2021/12/2
取材レポ
『ザ・ドクター』の舞台は、現代のイギリス最高峰の医療機関・エリザベス研究所。大竹が演じるのは、その創設者であり所長のエリート医師・ルース。ある少女の死をきっかけに、ルースにさまざまな社会問題が降りかかり、医師としての自分を見つめ直していくという物語だ。大竹は偶然にも19年にロンドン初演の舞台を観ていた。「この芝居は絶対に観た方がいいよ、と勧められて。言葉もわからないのに、細やかな演出と主演の女優さんの演技に圧倒されて、すごい芝居だなと。しばらくして『日本でやるので、やってみませんか』と言われ、本当にびっくりしました。実際に台本を読んでみて、こんなに深い話だったのかと」。
作品には宗教、ジェンダー、人種差別、SNSなど現代社会に通じる問題が多く盛り込まれている。最初は「お客様にわかっていただけるだろうか」と思った大竹だが、舞台が開幕してからは「客席がすごい緊張感と喜びをもって観てくださっているのがわかって、芝居がどんどん成長してきたという感じがしています」と話す。難しい話かと構えながら観ていると、濃密な人間ドラマの中に「謎解きのパズルがだんだん解けていくような仕組みの戯曲になっていて、最後に『ウソでしょ、なんでこうなっちゃうの』っていう、そんなおもしろさもあるんです」。
俳優たちの確かな演技、栗山の「すごく細やかな演出」により、休憩を含み約3時間の芝居は観客を目が離せない緊張感の中に巻き込んでいく。「絶対にその3時間を一緒に緊張してくれた喜びに浸れると思う。観終わったあとに、誰かと2時間ぐらいしゃべりたくなるという人が多いです。脳と感情を刺激する感じ」。そして、多くの問題の答えは出してくれない。この芝居を観た人の数だけ答えがある。「どの問題に何を感じるかは自由だし、観る人によって全然違う観方ができる作品です」。
大竹の関わるさまざまな舞台は、生の演劇を観る醍醐味にあふれた作品が多いように思う。「劇場は、考えたり感じたりする場所だと私は思っているので、まず劇場に来ていただかないと。2時間55分の中のたった数秒の一言だけでも『観てよかった』と思うように、心にバン!って入るのが生の舞台だと思うんですよね。巻き戻しできない。その日、その劇場に来られたお客様だけのためにやるわけですから。そんな芝居だと思います」
関西公演の芸術文化センターは今年、栗山演出、大竹主演の同コンビで『フェードル』を上演した劇場だ。「本当に演りやすく美しい劇場なので、栗山さんは『あぁ、これは合ってるね』とおっしゃっていました。温かいお客様も多くて。関西の人は正直で熱いです(笑)」。
コロナ禍で3本の芝居を上演し続けて来た1年。「今、この状況でもこの芝居を観るためにお客様がその空間の中にいてくださることは本当にありがたいことだと改めて思います。今、11人がチームになって1回1回緊張感が途切れることがないぐらいやっています」。その緊張感を楽しみながら、今日1日を舞台で精いっぱい生きる。”今”を考えるひとときを存分に堪能したい。
取材・文:高橋晴代
パルコ・プロデュース2021
『ザ・ドクター』
■作
ロバート・アイク
■翻訳
小田島恒志
■演出
栗山民也
■出演
大竹しのぶ / 橋本さとし 村川絵梨 橋本淳 宮崎秋人 那須凜 天野はな 久保酎吉 / 明星真由美 床嶋佳子 益岡徹
日時:2021/12/02(木)~2021/12/5(日)≪全5回≫
会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
公演詳細