2025/9/8
インタビュー
――『ヴォイツェック』の台本をお読みになってのご感想を教えてください。
「翻訳台本ではヴォイツェックとマリーが触れ合うシーンが多く、挑戦的だな…と思っていたのですが、上演台本には「そうしたシーンはカットします」という小川さんからのメモが付いていました。でも、これをすべてカットしたら作品が変わってしまうのではないか、どうなるんだろうと思いましたが、いざ読んでみるとヴォイツェックの人間的な部分がより深く浮き彫りになっていて、すごく伝わりやすいという印象に変わりました。」
――上演台本では、マリーはどのような人物として描かれているのでしょうか?
「マリーはヴォイツェックの一番近くにいるので、彼しかいないという印象です。ただ、ヴォイツェックとマリーの子供しかいない、他に知り合いのいない土地で強く生きている印象があります。そういう強さがあるからこそ、少しずつ変化していくヴォイツェックに抱く不安や戸惑いは、すごく人間らしいなと思いました。マリーは見知らぬ土地で泥臭く生きているイメージがあるので、それだけに、やがて彼女の身に起こることはやるせないですね。」
――マリーとヴォイツェックの関係性はどのように変化していくのでしょうか?
「マリーがヴォイツェックの過去を少しずつ知るなかで、「なんで、こうしたの?」「どうして?」という疑問が少しずつ増えていって。ヴォイツェックにはその言動にちゃんと理由があるのですが、その理由がマリーには理解し難い。そしてマリーはだんだんヴォイツェックに違和感を覚え始めるのですが、周りにはヴォイツェックしか頼れる人がいなくて…という状況に追い込まれていきます。」
――そんなマリーは伊原さんにはどのように映るのでしょうか?
「小川さんがくださった上演台本のヴォイツェックはとっても魅力的で、マリーは「しんどかったね、ヴォイツェック」と寄り添う感じがあります。ただ、「愛してる」とたくさん言うヴォイツェックに対して、戸惑う時もあって。私が思う「愛してる」と、あなたの思う「愛してる」は同義語なの?と。そういう戸惑いの中でも、マリーの言葉選びは好きだなと思いました。」
――ヴォイツェックのような現実と幻想の狭間にいる役柄は森田剛さんの真骨頂という印象があるのですが、マリーとして森田ヴォイツェックに対峙するというのも、迫力がありそうです。
「常に「ヴォイツェックと誰か」という関係性で展開していくので、森田さんの比重は非常に大きいのですが、その誰かの一人として、一対一でお芝居できる空間があることは、とっても贅沢だなと思います。森田さんからいろいろと受け止めていきたいです。」
――伊原さん待望の小川絵梨子さんの演出ですね。
「小川さんからどんな演出が受けられるのか、一番楽しみです。今は緊張感もありますが、もう当たって砕けろで、恥ずかしがらずに、怒られるのも覚悟で挑もうと思います。私は良い作品に出させていただくことが仕事をする上での一番のモチベーションなので、そういう意味では、今まで積み重ねてきたものがあったから、このマリーという役をいただけたのだと思っています。『ヴォイツェック』のカンパニーは、演出家、キャスト、スタッフの方々が素晴らしい空間を作ってくださっているので、そのことを幸せにいながら、あとはもう頑張るしかない!という心境です。」
――伊原さんはド根性派でしょうか?
「そうですね、泥臭い方だと思います。稽古が好きなのも、そうだからだと思うのですが、私は模範解答を出すのが得意で、及第点は取れるけど、それ以上の冒険ができないというタイプで、そこが自分の嫌いなところでもあって。でも、及第点を出したからと言って、舞台の稽古では毎日、同じことをしても意味がない。自分が恥ずかしいと思う動きも一回やってみる。そしたら意外と「その動きいいね」となるかもしれないし、私が動いたことによって共演者の方が「じゃあ、こう動いてみよう」となるかもしれない。そういう化学反応をいろいろと試せる稽古場は、冒険できない自分にとってはすごくいい環境だと思っています。どこかで恥ずかしい思いをしたくないという気持ちがあるのですが、それを乗り越えて、稽古をしながらマリーを完成させていこうと思います。」
――では、『ヴォイツェック』はこんなふうに見たら面白いよと、特に伊原さんと同世代の方に向けてアドバイスをいただいてもいいですか。
「「冷戦下の1981年ベルリン」という時代背景ですが、内容はシンプルに人と人との関わりのお話です。会話も至って普通なんですよ。ヴォイツェック、マリー、ヴォイツェックの上司やその奥さんなど、登場人物それぞれには役割がありますが、彼らの間で交わされる会話はすごく分かりやすいので、内容もすっと入ってくるのではないかなと思います。一人一人のキャラクターの人間性が濃く描かれているので、「こういうお隣さんいるよね」とか、「こういう偉そうな、意味のわかんない説教してくる上司いるよね」など、「人間ってどの世界でも一緒だな」と思えるような場面もあると思います。人として生きていく上で共感できるセリフやシーンもたくさんある作品だと思うので、楽しんでもらえるのではないかなと思います。」
取材・文:岩本和子
撮影:桃子
パルコ・プロデュース 2025
『ヴォイツェック』
■原作
ゲオルク・ビューヒナー
■翻案
ジャック・ソーン
■翻訳
髙田曜子
■上演台本・演出
小川絵梨子
■出演
森田剛 伊原六花 伊勢佳世 浜田信也/
中上サツキ 須藤瑞己 石井舜 片岡蒼哉/
冨家ノリマサ 栗原英雄
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|日時|2025/10/03(金)~2025/10/05(日)≪全4回≫
|会場|岡山芸術創造劇場 ハレノワ 中劇場
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|日時|2025/10/23(木)~2025/10/26(日)≪全5回≫
|会場|兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
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