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皆、違う価値観を持っているからこそストーリーが弾み、チームプレイが結束する

2025/12/15

公演レポ

松竹創業130周年 『スイートホーム ビターホーム』

中山優馬がハウスメーカーの営業に扮する〝お仕事コメディ〟「スイートホーム ビターホーム」が大阪松竹座で開幕し、初日に先立って、ゲネプロ公開と囲み取材が行われた。キャストのコメントを交えながら、公演の模様をレポートする。

舞台は大きな梁のある吹き抜けの天井に、シューズインクローゼットや広いリビングが広がり、広告で見かけるような今風のモデルハウスの一室。「心が帰る家」をコンセプトに掲げた中山演じるハウスメーカーの営業担当で新任店長の努力(ぬりき)良介が、タブレットに向かってペコペコとお辞儀しながらインターネットを通して客に家の内装を説明し、家を売ろうとしている。同じ会社の頼もしい先輩・田辺舞子(瀬戸カトリーヌ)や、ゆとり世代の後輩・丸元翔太(井上拓哉)も勤務する中、若手エースの弓川夏葉(藤野涼子)がモデルルームに訪れた顧客を対面で案内している。夫婦の客が帰った途端、田辺が「財布を握っているほうを見極めて攻め込む」と営業方針を示したり、努力が「昔は家を買う客は直感で分かった」と言ったりして、モデルルームの実態はこんなものだろうと思わせられ面白い。何事もひやかしで来る客は営業から一発で見破られるのだろうと、身に覚えがあって恥ずかしくなる。

続いて、職人を多く抱える施工会社のやり手の社長・段田晴菜(舞羽美海)が登場。「お久しぶりぶり左衛門」「冗談はよしこちゃん」など昭和のギャグを連発し、新喜劇のようで吹き出してしまう。そんな中、努力の上司の権藤部長(駿河太郎)から「このモデルハウスのタイプの物件で不具合が発生し、原因は調査中」との情報が入る。しかし、努力の元恋人の佐久間亜紀子(秋元才加)と、そのパートナーを名乗る怪しい男の山田(佐藤アツヒロ)も内覧に訪れ、大いに家を気に入ってしまう。

本作は、映画「るろうに剣心」シリーズや、連続ドラマ・映画「おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!」などの脚本を手掛ける藤井清美が作・演出を担当。「ブラック or ホワイト? あなたの上司、訴えます!」「行先不明」に続く、藤井が書き下ろした〝お仕事コメディ〟シリーズの第3弾だ。「共感したり、くすっと笑えたりする場面もたくさん出てくるんですが、それ以上に、人間と仕事の関係性の深さや、仕事をする上で自分は何を大切にしているのかということを改めて考えるきっかけになる作品です」と主演の中山は語る。

上司と部下に挟まれて右往左往している部長の権藤、後輩に活を入れたくてウズウズしているが「パワハラになるかも」と躊躇する田辺や、ゆとり世代の丸元、ドライで昭和世代との触れ合い方が分からない弓川ら、登場人物のキャラクターや会話、世代間のギャップがリアルで笑えて、現代の日本社会の縮図のようだ。店長と部下が客を取り合いしたり、退席したい時は、皆、一斉に携帯電話に電話がかかってくるふりをしたり、少しブラックなビジネス上の〝あるある〟が、キャストの呼吸の合った掛け合いと絶妙の間で繰り広げられる。中山は「色んな世代の色んな価値観を持った人たちが同じ一つの職場で出会い、喧嘩をし、様々なことが巻き起こる。皆、違う価値観を持っているからこそ、ストーリーが弾み、チームプレイが結束する。そのチーム感も見どころです」と自信を見せる。ひょうひょうとした怪しい男・山田を演じる佐藤は、「チームで信頼とは何かをお届けしたい」と頷く。舞羽はそのチーム力について、「藤井さんと緻密なお稽古を重ねてきました。役を通して皆が成長していく舞台なので、その繊細さが届けられたらと思います」と力を込めた。

不具合の可能性がある家を売るべきなのか。会社の売り上げにつながり、それぞれの歩合も生活もある。皆、顧客との信頼の間で葛藤し揺れ動く。二幕では、努力がなぜ、「自分自身をも信頼できなくなったのか」をはじめ、各キャラクターの背景や心の内が次々と明かされていく。社会に出ると、誰しも自分の理想や信念とかけ離れた現実を突きつけられる。就職氷河期世代の権藤、出産で出世コースから外れた田辺、謎の男・山田らのそれぞれのエピソードがヒリヒリし、心に刺さって痛い。

秋元扮するオンラインサロンの社長の佐久間は、強くて成功した女性だが、その弱さも表裏一体で描かれる。秋元は「信頼というテーマを通して登場人物たちに感情移入できる。観客が『この人、私かも』と思えるキャラクターがいて、本当に大切にしたいものは何かと気づかせてくれる作品です」と熱を込める。中山も「信頼という見えないものをつかんで、今日もそれを信じたり、挫折したりして生きていく。明日はどうなるんだろうという中で、何とか頑張るという人生そのものが描かれているんです」と言う。

仕事や信頼とは何かを観客に鋭利に問いかける藤井の巧みな筆致に舌を巻いた。また中山をはじめとするキャスト全員の表現力とユーモアも際立った。10年前、中山が初座長を務めた時に共演したという舞羽は、「素晴らしい成長ぶりです。久しぶりに会ったら男らしくなって、安心感を持って引っ張っていってもらえる」と太鼓判を押す。駿河も中山が稽古期間中にまだ別の舞台に出演中で「代役で稽古していた時もあるんですが、戻ってきたら誰よりもちゃんとしている。すごいよな、背中で見せるタイプです」と絶賛。中山は記者に向かって「皆さん、ここを書くのをお願いしますよ!」と冗談を飛ばしつつ、先輩の「(佐藤)アツヒロさんがいたから、のびのびとやらせてもらえた」と笑顔を見せた。

努力の仕事に対するひたむきさは、舞台に真摯に向き合って数多くの作品への出演を重ね、演技力を磨いてきた中山と重なる。最後に仕事で何を大切にしているかを聞いてみると、「自分の信念はとても大切なんですが、やっぱり信念だけではどうにもならない状況が出てくる。学生のころは将来を夢見て、自分の信念を曲げずに進んでいく時間はあるんですけど、社会に出て仕事をすると期日があったり、ルールがあったり、その中で生きていかなきゃいけない。その壁にぶち当たると、信念がどんどん揺らいできて、結局自分は何を一番、大切に仕事をしているのか。一番大切なことを、仕事をするという理由(口実)で隠してしまう。そこに出会う作品です」と答える。続けて、「自分も舞台が好きで出さしてもらっているんですけど、舞台は明日からの初日に間に合わないから待ってくださいというわけにはいかない。決められたルールの中で、最高のものを仕上げていくんだということ改めて実感しました」と真っすぐな瞳で頼もしく答えた。

この作品は様々な世代の人や、仕事をしているすべての人に見てほしい。きっと誰もが初心を思い起こし、奮起させられるはず。苦さと希望を含んだウェルメイドのコメディだ。

取材・文:米満ゆう子

 

松竹創業130周年
『スイートホーム ビターホーム』


■作・演出
藤井清美
 
■出演
努力良介:中山優馬
佐久間亜紀子:秋元才加
弓川夏葉:藤野涼子
丸元翔太:井上拓哉
辰巳万理:小林美江
黒田勝:駒井健介
黒田光:勝賀瀬彩莉
河野梓:雪見みと
段田晴菜:舞羽美海
田辺舞子:瀬戸カトリーヌ
権藤正則:駿河太郎
山田:佐藤アツヒロ

▶▶オフィシャルサイト




東京公演

|日時|2025/12/26(金)~2025/12/29(月)≪全6回≫
|会場|シアターH(東京)
|一般発売|11/7(金)10:00~
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