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ほろ苦さを抱きしめながら、エネルギッシュに騒いで笑う松尾スズキ流ミュージカル――『クワイエットルームにようこそ The Musical』開幕レポート

2026/1/16

公演レポ

COCOON PRODUCTION 2026 『クワイエットルームにようこそ The Musical』

松尾スズキが作・演出を務めるミュージカル『クワイエットルームにようこそ The Musical』が1月12日に東京・THEATER MILANO-Zaで開幕した。2005年に発行され、芥川賞にもノミネートされた松尾による同名小説が原作で、2007年には松尾の脚本・監督で映画化もされた作品だが、松尾自身が「いつかミュージカルに」と長年構想を温めてきたという。出演は咲妃みゆ、松下優也ら。

物語はバツイチ28歳のフリーライター・佐倉明日香が主人公。取材や締め切り、そしてプライベートでも問題を抱えストレスフルな日常を送っている彼女は、ある日目覚めると手足を拘束され、見知らぬ白い部屋にいた。そこは女子専用の精神科病院の閉鎖病棟の中でも、特別に隔離された部屋――クワイエットルーム。大量摂取した睡眠薬が原因で意識を失い、オーバードーズをした自殺志願者とされてしまったのだ……。

ポップでユニークなミュージカルだ。冒頭、咲妃みゆ演じる明日香が仕事に忙殺されているシーンは、マンボのリズムにのせたラップ。軽快でありつつ、淡々とした咲妃の歌唱は倦怠感も漂わせ、一方で群衆たちは「うまく社会の歯車となれ」「目立つな、群衆の一部になれ」と皮肉めいたことを壮大に歌い上げる。これぞ松尾スズキといったシニカルで刺のあるオープニングは、これは一筋縄ではいかないミュージカルだぞと暗に訴えかけてくるかのよう。実際、登場人物の爆発するような感情が歌になるという、ミュージカルとして王道の作りを取りながら、誰かが歌っている横で別の人物がフラットにツッコんでいたりして、素直に感動させることを拒否するかのようなひねくれ具合だ。宮川彬良による音楽は多彩でキャッチー、耳に残るポップな名曲揃いなのが、そのユニークさを加速させる。精神病という、近年ではその理解が浸透つつはあるが、いまだアンタッチャブルなものとして扱われがちな病をテーマにしつつ、全編笑いに覆われた楽しい作品だ。

キャストはミュージカル界で活躍する俳優と、松尾が主宰する大人計画のメンバーの混合戦といった様相。明日香を演じる咲妃は、わが身に起きたことに混乱し、自分はこんな場所にいる人間ではないと訴え、そんな状況に陥っても仕事が気にかかる仕事人間でもあり、そしてその実“闇”を抱えている人物……という、物語が進むにつれどんどん印象が変わっていくキャラクターを体当たりで演じる。咲妃の演技力の幅広さも改めて感じる好演だ。明日香の同居人である焼畑鉄雄役の松下優也は、この人には珍しく気弱でちょっと情けない男性を、絶妙なユーモアと優しさで演じていく。個性派揃いの大人計画メンバーにも負けないインパクトだ。患者の一人であるミキは昆夏美。いわゆる“地雷系”のような外見でありながら、実は哲学的で作品の芯となるようなことを言う少女を、さすがの歌声とともに見事に表現した。杓子定規で患者たちの敵のような看護師の江口は、映画でも同役を演じたりょう。怖さとユーモラスさ、そして垣間見せる人間味が絶妙だ。

元ぽっちゃり専門デリヘル嬢の久米を演じる皆川猿時の楽しさとおおらかさ、看護師の山岸を演じる桜井玲香の力みなさと癒しオーラ、元AV女優の西野役の秋山菜津子の迫力のキーパーソンぶり、栗田役・笠松はるの美声と天然めいた不思議さと、それぞれが適材適所でエネルギッシュ。金原役・池津祥子のすっとぼけた姿、明日香の元夫役ほか様々なシーンでインパクトを残す近藤公園、映画と同じ役柄で登場する宍戸美和公の衝撃など、大人計画メンバーの活躍も楽しい。

そんな楽しさの中で描かれるのは、「自分には価値がない」と思っていた人間がどん底から這い上がる、再生の物語。自らの問題と向き合い、顔を上げ一歩踏み出す明日香の姿には希望が見えるが、希望だけではなく胸の奥にほろ苦さも残るのがとてもリアルだ。世の中は綺麗ごとだけではすまない。それでも「ただ、生きている」ことへの肯定は、誰しもがどこか生きにくさを抱えている現代人へのエールになる。素直になれないひねくれものたちがほんの少し顔を上げる姿と、ミュージカルへのまっすぐな愛を照れながらも表現した松尾演出のマリアージュが到達したのは、意外にも穏やかな満足感である。

公演は2月1日(日)まで同劇場にて上演。その後2月7日(土)から11日(水・祝)にロームシアター京都 メインホールで、2月22日(日)・23日(月・祝)には岡山芸術創造劇場 ハレノワ 大劇場で上演される。チケットは発売中。

取材・文:平野祥恵

 

COCOON PRODUCTION 2026
『クワイエットルームにようこそ The Musical』


■作・演出
松尾スズキ
■音楽
宮川彬良
■振付
スズキ拓朗

■出演
咲妃みゆ 松下優也 昆夏美 皆川猿時 桜井玲香
池津祥子 宍戸美和公 近藤公園  笠松はる
りょう 秋山菜津子

香月彩里 田川景一 エリザベス・マリー 中根百合香
永石千尋 原梓 藍実成 感音 古賀雄大
羽衣* 芹犬* 等々力静香* 中野亜美* 吉田ヤギ*
(*コクーン アクターズ スタジオ第1期生)

▶▶オフィシャルサイト




京都公演

|日時|2026/02/07(土)~2026/02/11(水・祝)≪全6回≫
|会場|ロームシアター京都 メインホール
▶▶公演詳細

岡山公演

|日時|2026/02/22(日)~2026/02/23(月・祝)≪全2回≫
|会場|岡山芸術創造劇場 ハレノワ 大劇場
▶▶公演詳細

 

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