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COCOON PRODUCTION 2022/NINAGAWA MEMORIAL
『パンドラの鐘』開幕レポート

2022/6/11

公演レポ

COCOON PRODUCTION 2022/NINAGAWA MEMORIAL 『パンドラの鐘』

新たな『パンドラの鐘』の誕生を目撃せよ

蜷川幸雄と野田秀樹の対談の中で、蜷川から依頼されて野田が書いた戯曲『パンドラの鐘』。1999年、この作品を野田と蜷川が同時期にそれぞれ違う劇場で演出するという演劇界の事件があった。だが、関西では生の舞台を観ることは叶わず、どれほど悔しい思いをしたか。今は映像で観るのみ。関西では2021年4月、熊林弘高演出バージョンの舞台が『パンドラの鐘』初体験だった。99年にBunkamuraシアターコクーンの芸術監督に就任した蜷川の、同劇場での初演出作品であり、蜷川の七回忌を迎える今年、23年ぶりに同劇場で上演。今回は葵わかなと初舞台となる成田凌が、17年放送のNHK連続テレビ小説「わろてんか」以来の共演でダブル主演、演出は蜷川演出に多大な影響を受け多彩なジャンルの作品を手掛けてきた気鋭の若手演出家、杉原邦生だ。チラシなどの宣伝ビジュアルには写真家・蜷川実花が参加。あの伝説的事件からもう23年経ったのか、そしてもう七回忌なのか。そんな思いを抱え、シアターコクーンでNINAGAWA MEMORIAL『パンドラの鐘』の初日を観劇した。

23年前の演劇界二大巨頭の作品と今回の舞台を比較検証するのは東京人に任せる。がこの舞台、ネタバレなしでおもしろさを伝えるのはなかなか難しい。誰かが書くかもしれないが、私は一観客としてそのワクワク感や驚き、感動は生の舞台で体験してこそ、と思うので書きたい思いをグッと我慢、演出の仕掛け部分は敢えて書かないことにする。お楽しみは劇場で。ただ、大阪は劇場が森ノ宮ピロティホール。劇場機構によって、もしかしたら演出を変えざるを得ない部分があるのでは、とも思う。開幕前日の出演者のコメントや、野田秀樹から届いた耳より速報も盛り込んで紹介することにしよう。

会場に入ると舞台は素舞台。舞台の周囲には何もなく、コンクリートの壁や配電盤、棚に並べられた照明器具などがむき出しのままの状態。板だけの舞台上には白い柱が4本。成田凌が客席通路から登場し、うす暗い舞台へ上がる。四方に立つ柱の中央でかがみ込み、左耳を舞台につける。遠くから鐘の音が聞こえる。それは徐々に大きくなり、早く打ち鳴らされると舞台はパン!と明るくなり、素舞台は一瞬にして3方を囲んだ舞台となる。まさに歌舞伎の“チョンパ”の応用。舞台美術は歌舞伎作品の専門家でもある美術家・金井勇一郎。

そして物語が始まる。舞台は太平洋戦争開戦前夜の長崎。ピンカートン財団が出資する古代遺跡の発掘作業現場。考古学者カナクギ教授(片岡亀蔵)の助手オズ(大鶴佐助)は、数々の発掘物の中に1本の折れ釘を発見、そこから遠い古代王国の姿をよみがえらせていく。

黒衣のダンサーたちがいい感じで作品世界を支え、和テイストが効いた演出も新鮮。野田作品の言葉遊びは今も健在だが、この作品の“コトバ”たちは一層の深みをはらんでいる。
そして舞台は王の葬儀が行われている古代王国へ。兄の狂王(亀蔵・二役)を幽閉し、妹ヒメ女(葵)に王位を継がそうとする重臣・ハンニバル(玉置玲央)らは、秘密保持のため棺桶と一緒に葬式屋たちも埋葬しようとする。が、ヒメ女は葬式屋の1人ミズヲ(成田)に魅かれ、命を助ける。ある時ミズヲは異国で掘り出した巨大な鐘を王国に持ち帰るが…。

舞台に登場する巨大な「パンドラの鐘」。その中に記された王国滅亡の秘密とは? 開けてはならないパンドラの箱のように、覗いてはいけなかったパンドラの鐘。そこに浮かぶ未来の行方は? 古代から1936年の長崎、そして現代へ。時空を超え、交差しながら繰り広げる壮大な物語だ。

切ない恋の背景に重層に織り込まれたメッセージは、ミズヲの名の由来を知り、ヒメ女のセリフで鮮やかに立ち上がる。それは杉原演出によって、現実を生きる私たちに強くわかりやすく届けられる。祈るような希望と共に。作品は今まさに起こっている戦争の現実世界とダブり、今観るからこそのテーマがより際立つ。時代を超え、新たな息吹を得てよみがえった『パンドラの鐘』。野田作品への敬意、そして蜷川への愛がたっぷり詰まった杉原演出ならではの新しい『パンドラの鐘』が誕生した。

ストレートプレイ2作目の葵わかなは、14歳のヒメ女が王女となり成長する姿をしっかりと演じる。「ご覧になった方が驚くような演出がたくさんあるので、ドキドキして楽しんでいただけると思います。その奥に野田さんの描かれた作品のメッセージがあり、どのようにお客様に届くのか。現代だからこそ伝えられることがあると思うので、一生懸命頑張ります」とコメント。

映像のイメージとは違い、思いを熱くまっすぐにぶつけてくる成田凌も好演。「シンプルですが、この作品の世界を表し、希望が見えるセットがすごく好きです。この作品、観たことがある方もない方も楽しんでいただけると思います。見た目でも心でも」。

片岡亀蔵とヒメ女の乳母役の白石加代子の存在感、ピンカートン未亡人役の南果歩の振り切った演技。ベテラン勢に加え若手も実力派ぞろいだ。「今の彼らならではの感性で新しい息吹を吹き込み、役が立ち上がって来ています。初めて演劇作品を手掛ける音楽や衣装さんたち、スタッフワークも見どころです。野田さんがこの作品に込めた“希望”をきちんとお客様に届けられるように、毎ステージ誠心誠意やっていきます」と語る演出の杉原。

最後に初日を観劇した野田秀樹からのメッセージを。「ほぼ純粋に一観客として観劇し、大変おもしろかったです。劇作家として何より戯曲のコトバが観客に届いていたことをうれしく思っています。他のカンパニーをおすすめしたりするのは初めてですが、是非、行こうかどうかためらっていたり、情報の届いていない方、劇場に足を運んでいただけたら幸いです」。

野田秀樹の推奨文(全文)はこちら▼
https://www.nodamap.com/site/news
(NODA・MAP公式HP)

新たな『パンドラの鐘』ぜひ劇場で。

取材・文=高橋晴代 撮影=引地信彦

COCOON PRODUCTION 2022/NINAGAWA MEMORIAL
『パンドラの鐘』

■作
野田秀樹
■演出
杉原邦生

■出演
成田 凌 葵 わかな
前田敦子 玉置玲央 大鶴佐助
森田真和 亀島一徳 山口航太 武居 卓
内海正考 王下貴司 久保田 舞 倉本奎哉 米田沙織 涌田 悠
柄本時生 片岡亀蔵 南 果歩 白石加代子 

大阪公演

日時:2022/07/02(土)~2022/07/05(火) ≪全5回≫
会場:森ノ宮ピロティホール

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