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「奇人たちの晩餐会」観劇レポート

2022/6/13

公演レポ

「奇人たちの晩餐会」

ハラハラしながら巻き込まれる笑いの渦
文句なしに笑えます!
片岡愛之助×戸次重幸さすがの初タッグ

 片岡愛之助と戸次重幸が初共演で挑む傑作コメディ『奇人たちの晩餐会』が、東京の世田谷パブリックシアターで開幕した。大阪公演を控え、一足お先に公演レポートを紹介しよう。
 この作品は、「Mr.レディ Mr.マダム」など多くの映画脚本も手掛けるフランスの劇作家・脚本家・映画監督フランシス・ヴェベールが、1993年にパリで初演した大ヒット作。98年には自ら脚本・脚本を手掛け映画化した。舞台は日本でも99年に「おばかさんの夕食会」など、違うタイトルで翻訳上演されている。今回の演出は山田和也。最近はミュージカルの演出が多いが、一時期はコメディなら山田和也と言われるぐらい数多く手掛けていた演出家だ。ベテランの愛之助と戸次と共に、どんなシチュエーションコメディに仕立て上げるのか、最初から前のめりで観劇した。

 物語の主人公、出版社を経営する著名な書籍編集者・ピエール(戸次重幸)は、毎週仲間と悪趣味な晩餐会を開いている。参加者はとびきりの変人を見つけて同伴し、仲間でからかって楽しみながら、その日のキング・オブ・変人を決めるというもの。来週の晩餐会にピエールが選んだのは、知り合いから情報を得た官庁勤めのフランソワ(片岡愛之助)。その変人度を確認しようと、先に自宅へ招待していたのだが…。

 フレンチカンカンで有名なオッフェンバックの喜歌劇「天国と地獄」の楽しく軽快な音楽で幕が開く。舞台はピエールの自宅、パリにあるおしゃれなアパルトマン。アートや置物が飾られ、ソファなど調度品もセンスが良く、余裕のある生活の空気が漂う部屋だ。バーカウンターの奥のキッチンから、氷の袋を抱いてへっぴり腰で唸りながら出て来たピエール。強烈なギックリ腰で四苦八苦の状態だ。妻のクリスティーヌ(水夏希)は介抱しつつ、悪趣味な晩餐会を止めてほしいと言うが、聞かないピエールに愛想をつかし、1人で出かけてしまう。往診に来たアルシャンボー医師(大森博史)に、「とんでもない変人を見つけた」と悪趣味な晩餐会を得意げに話すピエール。痛くて動けないくせに、ヤなヤツだ。その後、さすがにキャンセルしようとしていたフランソワがやってきてしまう。晩餐会への招待を感謝しつつ、うれしそうに自分の趣味をしゃべりまくる。マッチ棒を30万本以上も使い、数か月かけて巨大な模型を作るオタクだ。ピエールを気遣うものの、お人好しのいらぬおせっかいに、痛みに耐えながらイライラさせられっぱなしのピエール。帰ってほしい空気を読めず、しゃべりっぱなしのフランソワ。その攻防の中、クリスティーヌから「さようなら」の留守電メッセージが。え~! 呆然自失のピエール。最悪の中、手助けを申し出るフランソワを不安ながらも頼みにしたのが運のツキ。次から次へと起こる危機に、最悪の状況は超最悪な状況に。どうなるピエール!? 15分休憩をはさんで2時間30分。文句なしに笑えます。

 とにかくまぁ、フランソワのしゃべることしゃべること。そして、まさに絶妙のタイミングでドジを踏む。どんくさくてちょっと変わってるけど、お人好しでおせっかい、自分の好きな話になると周りが見えなくなる。いるいる、こういう人。いい人なんやけどねぇ…。良かれと思ってやったことが裏目に出る。そんなところが「自分にもあって、わかるわかる」と言っていた愛之助、これまであまり見なかったタイプの役柄だが、さすがだ。
 幕が開いてから最後まで、ずうっと腰の痛いピエール。経験者はその痛みがわかるだろう。観ているこちらまでギックリ腰になりそうだ。稽古前に戸次は「動けないから必要最低限の動きですむ」と言っていたが、「とんでもない勘違い」で「稽古が始まってからギックリ腰になった」とパンフレットに書いていた。肉体的にも大変な上に、フランソワのマシンガントークに応戦しなければいけない。愛之助が「至近距離での剛速球のキャッチボール」と言う2人の会話。コメディの笑いは、スピードとテンポと正確さが命だ。次々とたたみかけるように笑いの波を巻き起こしていく、愛之助との見事なコンビ力。表面は笑みを浮かべお腹の中では相手をバカにしている、自信家で人を見下すイヤなヤツ。そんなピエールが、悪意のない天然のフランソワによって本音を周囲に暴露されることになり、なんか可哀そうなヤツやん、という印象に。ただのドタバタで終わらせないのが大人のフランスコメディだ。

 また、他の登場人物も実力派が担う。巻き込まれて入って来るピエールの親友ルブラン。唯一ピエールの頼りになるとてもいい人。演じる原田優一のリアクションが、すごく自然でいい。観客目線で一緒に笑わせてくれる。もう1人、こちらはけっこう変人度の高い情熱的な女性マルレーヌ。野口かおる、振り切ってます(笑)。そして2幕に登場する、フランソワが助っ人に呼ぶ友人の税務調査官シュヴァルに坂田聡。フランソワと類友な会話が笑える。この人、助っ人のはずなのに、より一層大変なことになってしまうのだけど(笑)。
 総勢7名のコンパクトさで、良く出来たコメディの楽しさを存分に届けてくれる舞台。大阪公演が終わるまで、戸次がギックリ腰を再発しないよう祈りながら来阪を待ちたい。

取材・文=高橋晴代

「奇人たちの晩餐会」

■出演
片岡愛之助、戸次重幸
水 夏希、原田優一、野口かおる、坂田 聡、大森博史

■作
フランシス・ヴェベール
■翻訳
岩切正一郎
■演出
山田和也

大阪公演

日時:2022/06/25(土)~2022/06/27(月)≪全4回≫
会場:森ノ宮ピロティホール
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