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【風間俊介】今までやってきた役を全部入れて煮込んでみる

2024/11/7

インタビュー

『モンスター』

――最初に脚本を読まれた時の感想は?

「すごく僕好みの作品だと思いました。わかりやすいモンスターではなく、潜在的なモンスターを描いていてワクワク!いい本だなぁと。皆さん客席に座っていただいたら、開始何分かでお気づきになると思います。僕自身も読みながら迷ったのが、まずはこの話が確信的なのかどうか。互いの会話が成り立っていないところや、ゾワゾワする感じ。これが狙いなのかどうかを疑うところから始まるのが好みでした。終わり方もリアルでこれは日常に潜む話で、センセーショナルではないところがむしろ怖い。それも水や氷みたいに触れられるものではなく、霧のような気体の怖さ。湿度があってそこにあるけど、視認できない怖さを感じました。
会話が成り立っていない、ステージ上でずっとディスコミュニケーションが続くとなると、これは役者がのたうち回るくらい難しくもある作品。このディスコミュニケーションを実現するために、僕たちは稽古場で信じられないくらいのコミュニケーションをとらなければいけないでしょうね。」

――風間さん演じる新任教師トムという役に関して、今どのように捉えていますか。

「トムもまたモンスターだと思います。ただ、観てすぐにモンスターだとは思わないでしょうし、トムがいるからこそ、モンスターの恐ろしさや狂気は全ての人の中にあるとわかる。あなたが街中ですれ違う人たちもモンスターで、あなた自身もモンスター、脅威とは身近なものではないですか?と、そんな問いかけをする役割になるのではないかと思っています。
トムが教える生徒ダリルが、俗にモンスターと呼ばれる存在。全く手に負えない人で、佇まいや風貌が既にモンスターという印象です。だけど僕は登場人物4人全員がモンスターだと思っています。「私もサザエさん、あなたもサザエさん」という歌詞みたいなもので、「私もモンスター、あなたもモンスター」となると、1周回って狂気って寄り添えるのではないか、と感じたりもします。」

――共演の皆さんの印象は?

「初めましての方ばかりなので、この作品のPRでお話しされている姿を見て、印象にはなりますが。松岡広大くんはスマートさゆえに、暴力性が臭ってきそう。端正な顔つきの人が狂気性を持って立つと怖さが倍増すると思うので、どんなダリルになるのかを楽しみにしています。婚約者のジョディ役・笠松はるさんは宣伝ビジュアルでは儚げで散ってしまいそうな雰囲気。その儚さが怖さを倍増してくれるだろうと思っています。ダリルとジョディが対峙するシーンが楽しみです。そして、那須佐代子さん演じるダリルの祖母リタはクレーマーというか、世の中で気軽に言われるモンスター。だけど僕の中では4人の中で一番まともな人で、理屈は破綻しているけれども望みと要求はわかります。ただしOKはできないというタイプ。この一番たちが悪くて一番まともなキャラクターを那須さんがどう演じられるのかも楽しみです。」

――トムの視点から、ダリルがどう見えているかを教えてください。

「難しいですね。それは稽古が始まってから、より具体的になっていくと思いますが。今の時点では、トムはダリルに対応するのが仕事、使命でやっているというドライさを感じています。ただし、寄り添いすぎるのも問題があって、依存性も生まれてしまう。僕は何かを理解する際は、湿度、ウェットさをすごく大事にしたい人なので、トムの言葉に美しさや寄り添う気持ちも感じつつ、そこに潜むドライさがディスコミュニケーションをダリルにもたらしているのかも?と思ったりします。トムが本当にドライな人だったらいいんですよ。しかしトムは自分の感情に対しては多分ウェットなんですよね。そのアンバランスさが面白いな、と。この辺りは稽古に入ってみんなで話しながら探りたいです。」

――物語が進むつれ、トムはジョディにダリルのことばかり話すようになって、それが依存のように見えたりもしますね。

「確かにトムにとってのダリルの分量が増えていきますが、僕が思うにそれって仕事量が増えていく感覚なんですよね。例えばドラマの金八先生は日常生活はどうなっているの?というくらい、生徒に寄り添うじゃないですか。浦沢直樹さんの漫画「MONSTER」ならモンスターと呼ばれそうな反乱分子が魅力的すぎて、その人たちに引き寄せられていく。その点、トムは仕事をしっかり遂行し自分を肯定するために、ダリルとの対話に心酔していきます。それって実はダリルに心酔しているのではなく、ダリルに対峙するという自分の仕事に心酔している感じのドライを感じていて。ダリルに依存するとなったら、もっとちゃんと寄り添うと思うけど、もしかしたらこれは日本的な考えでイギリスだと違うのかもしれない。トムは精神科医の方々が作ってきたメソッドを学び、持っている。だから反対に上手くいかないのでは?と思ったりもするけど、でもそれは旧時代的な考え方かも。魂でぶつかれよ!みたいな精神論では片付けられない、深い話だと思います。」

――この『モンスター』が今、上演される意義や意味は?

「現代は人々の間に色濃く潜在的な鬱屈が溜まっている状態だと思います。コロナウイルスや経済的な問題があり、それが世界中で表面化しているのを、日本で生きていても色濃く感じます。その意味で、この作品を今の人たちに見てもらうのはとても意味があること。でも多分、一番観てもらいたい人たちは、劇場に来てくださらないんじゃないかなって僕は思っています。鬱屈としたものが溜まっていることに気づいていない人たちが、実は一番多分危ういところにいるのではないかと。この作品で潜在的な鬱屈を表現する。今の時代でやることの意味もある。だけど、一番この作品を渡したい人たちには届かないという、この構造もまた興味深いなと思ってしまいますね。」

――この物語には14歳の危うさや、周りの人が脅威となる人の改善に努める様子など、一般社会でもあることが描かれています。その辺りで思うことはありますか?

「性善説ってあるじゃないですか。僕は100かゼロの会話をしたがると破綻すると思っています。インタビューを受けていつも思うのが、皆さん、端的に言ってもらいたいんですよ。物語や世の中で起きていることを、これは善、これは悪と付箋を貼って分類したがる人が多い。その気持ちはとてもよくわかるけれども、でも違うんです。この作品も今の世の中もそう。僕は物語には白と黒の作品もあっていいと思っています。僕は勧善懲悪の爽快な戦隊ものや、ハリウッドのドカドカバーン!とした大作も大好き。片や、この作品みたいにグラデーションがゆらゆらしているものも素敵。いろいろあるから物語の世界は面白いんだと思います。この作品で善悪だけでは測れない奥深さを体感していただきたいです。」

――ハードな美しい山に挑まれる風間さん。きっと新しい風間さんを、生でご覧いただける絶好のチャンスになるのではないでしょうか。

「確かに新しい自分ではあると思うけど、今までやってきた役を全部入れて煮込むといいのかなって考えています。さっき言った、「私もモンスター、あなたもモンスター」ということ。そして今までやってきたダークサイドの役にも光があって、光の役にもダークサイドがあるという、全ての作品の中央値みたいなものを探ると多分この作品にぶち当たってくるんじゃないかと思います。新しい自分であることは間違いない。でもどこか、風間が今までやってきたダークサイドの役の匂いと良い人役の顔が両面出てくるんじゃないかな。」

――観劇後、観客の方々にどんなものが残ると思いますか。

「もちろん受け取り方は人それぞれでしょうが、すごく小さな幸せを大事にしたい、そんな感想も出てくるかなって想像しています。僕自身、宝くじに当たったら超幸せだと思うけど、でもそういうことじゃなくて、その人なりの小さな幸せでいいんですよね。道に咲いていた花が綺麗だったとか。小さな幸せをかき集めるしかないなって思うんですよね。自分の中にモンスターがいることは仕方がないし、それがモンスターと化すのか、ペット的な存在でいてくれるのか。モンスターを収めておくには、光が当たる要素を蓄えていくしかないと思うんです。僕は闇も好きなので、分量調整がうまくいかなくてちょっと光を足さないとって思った時に、調味料の粉みたいなものをストックしておきたい。今の世の中、闇の部分は勝手にストックされていくから、光の部分は自分でちゃんとストックしておかないといけない。僕が観客ならそんなことを考えるだろうなと思っています。」

 

『モンスター』

■原作
ダンカン・マクミラン
■翻訳
髙田曜子
■演出・美術
杉原邦生
■音楽
原口沙輔

■出演
風間俊介 松岡広大 笠松はる 那須佐代子

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大阪公演

|日時|2024/11/30(土)~2024/12/01(日)≪全3回≫
|会場|松下IMPホール
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東京公演

|日時|2024/12/18(水)~2024/12/28(土)≪全14回≫
|会場|新国立劇場 小劇場
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