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オフ・ブロードウェイ・ミュージカル「MURDER for Two マーダー・フォー・トゥー」パルテノン多摩プレビュー公演開幕レポート

2025/9/14

公演レポ

オフ・ブロードウェイ・ミュージカル 「MURDER for Two マーダー・フォー・トゥー」

オフ・ブロードウェイ・ミュージカル『MURDER for Two』が9月6日、パルテノン多摩でプレビュー公演の幕を開けた。2011年にシカゴで初演され、2013年にはオフ・ブロードウェイに進出した作品で、日本では坂本昌行、松尾貴史の出演で2016年初演。2022年には坂本、海宝直人の新コンビで上演、そのコンビの3年半ぶりのタッグである。

坂本昌行がすごい、海宝直人がすごい! 冒頭、ふたりが争うようにグランドピアノの前に座り、張り合うように連弾をする、その賑やかで華やかな音に一気に心が踊るところから始まり、全編においてふたりの芸と魅力をとことん楽しめるミュージカルだ。出演者はふたりのみ。ふたりは歌って踊って芝居をするだけでなく、ピアノも弾く。劇中の伴奏は、ほぼすべてが彼らによる生演奏。しかも登場人物は13人以上! ふたりで13人を演じ分けていくのだ。

物語の舞台は、人里離れた不気味なお屋敷。その家の主である作家のアーサー・ホイットニー氏が自らのバースデーパーティの席で殺害された。彼を殺したのは妻のダーリアか、隣人である賑やかなマレー&バーブ夫妻か、なぜか出席している有名プリマバレリーナのバレットか、精神科医・グリフか、捜査に興味津々の大学院生ステフか……。相棒のルーと共に現場に駆けつけた巡査マーカスは、成り行きで憧れの「刑事」を名乗ってしまい、後に引けなくなる。彼は本職の刑事が到着するまでの短い時間で、真犯人を探し当てることができるのか?

容疑者たちを一手に引き受けるのは坂本。夫の死を嘆くでもなくテンションの高い被害者の妻、こちらもかしましい隣人夫妻、麗しのプリマバレリーナ、少年合唱団の子どもたちまで、いずれも何か腹に一物を抱えていそうな癖の強い容疑者たちを瞬間ごとに切り替え、めまぐるしく演じ分けていく。しかしそのめまぐるしさは観客にストレスを与えるものではなく、あくまでも楽しくユーモラスなのがお見事! 演じ分けも衣裳替えなど大きな外見上の変化ではなく、小道具は眼鏡など最小限の利用で、ちょっとした姿勢、身長の違い、しぐさ、声色の変化で見せていく。坂本の芸達者ぶりが光る。

ひと癖もふた癖もある容疑者たちに翻弄される巡査マーカスを演じるのが海宝。刑事になりたいという野心を隠さない一方で、マニュアル人間の生真面目さもある青年を、青臭さと頑固さをミックスさせチャーミングに造形する。坂本に比べると海宝自身の演じ分けの数は少ないものの、次々と別のキャラクターになる坂本を受け、前のめりになったり、困惑したり、うんざりしたりと瞬時に対応を変えるこちらもお見事だ。また戯曲上、あの手この手で瞬間的な笑いが畳みかけてくる構造になっており、何なら物語が崩壊しそうになることすら笑いにしているような作品であるが、海宝が"マーカスの成長"という軸を持って演じることで、演劇として芯のあるものになっている。

とにかく坂本と海宝が息もつかせぬ大奮闘、しかもすべてがハイクオリティ。初日前の取材会で、共同演出のJ・スコット・ラップが「アメリカでは、歌って踊ってお芝居もできる超一流の俳優のことを"トリプルスレッド"と言いますが、このふたりは3つどころか(ピアノ演奏を含めた)4つの才能を持っている」と絶賛したのも、納得だ。舞台上のふたりは汗だくで、見るからに大変そうだが、それでも生き生きと楽しそう。またふたりのパートナーシップも抜群で、セリフの掛け合いだけでなく、ピアノの伴奏を曲の途中で交代したり、さまざまな局面で息の合ったところを見せる。ところどころ、俳優の素の表情が覗くところも、ファンにとっては嬉しい限り。

上演時間は110分ノンストップ。110分のあいだ、殺人事件のミステリーの行方にドキドキし、クセツヨな容疑者に笑い、(心の中で)ツッコミをいれ、少しゾッとし、ひたすら物語に没頭し楽しんでいたのだが、幕が下りた瞬間「とんでもないものを観た!」と気付く。この大騒ぎを、たったふたりの俳優だけで作り上げていたことこそ、最もアメージングなミステリーだ!

取材・文:平野祥恵

 

オフ・ブロードウェイ・ミュージカル
「MURDER for Two マーダー・フォー・トゥー」


■出演
坂本昌行 海宝直人

■作・詞
KELLEN BLAIR
■作・音楽
JOE KINOSIAN
■演出
SCOTT SCHWARTZ / J.SCOTT LAPP
■翻訳
北丸雄二
■音楽監督
岩崎廉
■振付
本間憲一

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