくもあり、人間らしい体温を感じられるひと時でもあった。
国家の争い、国をめぐる戦いは時代の波を作り出し、上海に生きる人々を飲み込んでいく。舞台には常に司会者やダンサーたちがいて、観客と同じく物語の行く末を見守っているようだ。真っ赤なロープが巻かれたカウンターチェアも、最初から最後まで象徴的だった。余韻に浸らせてくれる要素がいくつもあり、幕が下りてもなお何度も思いを馳せる作品。光と影が入り乱れる激動の時代にあっても、はっきりと際立つマヌエラの輝きに魅入られてしまった。
公開ゲネプロ前に行われた取材会では、本作について「どの瞬間も必ず誰かが隣にいる、人間の体温を感じながらやっていけるステージ」と表現していた珠城。2度目の舞台出演となった渡辺の「一発勝負というところで怖さもあったが、(一度舞台を)やってみて少しずつ取れてきている。どんどんやっていきたい」という言葉や、本格的な舞台出演がひさしぶりのパックンの「ストレートプレイの独特な雰囲気は病みつきになる!」といった力強さからも、キャスト陣の熱意が垣間見えた。
東京公演に続き、1月28日(土)~1月29日(日)には森ノ宮ピロティホールにて大阪公演が、1月31日(火)には北九州芸術劇場 大ホールにて福岡公演が予定されている。千葉は「この時期、演劇は完走するのが第一の目的になっている。良いカンパニーなので、しっかりゴールを踏みたい」と力強く語った。
取材・文:潮田茗
撮影:加藤幸広
「マヌエラ」
I am a dancer. Love me?
■出演
珠城りょう 渡辺大 パックン(パックンマックン)宮崎秋人 千葉哲也 宮川浩
岡田亮輔、齋藤かなこ、磯部莉菜子、松本和宜、馬場亮成、榎本成志、松谷嵐、
横田剛基、伯鞘麗名、永石千尋、平井琴望、佐藤アンドレア、平山ひかる
■脚本
鎌田敏夫
■演出
千葉哲也
■音楽
玉麻尚一
■振付
本間憲一
日時:2023/01/28(土)~2023/01/29(日)≪全3回≫
会場:森ノ宮ピロティホール
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