2022/3/4
インタビュー
――今回、題材に選ばれたのは、河竹黙阿弥の名作『青砥稿花紅彩画』(あおとぞうしはなのにしきえ)です。
『青砥稿花紅彩画』は『白浪五人男』というゴレンジャーのはしりになったお芝居になります。それが物語の中心なのですが、戸塚さん演じる宗之助が、現代の強盗団の一員としてタイムリープして、その時代の人たちとコミュニケーションを取りながら話が進んでいく。今まで六本木歌舞伎は比較的、新しい試みをしてきたんですが、古典というものを新しい角度で見えるように、かつ古典を尊重した作品になります。そこを楽しんでいただきたい。
『ハナゾチル』という題名は、悪の華や、男たちの生きる姿を表しています。そもそも『白浪五人男』というタイトルの由来は、海の白波がサーッとはける、その潔さやはかなさを表現しているんです。「桜は散ることを知りながら咲くことを恐れない」という言葉があるように、白波と花が散っていく様は、当時の若者たちの粋というか、生き様に似ていると思うところもあり、そういう意味も踏まえて『ハナゾチル』という題名になりました。
――作品のどこに魅力を感じますか。
歌舞伎の部分が非常に分かりやすい。私が浜松屋の場で弁天小僧菊之助という役で女装をして、ゆすりたかりに行くんです。ばれるのに堂々と行く。普通はばれたら「すみません」とか「二度としません」と謝りますが、「えっ、君たち私のこと知らないの? 知らないんだったら教えてあげるよ」と、こちらが明らかに悪いのに言う。そして、説明して皆を唖然とさせて、堂々とその場から消えていく。そういうのは古典ならではの面白さです。初めてご覧になる方には「実は古典は面白いぞ」と思ってもらえるような作品なんです。
――六本木歌舞伎で演目を選ばれる時のコンセプトは?
時代の流れがあるんですよね。最初は、十八代目中村勘三郎さんが私に「地球を投げるくらいの荒事をしないと」とおっしゃったことがテーマとなって『地球投五郎宇宙荒事』が上演されました。その後には『座頭市』や『羅生門』など、新しいタッチの作品をしました。コロナ禍で、六本木歌舞伎とは別に、今年の1月も新作歌舞伎『プペル~天明の護美人間~』を上演したので十分に新しいことには挑戦しました。新しいことをするのはいいことだと思いますが、古典の演目も尊重しながら、多くの方に楽しんでいただくには『青砥稿花紅彩画』がいいという判断になりました。
――戸塚さんは歌舞伎に初挑戦です。海老蔵さんが期待されることは。
今後稽古をしながら戸塚さんと向き合っていく中で、どこか似ているところがあるんだろうなと思うので、そういう部分を発見できるのが楽しみです。演出で戸塚さんが得意とするアクロバティックでパルクールみたいな動きがあればいいなと期待しています。
――三池監督と海老蔵さんは何回もお仕事をされていますが、監督から刺激を受けたり学んだりしたことは?
監督は強面ですが(笑)、すごく優しいんですよ。何のために映画を作られているかといえば、もちろん、お客様のため、作品のため、ご自身のためと大前提があるんですが、撮影の後に、スタッフの方々がビールをプシュッと開けて「ああ、今日もいい仕事したな」と思えるようにするために気を遣う、繊細な方です。どちらかというと暴力的な作品が多いんですが、それとは全く逆に、監督の中に流れている優しさをいつも感じますね。演出されている時も対応が優しいです。三池監督はそういった魅力のある方なので、作品から痛みが伝わるんだと思います。今回の『白浪五人男』もいわば不良の話で、監督の作品には「クローズ ZERO」という映画もありますので、そのような点でもアドバイスをいただけるかと思っています。
――演出は藤間勘十郎さんです。
勘十郎さんとは、たくさん一緒にお仕事をしていまして10年以上のお付き合いですが、音楽的なセンスが素晴らしい方です。最近は歌舞伎以外にも宝塚歌劇団の作品なども演出されていて、勘十郎さんなりの世界観を持ち出してきてくれるはずです。普段は私は台本にも演出にも口を出すタイプなのですが、今回はお任せしようと思っています。
――海老蔵さんが観客に見てほしい、これはというシーンは?
『白浪五人男』の弁天小僧菊之助が女性(女装)から男性に変わる場面と、『どんたっぽ』という立廻りの音楽効果がある、最後のクライマックスとなる場面ですね。感染対策をしっかりした上で、花道も作りますので、臨場感あふれる舞台になると思います。
TEXT:米満ゆうこ
六本木歌舞伎2022
『青砥稿花紅彩画』より『ハナゾチル』
日時:2022/03/18(金)~2022/03/21(月・祝)≪全5回≫
会場:フェスティバルホール
■脚本
今井豊茂
■演出
藤間勘十郎
■監修
三池崇史
■出演
市川海老蔵
戸塚祥太( A.B.C-Z)
中村児太郎
市川右團次 ほか
公演詳細
https://kyodo-osaka.co.jp/search/detail/3876