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総勢65人以上のキャストとオーケストラによる大迫力のインターナショナルカンパニーが初来日!

2025/8/12

インタビュー

ミュージカル『レ・ミゼラブル』 ワールドツアースペクタキュラー

日本をはじめ、世界中で上演され続け、人々を感動の渦に巻き込んでいるミュージカル「レ・ミゼラブル」(以下、「レ・ミゼ」)。ロンドン初演40周年の節目に、総勢65人以上のキャストとオーケストラ編成による特別ヴァ―ジョン「レ・ミゼラブル ワールドツアースペクタキュラー」が9月3日(水)~9月14日(日)に、フェスティバルホールに初来日する。2003年から2011年まで日本版『レ・ミゼ』で主演のジャン・バルジャンを演じた別所哲也が応援アンバサダーに就任。今回の見どころや、演じた時のエピソード、作品の解釈などを〝レ・ミゼ愛〟たっぷりに語った。

――別所さんにとって「レ・ミゼ」は特別だそうですね。

「特別でとても大切な作品です。俳優人生のターニングポイントはいくつかあって、ミュージカルで俳優デビューし、ハリウッド映画に出て、アメリカに行って、戻ってきて、トレンディドラマ俳優時代を経て、この作品に引き寄せられるように出会った。30代~40代でバルジャンをやらせていただき、ミュージカルと出会い直したんです。アンバサダーに選ばれて非常に光栄ですね。」

――「レ・ミゼラブル ワールドツアースペクタキュラー」は、ロンドン初演の「レ・ミゼ」のオリジナル版を手掛けたキャメロン・マッキントッシュら製作チームにより、昨年、イギリスやヨーロッパで開幕し、大絶賛を受けた作品です。

「映像を拝見したんですが、素晴らしくて、見どころ満載ですよ!コンサート形式ですから、各キャラクターがステージ上でお客様に向かって歌いあげる仕組みです。お客様に対して開いて歌うというのは、僕が出た日本版も、一番最初のバルジャンの「独白」のシーンでは、客席に向かって歌うんです。当時の演出家のジョン・ケアードから「シェイクスピアの世界では劇場はあなたの脳内にある。脳内にいるお客様は自分自身だと思いなさい」と教わり、その手法がコンサート上でも使われているんだなと。お客様に対して開くというのは、見得を切るシーンなど日本の歌舞伎にもあって脈々と受け継がれている。それを映像で見るだけでもものすごい迫力でした。」

――「レ・ミゼ」はもちろん、「オペラ座の怪人」「キャッツ」などを大ヒットさせたマッキントッシュです。何と11トントラック23台分の舞台セットが海外から運ばれてくるそうですね。
 
「それが何かということですよね!コンサートでただ板張りの上で俳優たちが歌うというのではなく、ものすごく本格的で衣裳も装置も素晴らしいんです。それを見るだけでも価値があります。
ネタバレになるので多くは語れませんが、照明と照明器具そのものが舞台装置になるという新しい仕組みで、新たな「レ・ミゼ」の伝説というか、神話が始まる演出。物語や音楽、スピリットは日本版と同じですが、世界中でずっと上演され続けるんじゃないかなというぐらい、新しい演出です。」

――キャストは高い評価を受けたインターナショナルカンパニーの上演です。生で見る時は、どこに注目したいですか。

「やっぱりバルジャン自身の存在感や彼とジャベールの対決ですね。目を見張るものがあると思います。「民衆の歌」や、キャストとアンサンブルで歌いあげる一幕の最後「ワン・デイ・モア」の魅力も欠かせません。全体からあふれ出る合唱シーンはものすごく見ごたえがあるでしょうし、全公演を見て、ツアーについて回りたいぐらいです(笑)。」

――別所さんがバルジャンを演じられて、特に大変だったことは?

「僕が出ていた時の演出は回り舞台だったので、上演中はほとんど舞台が動いているんですよ。僕だけではなく、キャスト全員、脚力というか重心が低く、下半身がちゃんとできていてスタミナがないともたない。アスリートみたいな感じです。なおかつ、八百屋舞台と呼ばれる斜面で、前に向かって傾斜しているから立体的に見える。後ろに行けば行くほど、坂を上がっていくような感じで逆転していくし、スピードも変わる。それを体感しながら、リアリティを持って演じるというのが大変でしたね。」

――それは想像以上に大変そうですね。

「例えば、椅子を倒して逃げていくシーンでは、椅子の倒し方を間違えると、椅子が舞台上に残ったまんまなんですよ(笑)。僕は2回ぐらいオーケストラピットにパンを落としました(笑)。マエストロがパンが落ちてきたと。バルジャンはパンを盗んで逃げる役なんですけど、僕はパンを落として逃げてしまった(笑)。
早替えも多くて、一番早いのがバルジャンが囚人から市長になるシーンで、「独白」を歌った後、2分ぐらいで慌てて裏に入って、汚れた囚人からウイッグも衣裳も変えて、市長然として出ていく。言い出したらきりがないぐらい、めまぐるしく忙しく、何度も言いますが、スタミナのいる作品です(笑)。」

――バルジャンを演じるのは肉体的にも精神的にも大変だったと思います。

「半年前から歌稽古に入って、全編歌なので、歌を体に入れて、動きや役柄を理解していく。初演のキャストはそれを1年ぐらいやられたと聞いていますが、僕たちは6か月。当時、山口祐一郎さんと森公美子さんは続投で、それ以外は30代の僕たちにキャストが代わったので、ワークショップ的なものをやりながら、一つひとつ皆で積み上げていきました。バルジャンは体が大きいというキャラクター設定で、僕自身も186㎝あるんですけど、役柄を理解してやっていくのは、体力的にも精神的にも大変でしたね。その時期はほかの仕事はやらずにずっと集中していました。」

――ヒュー・ジャックマンがバルジャンを演じた映画版が大ヒットし、今では多くの人が知っていますが、宗教的な知識や背景を知らないと、その世界観やキャラクターを理解するのが難しい作品です。どう解釈して作っていかれたのですか。

「ヴィクトル・ユゴー原作の長い小説を読んで、キリスト教の世界観を自分なりに理解し、ケアードとワークショップで積み上げていきました。ケアードから、「レ・ミゼ」は旧約聖書と新約聖書、ユダヤ教の三つの世界観がそれぞれのキャラクターに投影されていると教わって。バルジャンはまさにプロテスタントの新約聖書の世界観、彼を追う警部のジャベールは旧約聖書の中にある法の支配とルールが投影されているんです。ジャベールは絶対的なものに対して服従であり、法のルールを体現していく。「レ・ミゼ」はバルジャンとジャベールの二人の男の物語だと言われがちなんですけど、実はトライアングルで、生きていくためには何でもする、コミカルで人間臭さの極致である、宿屋の主人のテナルディエも含まれます。
バルジャンとコントラストがある、キャラクター3人のトライアングルの中で物語が動いていく。トライアングルというのは三位一体というキリスト教の世界とつながっていて、こんな話していいんですかね(笑)? 宗教論になっている。これだけで3時間ぐらい話せるんですけど(笑)?」

――もちろん、お願いします。

「三位一体という3つのトライアングルがあって、それは若きマリウス、アンジョルラスにも投影されていますし、一人の男を愛してしまう、コゼットやエポニーヌもそう。音楽も三重奏で、それぞれ登場人物のようにクラリネットや弦楽器が鳴ったりして、読み解いていくと、「レ・ミゼラブル学」が出来ていく世界です。」

――なるほど、面白いですね。その宗教観を熟知しているからだと思いますが、バルジャンを演じた俳優さんはステージの上で「幸せに死んでいける」と言っていました。別所さんはいかがでしたか(笑)?

「僕も最後は達観するというか、死を迎えるにあたって、「コゼットは自分の娘ではない、ファンテーヌの娘を預かって育てたんだ」という告白を神の前でコゼットにして、彼女をマリウスに委ねるシーンでは、一つの人生を全うして天に召される時の、不思議な解放感というか、そういうものに持っていかれる。またキレイな照明のホワイトライトが美しく誘ってくれるわけですよ(笑)。僕が出た時の演出では、ファンテーヌがいて、バルジャンが天に召されるんですけど、新演出ではそこに最初の神父が出てくる。映画版以降、舞台でも新演出になり、そこにもハッとさせられます。人生を全うして天に召される時に、ああいう気持ちになれたら素敵だろうなとは思いますけどね(笑)。なんの後悔もない。すべて伝えられることは伝えて。」

――理想の死に方といいますか…。

「最後にコゼットも来てくれて、振り返れば、天に召されたアンジョルラスも含めた革命家や多くの人が待っている。今までは生きている中での革命。生きるための列でしたが、最後は命が尽きて、新しい列に入るという宗教的なシーンです。」

――複雑な人物のジャベールについてはどう解釈されていますか。特になぜ彼が死を選ぶのか不思議に思う人は多いです。

「ルールや法の支配をつかさどる刑事だから、たった一切れであれ、パンを盗んだバルジャンの原罪は消えない。どんなに改心しても、いいことをしても消えない。ジャベールは自分の中に作った戒律やルールがあるんです。最後、ジャベールはバルジャンに「行け」と言った自分が許せなかったんじゃないですかね。本来、刑事がしてはいけないことで、もう自分のレゾンデートルというか、生きている理由になっていることに背いた。
バルジャンは神父に助けられて改心しますが、その慈悲と慈愛によるしなやかな人間の変化が、ジャベールにはなかった。厳しいルールで育てられ、それを守ることが揺らいだ時に、ポキッと折れちゃう。バルジャンは竹のようにしなって、節はたくさんあるけど、しっかり根を張って生きた男。ジャべールは鋼のような心で冷徹でもあったけど、ポキッと折れて自死してしまう。」

――別所さんはどちらのタイプですか(笑)。

「僕は竹よりグニャグニャです(笑)。こうありたいとかあるべきだとかすごくあるんですけど、年齢を重ねれば重ねるほど、そう思ってもそうならないことはあるし、かといって諦めて何もしないのではなく、しなやかでありたいし、そう生きていきたいと思っています。」

――バルジャンのようなしなやかさを芯に残しつつでしょうか。

「そうですね。でもバルジャンも悩んでいる男なんですよ。家族のためとはいえ、盗みを働いた後、身分と本当の自分を隠して生きていく。「独白」にある通り、私は何者なんだろう。人間誰しもそう思って生きている人は多いんですけど、根っこが深い。」

――確かに。見ていて切なくなります。

「今回のワールドツアーを見た人と、こんな議論をしたいですね(笑)。ミュージカルの金字塔はいっぱいありますが、「レ・ミゼ」ほど歌い継がれ、語り継がれ、全世界で共感を呼んでいる作品ってすごいなと。「ウエストサイド・ストーリー」「レント」など、例を挙げたらきりがないですけど、語り継がれる名作のトップ・オブ・ザ・トップじゃないですか。ワインで言うと、ロマネコンティみたいな。すごく高価でふくよかなんですけど、民衆も飲めて理解ができる、究極のもの。お肉ならシャトーブリアン(笑)。」

――そのくらい上質な作品ということですね。

「やってしまった罪から解放され、苦しみながらより良き人間として生きて行こうというマインドにあふれています。キリスト教にかかわらず、慈悲慈愛や許す心、改心など世界中で普遍的に通じる人間の生き方が描かれているんですよね。その上、人間賛歌であることは間違いなくて、今日一日どうやって生きていくか。皆、一生懸命もがいている。「ワン・デイ・モア」に代表されるように、もう一日頑張ろうという歌であり作品なんです。そこも今回、体感していただきたいですね。僕もまたバルジャンを演じてみたくて、やる気満々です。色んな老若男女が多様性を持って演じることができる作品でもあるなと思っています。」

取材・文:米満ゆう子

 

ミュージカル『レ・ミゼラブル』
ワールドツアースペクタキュラー


■オリジナル・プロダクション製作
キャメロン・マッキントッシュ

■作
アラン・ブーブリル&クロード=ミッシェル・シェーンベルク

※英語上演、生演奏、日本語字幕あり
上映時間:2時間45分予定(休憩20分含む)

▶▶オフィシャルサイト
▶▶ワールドツアー オフィシャルサイト



大阪公演

|日時|2025/09/03(水)~2025/09/14(日)≪全17回≫
|会場|フェスティバルホール
▶▶公演詳細

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