2021/11/9
取材レポ
――念願の藤本有紀さんとの舞台は、ミステリー・コメディです。
松尾:出演させてもらった時代劇「ちかえもん」では、今までのドラマにない作劇の自由さと台詞の面白さを感じて斬新でした。自分が新作を書いてもらうならこの人だなと。一緒にやりませんかと言って4年ぐらいたって今なんですね。やっぱり自分では衣裳の転換とか、暗転がなるべく入らないようにと考えて書くんですけど、藤本さんはその辺ものすごい自由で。現実世界と小説世界の登場人物が行きつ乱れつみたいな、そういう混沌とした中でトリックなどの伏線はちゃんとあって、最後の方には回収されていく。演劇とドラマが合わさったような不思議な作品で、とてもドラマの作家が書いたとは思えない。演劇的自由さがえぐいです(笑)。
――松さんは、初めて松尾さんの舞台に出演されます。
松 :今回は藤本さんが台本を書かれるという、松尾さんにとってもチャレンジの機会に呼んでいただいて嬉しかったです。松尾さんの演出は面白いです。人の稽古を見て「楽しんでいる場合じゃない」と、はたと気付くくらい面白い稽古場です。
仰ることはシンプルだったり、難しいことではないんですけど、すごく的確で速いですね。何かが速い人な気がします。考えることなのか……、じっくり考えてらっしゃるんですけど、何かが……すごい面白いです(笑)。
――主人公は、松たか子さん演じる冴えない小説家の「てまり」。彼女が担当編集者(神木隆之介)と丁々発止を繰り広げつつ、英国小説「クリスマス・キャロル」を題材にした貸金業者(小日向文世)の殺人事件を巡るミステリー・コメディを書き始めることから物語が動き出します。
藤本さんにはどういう脚本の依頼を?
松尾:自分も作劇をしますけど、割とカオスというか、布石を置いて最後に回収して綺麗に終わるみたいな、いわゆるエンタテインメント的な話が書けたことがない。そういう話を一度やってみたかった。映画やドラマにも展開できる、メディアミックス的なこともできたらいいなという思いもあって。藤本さんには「ミステリー。しかもエンタテインメントでコメディ作品を」とお願いしました。
クリスマスとか、各々に大事な日というのはきっとあって、そういう日に事件が起きる。だからこそみんなで解決していくアドベンチャー感みたいな。わずか2日間の物語なんですけど、作家が創った小説の世界と、作家のいる現実との両方でミステリーが起きる。それを夢を見るみたいな感じで解決していく。すごぐ斬新な推理ドラマなんです。それから僕は松さんの歌声が大好きで、初めから歌ありきでお願いしました。
――出演には松たか子さんを筆頭に、神木隆之介さん、小日向文世さんなど豪華な顔ぶれが揃いました。
松尾:松さんと神木君が喋っているシーンで始まるんですけど、そのメジャー感というかポップさは、今まで自分が作ってきた芝居とは180度違う感じが新鮮で。そのシーンばっかり稽古しています(笑)。
小日向さんとの舞台は17年ぶりぐらい。その間ですごくお売れになって、テレビの向こう側の人というイメージでしたが、いま稽古場で「こんなにも舞台の人なんだな」とつくづく感じています。テレビでの重厚な小日向さん「どこ行った?」みたいな。稽古を楽しんでくれているのが、すごく嬉しい。
――松さんが考える「てまり」はどんな女性ですか?
松 :もしかしたらこのクリスマス・キャロル殺人事件というのは、彼女の容量を上回って作ったお話なのかもしれない。基本的には身の丈を感じながら生きて来たような人で、それがクリスマスの魔法なのか、思わぬ広がりを見せて。どんな人にもささやかな奇跡は起こるのかなっていう。
松尾さんにはこらえ性の無い女と言われていて、劇中では編集長が「小説を書きさえしなけりゃいい女」っていうんですけど、それってどういう女なんだろうかと。いつもその台詞を聞きながらすごい引っかかっています。その辺りが自分の課題かな。色んな言葉や台詞を聞きながら、ちょっとでも魅力が出てくればいいなと思います。あと、登場人物はあくまでも「てまりの頭の中に出て来た人たちなんだぞ!」っていう。リアルを追求したいし、でもてまりの想像の中のことだったり。すごく大変なんですけど、自由なんで。やるところはやりつつ、遊びというか楽しみの詰まった舞台になるんじゃないかな。
――松さんは、人気ドラマ「大豆田とわ子と三人の元夫」でもコメディセンスが光りました。
松 :私自身は全然、面白いことを面白く話せない人間なので。本とか、それを作る方に引っ張り出してもらっている感じです。面白いことをやろうと思うと多分失敗するから。とりあえずできるのは一生懸命に喋ったり動いたり。そこにいる人たちを面白いなと思いながら、日々過ごすことくらい。
松尾:そう謙遜されますけど、やっぱり動きとかが面白い。無駄がないというか。笑いの間ってやっぱり動きによって決まったりするもんで。無駄な動きが入ると間が崩れる。そういうところでピシッと止まってくれるところがありがたいですね。松さんといえば歌とか声とか言われますけど、笑いが出来ているっていうのが、ほかの女優とは違うところですよね。
――最後に、関西のファンへメッセージを。
松尾:藤本さんが関西の方なので、大阪の方には馴染みがあるんじゃないかな。こういう人が書いたんだと、朝ドラの予習としてでも楽しいんじゃないかと(笑)。緊急事態宣言が明けて少し穏やかになってきたということで、安心して観に来てほしと思います。
松 :大阪の方も芸事が好きな方が多いので、また皆様に会えるのを楽しみにしています。森ノ宮ピロティホールが初めてなのでドキドキしてます。「こんなことをやってたのね!」という盛りだくさんのお芝居と共にお邪魔すると思いますので、ぜひいらしていただければと思います。
取材・文:石橋法子
撮影:引地信彦
COCOON PRODUCTION 2021+大人計画
「パ・ラパパンパン」
■演出
松尾スズキ
■作
藤本有紀
■出演
松たか子、神木隆之介、大東駿介、皆川猿時、
早見あかり、小松和重、菅原永二、村杉蝉之介、
宍戸美和公、小路勇介、川嶋由莉、片岡正二郎、
オクイシュージ、筒井真理子、坂井真紀、小日向文世
日時:2021/12/04(土)~2021/12/12(日)≪全11回≫
会場:森ノ宮ピロティホール
公演詳細