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【Wez Atlas】アジアンラッパーとして、自身の日本人の部分と向き合う

2025/1/21

インタビュー

Wez Atlas LIVE 2025 "ABOUT TIME"

大分県出身で、日本とアメリカをルーツに持つヒップホップアーティスト・Wez Atlasが、最新EP『ABOUT TIME』をリリースした。「そろそろ俺の時間だよ」と自らを鼓舞し、前向きに進もうという強い意志が感じられる今作は、日本語詞の割合がこれまでよりも大幅に増えている。日本語と英語を操るバイリンガルラッパーの彼の心にどんな変化があったのか、今作に至るまでの話と楽曲への想いを訊いた。1月に東京と大阪で行われるリリースライブのうち、1月31日(金)の大阪・心斎橋CONPASSには、ラッパーのSkaaiがゲスト出演する。新たなフェーズに突入したWez Atlasを共に目撃しよう。

――2022年に初めてWezさんのライブを拝見した時、滑らかなリズムに乗って英語詞のフロウを放っておられて、踊るように歌う人だなと思ったのですが、今作を聴いて、その時の印象とは曲調やラップスタイル、日本語詞と英詞の割合が全く違って驚きました。

「2024年は色々考え直すタイミングがあって、サウンド的にも日本語の歌詞にも、結構変化が多かったんです。今まで僕を知ってくれてる人は、多分サウンドとして僕の音楽を楽しんでくれてると思ってて。今おっしゃったように“洋楽みたいだけど、たまに日本語が出てきて面白いな”という印象を持たれてたのかなと思ったので、もっとリリックにも耳を傾けてほしかったんです。僕は曲のメッセージをすごく大事にしてるし、そもそも言葉が好きでラップしたいと思ったから、もっと伝わってほしいなって。僕は日本に住んでいて、お客さんは日本人で、日本語が主流の言語なので、だったら日本語でトライしてみようかというので、今回は日本語詞多めに制作しました」


――曲の意味が思っていたように伝わらないな、と感じたこともあったんですか?

「2023年2月にリリースした『It Is What It Is』の表現(“そんなもんだよな”という意味)は日本人にも使ってほしくてライブのMCでも楽しく訳を伝えてたんですけど、全曲解説するのもあれだし、サウンドで楽しんで欲しいし、もっと曲に入り込んできてほしいなと思ったんです。あとは日本語でどこまで表現できるのか、自分のレベルを確認したかった。その結果、何となく自分の特徴が見えてきたし、“もう少し表現をひねったりできるかもな”という可能性も見えてきたのでOK。今回は日本語詞に振り切ったけど、今後は良いバランスを考えたいなと思ってます」


――小中の学生時代をアメリカで暮らして、ご家庭でも英語で話されていたWezさんにとっては、英語の方が表現しやすいですか?

「完全にそうですね。日本語だと考えなきゃいけなくて、喋ってても止まるけど、英語はそれがないので。日本語は難しいし、何千年もの歴史がある。でも日本のラッパーは学校で受ける教育以外にも漫画やアニメ、小説、お笑いとか、ヒップホップ以外にも日本語という言語の表現のルーツがたくさんあると思う。そのストックが自分にはないから、今後増やしていきたいなと思って、2024年はめっちゃ漫画を読みました」


――何を読まれたんですか?

「『SLAM DUNK』とか『AKIRA』とか。アニメも『サイバーパンク』とか今敏の『パプリカ』とか、日本のカルチャーをもっと吸収しようと思って色々見てました」


――目に留まった、良いなと思う作品を見ていたんですか。

「まずは王道から通っていこうと思って、皆が言うクラシックスな作品を見てました。日本のストーリーテリングのスタイルやスキルに関しては、漫画やアニメを作る人たちがめちゃくちゃセンスあるんだなと思いましたね」


――リリックの参考になりそうですか?

「まだそこまでですけど、まずは吸収してみてという感じですね」


――今作『ABOUT TIME』は、次のフェーズに進もうというWezさんの気持ちが強く表れていますね。『This Too Shall Pass』(2023年3月)リリース時のインタビューで、“次にどこに行きたいかを見つける過程にいる”と話されていて、その後のシングル『RUN』(2023年12月)や『Summit』(2024年8月)でも勢いを感じていましたが、今作まで色々な気持ちの変化を経て辿り着いた感じはあるんですか。

「そうですね、『RUN』の時は特に迷ってました。『RUN』の約2年半前に1stミニアルバム『Chicken Soup For One』(2021年7月)を出したんですけど、その路線の1番良い状態まで持っていけたのが『This Too Shall Pass』だったので、一旦やりきった感がありました。日本に住んで、日本のマーケットにいることを考えると迷いもあったりして、その後の『RUN』でちょっと違う方向性を試したり。『Summit』はサウンド的にはダークだし、言ってることも結構重いけど、僕はそういうドラマチックなものが好きで、“よし、やるしかねえ”みたいなのが次のモードかなと気付いたのが『Summit』あたり。そこから“今度は皆がそこまでメッセージを聴き込まなくてもサウンドを楽しめるようなものにしたい”と思って、ただ『Summit』で込めたメッセージは引き継ぎつつ、今回の『ABOUT TIME』ができた感じですね」


――『RUN』でも日本語詞が増えたと思うのですが、先ほどおっしゃられたちょっと違う方向性というのは、より日本人リスナーに伝わるように試してみたことですか?

「そうですね。『RUN』を出して、“ちょっと思った反応と違ったな”という感覚はあって。多分『This Too Shall Pass』とは違う方向だから、その反応を見て少し戸惑ったけど、ちゃんと抜け出せてその先も見えた。日本人に聴かせたい気持ちもあるけど、Wez Atlasという人間として、自分の日本人の部分をもう少し探りたいなって。俺は日本人だけどずっと海外で育ってきて、日本とアメリカの価値観が混ざってて。大学も英語のプログラムだったので、日本にいながらも周りは日本じゃない感じ。だから今作は、自分の日本人の部分と向き合う意味もあると思いますね」


――今回はジャケットが印象的で。青いペンキにまみれながらも眼差しは凛として、意志を感じます。

「確かに『Chicken Soup For One』と『This Too Shall Pass』はどっちも下を向いてましたね。『This Too Shall Pass』は特に絶望を表現してたし。言われてみれば、カメラをはっきり見てる写真は初めてですね。MV撮影でちょうど顔を塗ってたので、ノリでカメラマンさんに入ってもらったら良いのが撮れたんです」


――タイトルも“そろそろでしょ”みたいな意味ですよね。

「そうそう。友達ともよく言うけど、“C’mon,about time! 俺らもう気付いたら30歳になるぞ”みたいな。ラッパーやアーティストって結構寿命があるから、“今ガツガツいっとかないと”みたいな焦りの一面もあれば、皆に対して“そろそろWez timeだよ”と言ってるのもありますね」

――では楽曲について聞かせてください。1曲目の『Intro』は色んな環境音が入ってきます。

「w.a.uというレーベルのメンバーで、僕のバックバンドでマニピュレーターをやってくれてるReo Anzaiにお願いしました。日常の携帯の通知音や電車の音、人が喋る音がどんどんうるさくなって、頭の中がカオスになる。そこで深呼吸をして我に返るみたいな表現をしたくて作ってもらったんですけど、マジでイメージ通りでした」


――続く『One Life』はメッセージ性が強いですよね。<Ima be the greatest Asian rapper=史上最高のアジアンラッパーになる>というリリックがすごく印象的で。これまでの楽曲でも“スターになる”、“上に行くぞ”という意思表示はされていましたし、『Chicken Soup Freestyle』では<52歳までラップし続けるぞ>と言っておられて。

「ヤバ! そうだ、言ってましたね(笑)。それはシンプルにフロウの中で韻がハマったからなんですけど」


――今回“史上最高のアジア人ラッパー”という具体的なフレーズが出てきたのは、何かキッカケがあったんですか?

「1回ちゃんと言っときたかったんです。その前のラインの<Cole said it, be delusional, be deranged>にある<delusional>は“妄想的”という意味で、敬愛するラッパーのJ.コールがインタビューで、“本当に成功したかったら妄想的じゃなきゃいけない”と言ってて。現実的だと“これは無理だよね、難しいよね”という壁を自分で見つけちゃうけど、J.コールは子どもの頃からすごく妄想的で、その信念があったからずっと音楽を続けられたし、辛い時も乗り越えられて成功したと。その言葉が結構刺さって、俺も敢えてハードルの高いところを公言しようと思って。アジアンラッパーは何万人もいるし、俺みたいな立場の人もたくさんいるから“もう言っちゃえ!”みたいな」


――『ONE PIECE』のルフィの“海賊王に俺はなる!”的なことですね。

「そうそう、それと一緒です。ルフィは結構子どもっぽくて、周りの方が大人じゃないですか。でもルフィの純粋な気持ちがあるから皆ついていく。子どもみたいに現実的な壁を無視できる人が成功するのかなって。だから妄想的でいることは、めっちゃ大事だなと思いました」


――<I could spit in two languages=2カ国語でここまでかましてる>というリリックも良いですね。

「“俺のやってることヤバいだろ?”と言いたかったんです(笑)。今まで“言わなくても伝わってるっしょ”と思ってたのが、“伝わってなかったのかもな”と思い始めて」


――サラッとすごいことをやってるから伝わらなかった?

「だし、内省的なことを書くのが好きだったから、あまり外を意識してなかったですね。下を向いてリリック書いてたのが、今は結構外を向いて歌ってるかもしれないです」


――今作で自分の強みを改めて認識できたところもありますか?

「そうですね、あります」


――ちなみに『One Life』のアウトロの英語のセリフは、歌詞には載っていないですよね。

「載せてないですね。あれは自分を鼓舞するメッセージというか。適当にボイスメモで独り言みたいな感じで録ったものが良かったから入れました。自分は“お前、ポテンシャルあるな”とめっちゃ言われてきて。ってことは、力を発揮できてないってことだなと思ったから、もう言われたくないなと思って」


――他の楽曲にもその気持ちが出ていますよね。『Glow』は<俺らどんなことも打開してく>と言いつつも、“どんな自分も愛していく”と肯定する歌でもありますね。

「俺が強い言葉を使うのも、自分自身、頭の中が悪い思考ばかりでポジティブが見えなくなってた時期に強い言葉を使い出したことで、ネガティブから抜け出せたことがあったから。子どもの時は結構楽観主義というか、“まあ大丈夫っしょ”みたいな感じだったけど、25歳ぐらいでその効果が薄れてきて。一瞬見失ったけど、自分でポジティブな思考を取り戻す過程が力に繋がって強くなれたし、改めてポジティブに考えることは大事だなと気付けたんです。曲を聴くと“こいつ威張ってんな”って思うかもしれないけど、俺が弱い人間で、“しんどいから敢えて言ってるんだよ”ということが、聴いてる人に伝わってほしいです。前は悩みを英語でたくさん歌っていて、急に日本語でポジティブにやり出したから、僕のバックストーリーがわからない人も多いのかなという気もするし。だからそこを伝えていきたいですね」


――『Feel It Now』は<まだまだ!>の歌い方が印象に残りました。

「あれは元々鼓舞するために<Mother *ucker>とFワードを言ってたんだけど、アウトかもとなって、空耳で<まだまだ>でいいじゃんとなって。だから発音がFワードのノリなんです(笑)」


――そんな裏話があったんですね。『Feel It Now』に関してはどういう気持ちで作った曲ですか。

「この曲はヘイターに向けて書いたというか。2バース目の<人は変化を好まない けどそれを恐れない奴ほど高くfly>が俺の1番好きなラインなんですけど、やっぱり人と違うことしようとすると、抵抗する人がいっぱいいるから」


――そこは日本の良くないところです。

「(笑)。日本だけじゃないですけどね。例えばカニエ・ウェストは今は過激な方に行ってるけど、音楽で言うと、彼の通ってきた時代に色んなチャプターがあるから、毎回皆まずは抵抗する。でもそういう人たちも10年後に“これがクラシックなんだよね”と言い出す。そういう人たちにミドルフィンガーを立てたみたいな……別に直接何か言われてるわけでもないけど、想定して先手を打ってます」


――SoulflexのMori Zentaroさんが作曲された『40℃ (colder)』は、シングルバージョンよりも少し温度を下げるという感じでしょうか。

「このEPが冬リリースなので。このニューミックスはテンポが上がって結構涼しい気がしますね」


――どちらのバージョンもカッコ良いです。リールの女子高生とのダンスも良かったです。

「嬉しい。彼女たちはマジでたまたまそこにいて、“ちょっと踊ろうぜ”って。他に留学生の大学生とも一緒に踊ったりして、ダンスチャレンジみたいな感じで撮ってみました。」


――ラストを飾る『Focus』は壮大で、EPの締めにふさわしい1曲です。仲間とふざけてちょっと休んで、また次に進んでいこうという曲ですね。

「ここまで強いメッセージを歌ってきたけど、“チルして遊んで笑うのも大事だよ”と言いたくて。多分この曲を書いたのも、友達とハチャメチャに遊んだ次の日だったかもしれない」


――今作を出した今、Wezさんはどんなラッパーになりたいですか。

「俺はね、やっぱり永遠にJ.コールを追ってるんですよね。国も環境も違うけど、俺のやりたいことと超一致してて、1番参考になる。迷った時はとりあえずJ.コールを見たら、“彼ならこうしたんだ”と思える。J.コールも“次のアルバムで最後”みたいな話をしてたから、会ってみたいですね。いざ会ったら泣いちゃって引かれそうだけど(笑)」


――今作はWezさんにとってターニングポイントになるような1枚ではないかと思いますが、ご自身ではどう感じておられますか。

「そんなに重く捉えないようにしてます。ターニングポイントかもしれないけど、振り返ってそう感じればいいかな。とりあえずもっと楽しく音楽を作っていきたいですね」


――そして1月に初のワンマンライブが東京で行われ、大阪のリリースライブはSkaaiさんがゲストです。どんなライブになりそうですか?

「めっちゃ楽しいライブになります。バンドセットだし、今のバンドとやり始めて約1年半経つから良い仕上がりになってきてるし、サウンドプロデューサーをやってくれてる(Kota)Matsukawaは今回のEPを作ってる段階で、バンドを想定してビートも作ってたと思うので、曲がより輝くと思います」

取材・文=久保田 瑛理

 

Wez Atlas LIVE 2025 "ABOUT TIME"

■出演
Wez Atlas(with w.a.u)
■GUEST
Skaai

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大阪公演

|日時|2025/01/31(金) 19:00
|会場|CONPASS
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