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パペット×LED映像で描く命の物語。小劇場に出現する宇宙空間を体験!

2025/8/6

インタビュー

EPOCH MAN 『我ら宇宙の塵』

EPOCH MAN(エポックマン)は、京都出身の小沢道成が2013年に立ち上げ、脚本・演出・美術を手掛ける演劇プロジェクト。その話題作『我ら宇宙の塵』が、今回4都市ツアーで初めて大阪に登場する。作品は2023年に東京で初演し、翌年の第31回読売演劇大賞で、小劇場作品ながら優秀作品賞、優秀演出家賞、最優秀女優賞の3部門を受賞。その高評価から『Our Cosmic Dust』のタイトルで、今年6月にロンドンのPark Theatreで、現地キャストで約1か月間のロングラン上演、好評を博した。「人は死んだらどこに行くのか」をテーマに、パペットと映像テクノロジーを融合させて描く物語。小沢が作品と思いを語った。

――湾曲したLEDディスプレイの壁一面に満点の星空が映し出される舞台空間。まずは、小劇場では目新しいこのセット演出の着想から教えてください。

「僕は観客として演劇を見るときに、実は映像を使った演出が苦手なんです。どうやれば映像効果を使用した演劇を僕自身が楽しめるだろうかと思ったのがきっかけでした。で、やるならば、プロジェクションマッピングよりも明度のはっきりした鮮やかな装置を使いたい。初演のシアタートップスは小劇場空間で、ここでLEDディスプレイを使った演劇を見れたら観客として贅沢だろうな、と思いました。小劇場だと予算とか難しい問題がありますが、『おもしろそうだねこの演劇、一緒にやろうか』と言ってくれた仲間たちとの出会いがあって 実現しました。LEDディスプレイでカーブしているのはまだ見たことがない。空間の背景や広がりも見えやすくなりますし、宇宙がテーマというのもあり意識してカーブをつけました」

――美術の模型もご自身で。設営も大変だったのでは?

「湾曲する部分の設営がとても難しく、みんなすごく試行錯誤してくださって、やっと立てることができました。舞台がLEDの壁で囲まれているので、役者の出入り口が床の穴しかなくて、全員が穴から出てくるんです。『なんて困った美術を考えてしまったんだ』って悩んだこともありました(笑)。床面が光沢のある、ちょっと反射するような素材なので、湖に映っているような感覚で。それがまたきれいな宇宙空間を感じられていい効果だったと思います」

――黒の背景に映される子供が手書きしたような白い線画も印象的です。 

「LEDディスプレイって、とてもきれいなフルカラーが使えるんですが、物語としては“喪失”がテーマのひとつなので、全部白黒でできないかと考えたんです。映像プランナーの新保瑛加さんが作る手書きタッチの映像は、まるでシーンごとに背景の美術が変わっていくような効果が発揮されて、想像力が刺激される瞬間が何度もありました」

©小岩井ハナ

――小劇場で普通に舞台セットを組むより予算がかかるのでは?

「めちゃくちゃかかります!(笑)。例えばチケット代で言うと、大阪A席6500円は大阪の小劇場価格ではちょっと高いと思うのですが、実際はA席は10000円以上の価値がある舞台という感覚です。150~200席の劇場で見るLEDディスプレイは迫力もあって見応えバッチリだと思います。ぜひ体感してもらいたいです」

――その映像テクノロジーに、少年役はアナログなパペットにしたのは?

「生の人間がやる演劇に、映像テクノロジーと真逆のパペットというアナログ表現を組み合わせたらどうなるか興味を抱いたのがきっかけでした。人の形をしたパペットを使うのは初めてで、あまり見たことないからいいんじゃないかと。でも、イギリスのように専門的に扱うプロがなかなかいないし、文楽の人形とも扱い方や形式が違う。だから『どうやったら生きているように見えると思う?』って、いちからみんなで触って体感しながら作っていった感じです。大変な創作でした」

©小岩井ハナ

――物語はLEDディスプレイとパペットが決まる前にできていたんですか?

「まったくできていなかったです。物語を書く発端は、お父さんを亡くした知り合いのスタッフが明るく仕事をしようと生きる姿を見て、改めて“死”を考え、テーマにしようと思いました。今生きている両親に、『人は死んだらどこに行くのか』という自分の考えを伝えたいと思ったのも1つのきっかけでもあります。そこで、LEDディスプレイとパペットでつながる物語ってなんだろうと。例えば、口数の少ない少年(パペット)は宇宙のことが好きだったとする。じゃあその少年の頭の中に広がる宇宙をLEDディスプレイで表現したら…とつながり始めて。いつも視覚的なおもしろさと、物語の意味付けがマッチしないと、新しい作品が生まれないことが多いです」

――「人は死んだらどこへ行くんだろう」と少年が事故で亡くなった父親を探しに行き、その母親は少年を探していろいろな人と出会う。この物語をご自身はどう思われましたか?

「舞台の終わり方やテーマが、はっきりしないまま書き続けていました。でも、自分が無意識に書いたシーンを見て、これはコミュニケーションの物語なのか?とも思って。物語は喪失から始まっているけれど、これは生きている人たちの話なんです。命の宿っていないパペットは、誰かが触ってあげないと動くことも生きることもできない。やっぱり誰かがいることが大事なんだと」

――ロンドン公演を経て、今回の再演はどんな舞台になりそうですか?

「初演は僕も出演者として出ていたので、ロンドン公演で初めて客席から客観的に観て。台詞もカットしたり加えたり、ブラッシュアップした演出で日本版をやろうと思っています。パペットも新たにしようと今考え中です。今回は東京、大阪、北九州、金沢と巡るので、チラシやポスターも劇場に行ったことがないような方にも興味を持っていただけるようなものにしようと」

――ロンドン公演ではバリアフリーにもチャレンジし、今回大阪でもされると。

「舞台手話通訳やバリアフリー字幕などのアクセシビリティを必ず公演中に1、2回は入れることが劇場の決まりだったんです。ぜひ生でやっていただきたいと、舞台手話通訳を選択しました。今回は東京と大阪のみですが、どういうことが起こっているのか、ぜひそれも観に来てください」※11月9日(日)14時公演 舞台手話通訳、バリアフリー字幕、英語字幕タブレットの貸し出しなど鑑賞サポートを提供

――最優秀女優賞を受賞された、池谷のぶえさんのお母さん役も気になります。

「その女性が救われたか、救われなかったか。初演ではたくさん意見がありました。僕の作品は、本当にちょっとの希望しか最後に描かない。でも、苦しみながらでも、明日ちゃんと起きようとか、明日のために料理をしようとか、そういったことのほうが僕は元気が出るんです。そういったことが描ければいいなと今回も思っています。主人公の女性が、どう捉えてもらえるか楽しみです」

©小岩井ハナ

――学生時代は京都でフリーの役者として活動し、上京後は「虚構の劇団」などの舞台で何度も来阪されていますが、今回はご自身のオリジナル作品で大阪初登場です。

「めっちゃうれしい!(関西弁で)たった1人で始めたことが、こうやって仲間ができて、大阪のみなさんや劇場の方たちが協力してくれて。1人でやり続けたことが、たくさんの人と一緒に成長して行けるんだっていうのは、もう本当にうれしいです!」

――お客様に向けて、メッセージをお願いします。

「普段劇場に行くことがない方に来ていただきたいと常々思っています。どんな人でも楽しめるような舞台で、子供たちにも記憶に残るような経験ができる作品になればいいなと。今回はお客さんの想像力がとても大事になります。LEDディスプレイだとかパペットだとか言っていますが、結局のところ一番頼りにしているのはお客さんの想像力。あなたの想像力で、どう感じたか、ということを生で体験していただきたいです」

TEXT:高橋晴代

 

EPOCH MAN
『我ら宇宙の塵』


■脚本・演出・美術
小沢道成
■出演
池谷のぶえ 渡邊りょう 
異儀田夏葉 ぎたろー 小沢道成
スウィングキャスト:谷恭輔

▶▶オフィシャルサイト




大阪公演

|日時|2025/11/06(木)~2025/11/10(月)≪全7回≫
|会場|扇町ミュージアムキューブ
▶▶公演詳細

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