2019/12/20
取材レポ
17歳で師匠の故・立川談志に入門。古典の名手として、若手の頃から存在感を放ち、抜群の人気を博している立川談春が今年、芸歴35年を迎え、全国各地で記念の独演会を開催している。大阪ではキャパ2700のフェスティバルホールが舞台。2008年に旧・フェスティバルホールで、ホール史上初の落語の独演会を成功させた談春は、兄弟子の立川志の輔と共に、2013年に開場した新しいフェスティバルホールのオープニングを飾り、以降は大阪のホームグランドの一つとしてほぼ毎年、ここで独演会を重ねている。
談春が芸歴35年の節目に選んだのは、東京でも演じ手の少ない「双蝶々(ふたつちょうちょう)」と商家の大店を舞台にした屈指の大ネタ「百年目」の2席だ。
「『双蝶々』は本当の意味での人情噺。市井に生きている人々がこういう風に生きたんだよ、善と悪は紙一重だよというような噺です。筋にそれほど起伏がないので、余計に人物をきちんと活写できないと成立しません。『百年目』は番頭さんが奉公したての頃の心境を思い出して、またいい商人に向かって頑張り直すという話だと私は思っています。私の場合は番頭さんが主人公。それは私と同世代であるという一点です。私が53歳だからできること、60歳を過ぎたら旦那が主人公になるかもしれません。令和の時代に『百年目』をやっていくなら、こんなやり方もいいんではないかという演出になると思います」
談春は自身の年代に合わせて、登場人物の思いや演じ方を変えている。10年前と今、そして10年後の談春では同じ噺でも色合いが違う。
「それは『芝浜』でも『紺屋高尾』でも一緒です。『紺屋高尾』は落語に珍しい純愛物語ですが、20代の頃は全盛の花魁に惚れたという久蔵が主人公でした。30代になると、なぜ身分違いの染物屋の職人の久蔵のところに全盛の花魁が嫁に行ったのかという疑問が生まれたので、そっちが主人公になりました。今は、それほどフレーズとしては入れていませんが、その久蔵を盛り立てる周りが、なんでこいつを支えたのかというようなことがテーマになっていきます」
談春にとって、「周年」という節目はどういうものなのだろう。
「『周年』が、なんのためにあるのかというと、『初期化』。最初は人前で落語をやれれば嬉しかった。そこにもう1回リセットするためにやるような気がします。だから常に自分を試すとか、逆に自分が試されるようなことを考えます。その一つが今年の夏に35周年記念でやったアーティストとのコラボ『玉響(たまゆら)』です。最初はご縁をいただいて、昨年、京都の平安神宮で斉藤和義くんとのコラボをやったんですけど、『玉響』ではさだまさしさんやaikoさん、斉藤和義さん、尾崎世界観さんやゴスペラーズさんが本気で歌った後の空気の中で、俺は何ができるんだというのがやりたかった。それと同じです。フェスでできるか、『双蝶々』。私ならこうやると思った『百年目』をフェスでできるのかというのは僕の中では初期化ですよね」
ここ数年、談春は落語だけでなく、「下町ロケット」などのテレビドラマや映画、CMなどにも出演し、八面六臂の活躍を見せている。
「縁があって、ドラマに出していただいたことも何もかも全部、そういう栄養が落語に出てくるんじゃないですかね。2700の箱を開けてやるから、お前がいいと思うものをやってみなと言われてもなかなかたいへんだったと思います。その間に2度目の『下町ロケット』とかがあって、いろんな演出家や監督さんが実際、そこで命懸けでやってることを見せてもらったんで、これは使えるなとか。結局、そういうドラマの現場でも考えているのは落語のことですからね」
TEXT:日高美恵
写真・鈴木心
★公演情報
立川談春 35周年記念 独演会
2020/2/24(月・祝)17:00
フェスティバルホール
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