詳細検索
  1. ホーム
  2. KEPオンライン
  3. 三上博史によるヘドウィグが20年ぶりにライブで復活!「みんな、大丈夫だから、きれいに生きよう」
詳細検索

KEP ONLINE Online Magazine

new

三上博史によるヘドウィグが20年ぶりにライブで復活!「みんな、大丈夫だから、きれいに生きよう」

2024/11/29

インタビュー

PARCO PRODUCE 2024 HIROSHI MIKAMI/HEDWIG AND THE ANGRY INCH【LIVE】

2004年に三上博史主演で日本で初演されたミュージカル「ヘドウィグ・アンド・アングリー・インチ」。そこから20年経った今冬、「HIROSHI MIKAMI/HEDWIG AND THE ANGRY INCH【LIVE】」が開催される。この作品はジョン・キャメロン・ミッチェルが台本・主演を担い、1997 年にオフ・ブロードウェイで上演。後にミッチェル自身が映画化し、世界中にブームが巻き起こった。愛と自由を得るために性転換手術をするが、手術ミスによりアングリーインチ(怒りの1インチ) を残されてしまったヘドウィグが主人公だ。日本版「ヘドウィグ」の元祖である三上が、今回はライブバージョンで復活。作品との出会いや、20年ぶりの心境、独自の解釈などの思いのたけを取材会で話した。

――作品との出会いを教えてください。

「僕を見いだしてくれた寺山修司から、「お前は俺の演劇には出なくていいから」と言われていて、僕は「単純に向いてないんだ」と演劇はずっと避けてきたんです。40代で役者稼業を引退しようかと思っていた時に、寺山の「青ひげ公の城」をやり、こんなに自由に泳げる場所があるんだと、演劇に傾倒していったんです。
 そのころ、自分のアパートがアメリカの西海岸にあって、ふらりと小さな街でたまたま「ヘドウィグ」を見たんですよ。何の予備知識もなかったんですけど、音楽だけはすごく印象に残っていて。20代、30代で音楽活動をやってきたんですが、自分のバンドでやれたらすごくいいだろうなと。それから紆余曲折あって、僕のところに日本版の話が来た。自分でも自由に泳ぐようにやれたし、手ごたえも日に日に感じられて。翌年、再演したんですが、もう次はできないよって言ったんです(笑)。」

――それはしんどいからでしょうか。ミュージカル版は、ヘドウィグが自分の生い立ちを歌って語るライブ形式で進行します。

「しんどいですね(笑)。そこで離れて、色んな俳優さんがヘドウィグをやられるのを知って、もういいだろうと(笑)。今回オファーがあり、待ってくれている人たちがいるのは分かるんですけど、当時は10cmのピンヒールを履いて演じていたんですが、もうちょっと無理です。20周年のお祭りだから、曲を披露するだけでもいいんじゃないかということで、今回は“ライブ・バージョン”になりました。僕が20代の頃からずっとお付き合いをしている仲間のミュージシャンたちが出演してくれるんですが、20年経ち、皆、それぞれの人生が出てくると思うので面白いことになるかもしれない、深みは増すだろうと思います。」

――今回は歌うだけで、三上さんはヘドウィグを演じられないのでしょうか。

「さぁー、そこですよね…。どうしたら、皆がげんなりするだろうかという、サディスティックな所が僕にはあるんですよね(笑)。25歳の時の最初の音楽ツアーは、観客が僕を見たい、会いたい、平たく言えばアイドルを見るようなノリだったんですよ。皆、僕の音楽なんてどうでもいいと分かっていたので、素顔を白く塗って隠して、衣装はタイツという過激なものにして、とにかく人がげんなりするようなものばっかりを考えていました(笑)。ついこの間までそんな感覚だったんですが、今回は皆さんが何を見たいか手に取るように分かっちゃうので、20周年でシンプルな形でもいいのかもしれないけど、それは皆さんが許さないだろうと(笑)。だから扮装はします!進化した扮装はします。」

――三上さんならではのヘドウィグになるのですね。

「サイバーパンクやヘビメタなど世界中で色んなヘドウィグがいた。僕が初演で演じた時は、日本の東京のヘドウィグをクリエイトしたかったんですね。世界的に見て独自のヘドウィグだと思う。本家は、エイティーズのちょっとブリティッシュであえてぺランぺランなサウンドを狙っていたけど、僕らはそれを重低音で重厚なグラムのコアな感じでやっていた。今回は、隣のキュートなちょっと毒のあるお姉さんみたいな存在から発する音。突き放しているんだけど、ものすごく温かいセイフティーネットがある。そういうものを音楽だけででも届けられたらなと思っています。」

――ミュージカル版ではラストが衝撃的でした。

「最後に向かっていくところは皆さんに届けるつもりです。芝居の脚本でも、ラストは芝居としての台詞はほとんどないんですよね。音楽で表現できる世界だから、今回も皆をそこまで連れていきたいなと。
 25歳の音楽ツアーのころの話をしましたが、当時皆の気持ちは分かるけど、それに応えられない自分にギルティを感じていました。贖罪の気持ちで、ライブが終わると、舞台の袖で「本日の公演はこれで終わりです」と自分でアナウンスしたりしたんですよ。それで少し病んでいた気分も戻って、最後までできたんです。でもどんな方法を取っても、ギルティや贖罪の気持ちはあると思うんですね。今回、そういうアーティストたちも励ましたいなと。「よけいなお世話じゃい!」と言われるかも知れないですけど(笑)。」

――ライブは楽曲「ティア・ミー・ダウン」で始まります。

「ベルリンの壁で東ドイツが崩壊し、西側に出るために、ヘドウィグは性転換手術をして、その手術が失敗して男性器が1インチ残った。それを抱えたままポップスターになる。まぁ、そこまでスターではないけど。「男でも女でもない、この私を壊しなさい、倒しなさい」という曲なんです。
 ただ、今はどうなのかなと思うわけですよ。さらに壁ができて、取り付く島もないほどの分断。例えば、「私はワクチンを信じている」「私は信じないわ」とか、とにかく意思の疎通もとれない。見渡す限り壁だらけ。それを今のヘドウィグは壊したいんだろうなと。歌だけで巧みな物語にすることはできないけど、少しでも呼吸ができるような空間ができれば。
 「何でもありじゃん」「自分はそうは思わないけど、全然責めないよ」という所にいければいいんですが。今、皆さん切羽詰まっているんでしょうね。僕だってそうですよ。特に年齢を重ねていくとどうしても頑固になるので、柔軟でいるということがどれだけ大事かと思います。自分を守ろうとするからかな?それを自分でいかんいかんと潰していかないと。もともとそういう素地がある人がヘドウィグを好きだったりするんですけど。」

――ヘドウィグとさらに三上さんとしての表現が加わるのでしょうか。

「まだ固まっていないんですけど、僕には「ウイッグ・イン・ア・ボックス」とかの世界観はないんですからね。それは完全にヘド様(ヘドウィグ)で歌うしかないでしょうね。「ティア・ミー・ダウン」は、僕の中にもあるから僕が出てくるのかな。最後はもう、僕ですよね。役も全部とれちゃうと思います。」

――「オリジン・オブ・ラブ」はプラトンの著書「饗宴」をモチーフに、昔、人類は「男性」「女性」「男女性」の3つの性があったという「愛の起源」について歌っています。

「プラトンであることをどうにか説明したいんですけど、ヘド様の格好で三上博史が「プラトンはね」と言っても伝わるかどうか(笑)。でも皆さんがどっかで引っかかってくれたらいいですね。
 ただ、口当たりよく、「私の片割れ探し」みたいな、そういう風に持っていかれちゃうのも本意ではない。僕は初演の時から、この物語はクレイジーな女性の妄想話でも解釈できると思っているんです。中西部で生まれて、場末のライブハウスに通っていたら、ギタリストが素敵で、「私、あの人と付き合っているのよ。あの人が私の曲を盗んだのよ」と言っているような人っているじゃないですか(笑)。片割れ探しや赤い糸みたいな少女趣味的な話とは思っていないという、斜めの見方をしています。僕が舞台版が好きなのは、全部ヘド様の妄想ですよと言えちゃうような想像力の余地がある。映画版はリアルすぎる。妄想でクレイジーだからこそ純粋なんです。」

――面白い解釈ですね。ライブにはMCも入るのでしょうか。

「そうですね。でも、アドリブは難しいから、ジョン・キャメロン・ミッチェルに「20年経ったヘドウィグがどうなっているかMCで言いたいんだけど」とメールをしたんですよ。彼は「中西部かどこかで愛を教えているんじゃない?」と。「面白い、書いて」と言ったら「時間がないんだ」と言われました(笑)。」

――今、観客に伝えたいことは?

「大上段で、押しつけがましくなっちゃうのは嫌なんですけど、とにかく「大丈夫だから。大丈夫だから、きれいに生きよう、みんな」と。「きれいに生きよう」って難しい言葉なんだけど、ずっと思っていることなんですよ。もう残りの人生、きれいに生きたいんですよ。これ以上、汚れたくなくて、濁りたくなくて。勝ち負けでもなく。そういうところに行きたいというか、いたいというか。理想論と言えば理想論なんですけど、「理想論じゃん、でも大丈夫」というところを最終的に届けたいと思います。」

――昔からそう思っていたのですか。

「20年前は、そんなことは思わなかったです。もっとギラギラしていました。」

――今は他人の評価は気にならないと?

「うーん、評価よりも揺さぶりたいですね。もし、同じ職業の人がいたら、反面教師で構わないですし、「ああいうダサいことは絶対したくないよな」でもいいんですよ。そう思う人たちが違う道を見つけてくれればいい。でも本気でやっていますよというのは見せないと。
 今年、「三上博史 歌劇」を上演した時、寺山修司の膨大な世界をどうやるか、すごい悩んで揺れたんですよ。知り合いが見に来てくれたときに、「すごいよかったよ」とはよく言うじゃないですか。見に来てくれた知り合いが、あ、ごめんなさい…。思い出したら、僕ちょっと泣けてきた…(涙ぐむ)。その人が「舞台を観ながらこの人、信用できるなと思った」と感想をくれたんです。やっていて良かったなと思いましたね。「自分はちゃんとやってんだ、それがちゃんと伝わったんだな」と思いましたね。」

取材・文   米満ゆう子
撮影     加藤アラタ
ヘアメイク  赤間賢次郎(KiKi inc.)
スタイリング 勝見宜人(Koa Hole inc.)

 

PARCO PRODUCE 2024
HIROSHI MIKAMI/
HEDWIG AND THE ANGRY INCH【LIVE】

■作
ジョン・キャメロン・ミッチェル
■作詞・作曲
スティーヴン・トラスク
■訳詞
青井陽治/三上博史/エミ・エレオノーラ/近田潔人

■出演
三上博史
■演奏
ロックバンド「アングリーインチ」
 横山英規/Ba.
 エミ・エレオノーラ/Pf. Cho.
 テラシィイ/Gt.
 中幸一郎/Drs.
 吉田光/Gt.

▶▶オフィシャルサイト




京都公演

|日時|2024/12/14(土) 14:00
    2024/12/15(日) 14:00
|会場|京都劇場
▶▶公演詳細

 

\関連記事はこちら/

一覧へ戻る