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大竹しのぶ主演『ザ・ドクター』が開幕!埼玉公演レポート

2021/11/6

公演レポ

パルコ・プロデュース2021 『ザ・ドクター』

まさか、こんなラストシーンが待っていたなんて―――――。怒り哀しみ、あるいはそれが安堵によるものなのか。こみ上げた感情に未だ言葉を見つけられずにいる。2021年の締めくくりに全国6都市で上演される大竹しのぶ主演舞台『ザ・ドクター』。医療現場を舞台に欲望と信念の対峙を描く、白熱の人間ドラマだ。2019年のロンドンで初演、翌年のローレンス・オリヴィエ賞で作品賞、女優賞ノミネートなど数々の演劇賞を受賞した注目作が、栗山民也演出により早くも開幕。ツアーの初日を飾る埼玉公演では、会場を埋め尽くす観客が固唾を呑んでことの成り行きを見守った。

 
イギリス最高峰の医療施設の一つ、エリザベス研究所。所長ルース(大竹しのぶ)は自ら妊娠中絶をしようとして失敗し、敗血症を患い緊急搬送されてきた14歳の少女を看取ろうとしていた。そこに「少女の両親に頼まれた」と、臨終の典礼を授けるカトリックのライス神父(益岡徹)が現れる。ルースは医学的見地から面会を認めず、少女はその後息を引き取る。このことがSNSを通じてスキャンダラスに拡散され、ルースは窮地に立たされる。所長の座を狙うハーディマン(橋本さとし)ら反対勢力も彼女を糾弾。世論やスポンサーを理由に、しかるべき“謝罪”を求めるのだが……。
 

悪しき習慣、ことなかれ主義、女性嫌悪、派閥、属性、立場、人種。まだある。もっとある。登場人物らの主義主張を聞くにつけ、思いつくまま心に書き留めた思いや疑問。でも、だけど、と不用意に思考を巡らせれば、多様性が指し示す途方もない海原に投げ出され、溺れそうになる。正当に思えた主張がこんなにも通らないことへの憤りや不安。分かり合えなさに対し人はどこまで寛容でいられるのか。それが、個人の尊厳に関わる問題だとしたら? 分からない。劇は正解を示さない。それでも、登場人物たちの姿からは、ひとつの指針が浮かび上がる。
 

自分は何に重きを置き、何に救いを求めるのか。自らの軸を認識することの重要性だ。他者との差異によってそれらが浮き彫りになるのだとすれば、この劇は自分を知る上でも大きな助けになるだろう。とりわけルースが終盤口にする“ほころび”が現実味を増すいま、誰もがこの劇に触れ、願わくば議論を交わし、問題意識を共有することが急務に思えてならない。
 

主軸を担い、抜群の集中力で場を牽引する大竹しのぶ。ルースのギリギリの精神性を表出させる術は鮮烈で、観る側も無防備なままではいられなくする。橋本さとしは地位も実力も併せ持つ権力者。自分に正直という点ではルースと互角に対峙する。橋本淳の腹の底が読めないクセ者感と、宮崎秋人が魅せる高潔な良識さとの対比も効果的。村川絵梨から漂う快活さとスマートさ、久保酎吉が担う中立性、那須凜が示す未熟さと行動力も印象深く、明星真由美の食えない大物ぶりも堂に入っている。また、天野はなが放つ思春期の瑞々しさと、床嶋佳子が体現する愛の幻影は、生死ほどにも極端に振れるルースの内面と詩的に絡み合いドラマを誘う。そして信仰を司る神父役の益岡徹。ルースと交わす終盤の対話はまるで寓話を見るよう。宇宙的な広がりが、物語に神聖さとひと時の安らぎを与える。
 

圧倒的な言葉の応酬に加え、ライブだからこそ伝わる感覚に身を浸す約3時間。終演後胸に去来する思いに、あなたならどんな言葉を与えるだろう。

取材・文:石橋法子
撮影:宮川舞子





パルコ・プロデュース2021
『ザ・ドクター』

作 :ロバート・アイク
翻訳:小田島恒志
演出:栗山民也

出演:
大竹しのぶ / 橋本さとし 村川絵梨 橋本淳 宮崎秋人 那須凜 天野はな 久保酎吉 / 明星真由美 床嶋佳子 益岡徹

日時:2021/12/02(木)~2021/12/05(日)≪全5回≫
会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール

公演詳細



ー「人間である前に、医師だと思っています」ー
とある医療機関のパワーゲーム 現代社会の縮図がここにある

本作品は、2019年ロンドンのアルメイダ劇場のアソシエイトディレクターであるロバート・アイクが、1912年に発表されたシュニッツラーの「Professor Bernhardi(ベルンハルディ教授)」を翻案し、自ら台本を手がけて演出。同劇場で開幕するやいなや、連日SOLD OUT、ザ・ガーディアンをはじめ各紙でFIVE STAR★★★★★(最高評価)で絶賛され、翌年2020年には英国で最も権威あるローレンス・オリヴィエ賞「Best New Play(作品賞)」「Best Actress(女優賞)」のノミネートを始め、イギリス演劇賞各賞に輝いた今最も注目の話題作です。
医療研究所の所長でありエリート医師のルース。ある少女の死をきっかけに、宗教・ジェンダー・階級差など、あらゆる社会問題がルースの頭上に降りかかり、医師としての自分を見つめ直していくという物語。

そして日本初演となる今回、PARCO劇場オープニング・シリーズ『ゲルニカ』を第28回読売演劇大賞優秀作品賞に導いた栗山民也を演出に迎え、主人公ルース役には『ピアフ』で第49回菊田一夫演劇賞『フェードル』で第52回 紀伊国屋演劇賞を受賞するなど、名実ともに日本を代表する大女優大竹しのぶ。デビュー以来休むことなく舞台に立ち続け、栗山が絶大な信頼を置く大竹が今回演じるのはエリート医師!とある医療機関で繰り広げられるパワーゲーム。大竹にとっては久しぶりの社会派現代劇で、自らの医師としてのアイデンティティと向き合うこの難役を、いかに演じるのか期待が高まります。
 共演には橋本さとし、村川絵梨、橋本淳、宮崎秋人、那須凜、天野はな、久保酎吉、明星真由美、床嶋佳子、益岡徹ら実力・人気を兼ね備えた俳優達が結集、現代の苦悩と縮図が魅力的に描かれた最高傑作をお届けします。どうぞお楽しみください!


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