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咲妃みゆが念願の松尾スズキ作品に挑戦!

2025/11/29

インタビュー

COCOON PRODUCTION 2026 『クワイエットルームにようこそ The Musical』

自身の手で映画化もされた松尾スズキの小説『クワイエットルームにようこそ』が、満を持して舞台化される。それもミュージカルとして立ち上がるというのだから、精神病院の閉鎖病棟を舞台にした濃い人間ドラマがどう生まれ変わるのか、楽しみは尽きない。しかも、精神的な問題を抱える人々のなかに放り込まれる主人公・佐倉明日香を演じるのは咲妃みゆ。元宝塚歌劇団雪組トップ娘役と松尾スズキの世界という組み合わせも、興味深いところであるが、意外にも本人は松尾作品への出演を熱望していたという。宝塚退団後、さらに磨きがかかっている演技力で、その独特な世界にどう挑むのか。力強い言葉をたくさん聞くことができた。

──『クワイエットルームにようこそ The Musical』に主役の佐倉明日香役で出演されます。稽古がまだ始まっていない段階ですが、作品についてどんな印象をお持ちですか。

「映画化もされている作品ですが、今回の舞台版は原作をしっかり活かしつつ、ミュージカルならではの構成になると伺っていたので、どんな台本になるか楽しみにしていました。これを体現できれば、きっとお客様にも楽しんでいただける舞台になるだろうなと感じています。」

──この作品は、「クワイエットルーム」と呼ばれる女子専用の精神病棟に放り込まれたフリーライターの主人公が、奇妙な仲間たちと過ごす日々が描かれます。楽しんでもらえるものになると感じられた具体的なポイントも、ぜひ教えてください。

「明日香が仕事に追われる場面から突然病棟のシーンになったり、妄想の世界に飛んでいったり、シーンが目まぐるしく変わっていきます。松尾さんが一体どんな風に思い描いていらっしゃるのか私もわくわくしている最中ですが、お客様にもスピーディーな展開を楽しんでいただけると思います。ミュージカルということで楽曲も盛りだくさんで、松尾さんが書かれた歌詞と宮川彬良さんの音楽がとにかく素晴らしいです。松尾さんならではの言葉遊びがふんだんに盛り込まれていて、音楽との融合が面白いなと思います。さらに、いろいろな登場人物が舞台上を駆け巡る群像劇になると思うのですが一人ひとりに松尾さんの愛情が込められていて、個性が、色鮮やかに際立つ台本になっているので、そちらも楽しんでいただけるのではないかなと。私も、佐倉明日香として輝きを放てるように、(出身地の宮崎ことばで)「これは頑張らんといかんな」と(笑)、思っている次第です。」

──公演が発表されたときに、「松尾スズキさんの作品の大ファンで、いつか一緒に創作させていただきたい、作品の一部になりたい、という夢を抱いていました」とコメントされていました。そもそもどういうところに魅力を感じておられたのですか。

「松尾さんの作品は、“ジャパニーズブラックコメディ”の頂点だと私は感じています。何気ない日常の思いもよらない部分まで描いてくださっていて、どんな人をも魅力的に感じさせてくれる。そこが魅了されたポイントの一つでした。」

──宝塚歌劇団ご出身の咲妃さんにとって、そのブラックコメディな感じは、演じてこられた世界とは真逆にも思えますが。

「そうなんです。でも、松尾さんの作品に触れて、私はそういう世界が好きなんだと気づきました(笑)。ただ、届ける側として自分がその好きな世界を体現できるのだろうかという不安はあります。松尾さんの作品で拝見してきた俳優の方々は、力むことなく、生き生きと演じていらっしゃったので。自分もその境地に到達できるのか、私にとっては大きな課題です。様々な壁に直面するとは思いますが、それでも楽しんで挑みたいなと思っています。」

──演じられる佐倉明日香は、どのような人物だと捉えられていますか。

「登場してから幕が下りるまで、明日香のなかで忙しなく心が動き続けている印象があって、それは彼女の生き方そのもののように感じます。明日香はフリーライターで、原稿の締切に追われているのですが、私も締切に追われるタイプなのでちょっと近しいものを感じています。納得のいくものをお届けしたくて最後の最後までこだわりたい気持ちがあるがゆえなんですけど(笑)。そんな共通点を感じながら明日香を探求していけたらなと。また、これほど舞台に滞在する時間が長いのは今回が初めてなので、作品における自分の役割をしっかり担えるように「これまた頑張らんと」です(笑)。やりがいを感じる作品に出会えるのは幸せなことだなと感謝しています。」

──先ほど、登場人物それぞれの個性が輝く群像劇だとおっしゃっていました。その個性も、明日香と関わりで引き出されていくのではないかと想像しますが、共演の皆さんとどんな芝居ができたらと思われていますか。

「明日香のなかには「絶対にこの病棟を出るんだ」という揺るぎない目的があります。そこはブレないようにしながらも、様々な出会いに翻弄されて、それぞれの人たちとの関わりをいかに色濃くお届けできるかがポイントになるかなと。そして、全ての俳優さんが何の遠慮もなく舞台上で生きることをいかに楽しめるかが大切だと思っています。それぞれの方とお芝居する中で素敵なキャッチボールがたくさんできたらなと思っているのですが、そのためにはまず、自分が柔軟にキャッチできることが大前提だと思うので。主演の立場で引っ張っていくというよりは、何でも吸収するつもりで、稽古に臨みたいと思っています。現段階では想像できないことが待ち受けていそうですけど(笑)。

──ということは、稽古の臨み方や役へのアプローチの仕方も、これまでとは違うことになりそうでしょうか。

「作品のことを誰よりも理解し全体を引っ張ってくださるのが演出家さんで、それは並大抵のエネルギーでは成し得ないことだと思います。ですから、どの創作現場においても、演出家さんへの敬意を抱いて挑みたいという気持ちが私にはあって、今回も、松尾さんの表現したい世界観や方向性を少しでも早くキャッチして体現できたらなと思っています。実は、俳優・咲妃みゆとしてこうしたいというものは普段からあまりなくて、自分が表現者としてその作品をいかに面白くできるかを考えるのが好きなので。今回もそのスタンスで挑みたいと思います。

──だからこれまでの作品でも、毎回違う色を出していらっしゃったんですね。直近では、初めてのケラリーノ・サンドロヴィッチ作品となった『最後のドン・キホーテ』でも、ケラさんの世界に染まっておられました。

「ありがたいことに、KERAさんやこれまでご一緒してきた演出家さんは、開幕してからも本番をご覧になりノートをくださる方が多くて、自分色になりかけたところを軌道修正してくださいました。そこで、「自分にはこんな癖があるんだな」とか、「自分はお客様に影響を受けやすいんだな」とか、いろいろな気づきをいただけて、作品の世界により集中できるようになるのです。今回も、松尾さんからの言葉を、一言も漏らさずに受け取って、自分の糧にしていきたいです。」

──そうすると、東京公演を経たうえで上演される京都公演、岡山公演では、しっかり松尾作品色になった状態を拝見できそうですね。

「そうなりたいです。だいぶ熟成された状態で(笑)、京都・岡山に伺えると期待して、お稽古から一瞬一瞬を大事に向き合いたいなと思います。」

──京都と岡山には、思い出などありますか。

「岡山には一度、日帰りで行ったことがあります。きび団子の美味しさに感激しましたけど、いろいろな種類があって全部は堪能しきれなかったので、今回は楽しめたらなと思います(笑)。京都は、宝塚歌劇団に所属していた頃に同期ともたくさん足を運んでました。現在も妹が京都近辺に住んでいるので親近感を抱いています。また、今回伺うロームシアター京都が平安神宮のそばにあるとお聞きしているので、歴史ある場所でどんな『クワイエットルームにようこそ』をお届けできるのか、本当に楽しみです。」

──自分がこうしたいというものはあまりないとおっしゃっていましたが、舞台にドラマに活躍された2025年を経て、関西圏の皆さんにはどんな咲妃みゆを届けたいと思われるでしょうか。

「関西にお住まいの応援してくださる方々から、いつも温かいお言葉をいただいています。宝塚歌劇団を巣立って、いろいろなことに挑戦するようになったね、頑張っているね、と。その度に、「挑戦することで元気をお届けしたいな。一度きりの人生、一つでも多くのチャレンジをして過ごしていきたいな」と思うので。関西に足を運ぶ機会も時間も限られているからこそ、もっともっと興味を持っていただけるように努力を重ねていきたいです。キャストの方々やスタッフの方々からたくさんの刺激をいただきながら、今回もチャレンジを積み重ねていきたいと思います。」

──おっしゃっていたように「遠慮なく」挑戦していくということですね。

「まさに。遠慮していたらもったいないですから!」

取材・文:大内弓子
撮影:山川晴治(dipsilon inc.)

 

COCOON PRODUCTION 2026
『クワイエットルームにようこそ The Musical』


■作・演出
松尾スズキ
■音楽
宮川彬良
■振付
スズキ拓朗

■出演
咲妃みゆ 松下優也 昆夏美 皆川猿時 桜井玲香
池津祥子 宍戸美和公 近藤公園  笠松はる
りょう 秋山菜津子

香月彩里 田川景一 エリザベス・マリー 中根百合香
永石千尋 原梓 藍実成 感音 古賀雄大
羽衣* 芹犬* 等々力静香* 中野亜美* 吉田ヤギ*
(*コクーン アクターズ スタジオ第1期生)

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京都公演

|日時|2026/02/07(土)~2026/02/11(水・祝)≪全6回≫
|会場|ロームシアター京都 メインホール
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岡山公演

|日時|2026/02/22(日)~2026/02/23(月・祝)≪全2回≫
|会場|岡山芸術創造劇場 ハレノワ 大劇場
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