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“KERA×チェーホフ”のラスト公演に天海祐希らが出演「浅はかでスキだらけの人たちが右往左往するさまを」

2024/11/12

インタビュー

KERA meets CHEKHOV Vol.4/4 『桜の園』

ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)が挑む、チェーホフ四大戯曲上演シリーズ「KERA meets CHEKHOV」が最終章を迎える。2013年に『かもめ』でスタートし、ナンセンスな不条理コメディを得意とするKERAと、現代演劇の礎を築いたチェーホフとの想像を超えた化学反応が話題に。奇をてらわず戯曲に向き合いつつも、KERA独自の繊細な人間描写で不思議なおかしみや切なさが浮かび上がる劇空間は実に贅沢。『三人姉妹』『ワーニャ伯父さん』と続き、最後はチェーホフが「喜劇」と銘打つ『桜の園』で締めくくる。KERAの芝居に初参加の天海祐希や大原櫻子をはじめ、井上芳雄、緒川たまき、池谷のぶえなど豪華なキャストが集結した本作について、KERAに話を聞いた。

――チェーホフ作品のどういったところに惹かれますか?

「台詞で語っていることとその人物の考えていることでは大きな乖離がある、というのが、チェーホフ作品の面白みのひとつだと思います。今はそういう芝居はたくさんありますが、100年以上前に書かれた芝居にはあまりないですよね。そういう意味で、チェーホフは革新的な作家だったと思います。また、チェーホフ独特の情感がどの作品にも漂っています。彼は『かもめ』『ワーニャ伯父さん』『三人姉妹』『桜の園』の順に四大戯曲を執筆していて、遺作となった『桜の園』はヨレヨレになりながら書いていたそうです。『桜の園』以外、「そして人生は続く――」みたいな終わり方をしているのですが、『桜の園』は自分の死期を悟っていたからか、8月22日という(広大な領地の)競売の日に向かって物語が進んでいくところが、この作品の特別なところなのかなと思います」

――19世紀末のロシア、没落貴族の屋敷を舞台に、厳しい現実に向き合えないラネーフスカヤ夫人(天海祐希)たちなど、さまざまな人間関係が交錯していく物語です。

「『三人姉妹』あたりから、彼のヴォードビル性がよく出ているのですが、言ってみればフリーキーな奇人たち揃いで、そこも『桜の園』の面白みじゃないでしょうか。このままじゃ桜の園が売れてしまうから、策を講じないとまずい、と言われているのに、ラネーフスカヤ夫人と兄のガーエフ(山崎一)は、聞く耳を持たず何の策も練らない。その極端な愚かさって、僕が書いていたナンセンスコメディに極めて近い気がするんですよね。爆笑につぐ爆笑という喜劇ではないかもしれないですが、やっぱり喜劇的だと思います。これは先輩の故・宮沢章夫さんから学んだことですが彼の作品で、何も起こらない砂漠を監視しつづける人たちの物語があります。退屈で辟易しているさまがおかしくてしょうがない。そのような、始まって5分で何か出来事が起きるハリウッド的な面白さではない人間のおかしさが、『桜の園』には描かれていると思います」

――敷居が高いと思われるチェーホフ作品ですが、味わい深い面白さがあるのですね。

「人と人との関係のデリケートさがにじみ出てくるようなおかしさ、しみじみとした、やるせないおかしさがあります。チェーホフ作品は、重大な出来事はみんな幕間に起きているんですよ。これも最初に例えたのは宮沢さんなのですが、カーチェイスのシーンは見せないで、その合間の給油シーンを見せる、というようなところがチェーホフ作品にはある。給油シーンでカーチェイスをどれだけ感じさせるかが勝負、というような面白さなんです。生身の人間で見せる演劇として約1カ月稽古をしていくことを考えると、こういう台本のほうが作っていて楽しいですね」

――上演台本を手掛けるうえで、どのようなことを考えられたのでしょうか。

「これまで『桜の園』の公演を何本も観てきましたけど、チェーホフ作品はシェイクスピア作品と同じように、“いかに壊すかが腕の見せどころ”というような舞台が、近年多いと思います。でも僕は、自分の方に引き寄せようとか、壊そうということは考えていません。オーソドックスなチェーホフの台本を書くつもりで作りました。もちろん現代の人たちが観て、その面白さが伝わるようにということは念頭に置いてますが、自分としては、ごく普通にチェーホフをやっているつもりです」

――今回のキャストの印象や、皆さんに期待していることを教えてください。

「初めて一緒に芝居を作るのが、天海祐希さん、大原櫻子さん、山中崇さん。荒川(良々)も、ずっと知っているからそんな気はしないけど初めてです。初めての人は、やはり僕にとって未知数なので、楽しみです。全員について語っていくと時間がかかってしまうので(笑)、天海さんについてお話しすると、それはそれはちゃんとした方じゃないですか。演じてきた人物も完全無欠に近い人が多い印象ですが、ラネーフスカヤ夫人は極めてダメな人。ダメダメな、うまく生きられない人物を、天海さんにやってもらう面白さはすごくあります。本読みの段階でこれはご本人とも話したのですが、天海さんは低いトーンの声で台詞を喋ることが多く、あえて高音も駆使して、なるべく広い声域を使って台詞を喋ったらどうだろう、という話をしています。とても楽しい稽古場です」

――『桜の園』は120年前に発表された戯曲ですが、現代との相似性や、今届ける意味など、どのように感じていますか?

「例えば僕らの祖父母世代は記憶の中に戦争があり、生々しく語れたけど、今は非常に複雑じゃないですか。記憶や体験はない反面、どんどん嫌なものが近づいてきている予感が強烈にある。他人事ではない感じは、バブルの頃の上演と比べるとありますよね。のっぴきならないムードを共有できるという点で、今上演する意義があるのかなと思います」

――チェーホフ四大戯曲上演シリーズ「KERA meets CHEKHOV」を通して気づいたこと、KERAさんの創作活動に活かせたことはありますか?

「1本目の『かもめ』は手探りで、2本目の『三人姉妹』(2015)で少し分かったかなという感じがして、3本目の『ワーニャ伯父さん』(2017年)では、自分なりのチェーホフ解釈ができたかなと、個人的に満足しているんですよね。今、『桜の園』の本読みをしていても、作家の作意が見えにくい。演出家の僕が、僕なりにチェーホフの意を汲み取り、きちんと強調してあげないと、素通りしていってしまう本だなと思います。

僕は演劇に恥ずかしさを感じていた人間で、例えば正面きって台詞を言う演技など、演劇は恥ずかしいものなんだ、という入り口から入り、どうやって恥ずかしくない演劇をやればいいだろうと、ずっと探していました。そのひとつの方法を、チェーホフが提示してくれたような気がします。チェーホフはあざとさが見えないところが、一番惹かれる理由かもしれない。「それでいいんだ」と勇気をもらっていますね。今は、かつて恥ずかしいと思ったことも恥ずかしくなくて、むしろ正面きって芝居をするのを、作品によっては楽しんでいます」

――最後に、本作を楽しみにしている方へメッセージをお願いします。

「かなり面白い芝居です。登場人物たちと一緒に色々なこと感じていただくことから生まれる面白さで、「この難解なものを解いてごらん?」というような難しさはなく、原作を予習する必要もありません。物語の中に生きているのは我々と同じ人間。同じように浅はかでスキだらけのダメな人たちなので、彼らが右往左往するさまを、人生の中の何日かを、楽しんで観てもらえたらと思います」

取材・文:小野寺亜紀

 

KERA meets CHEKHOV Vol.4/4
『桜の園』


■作
アントン・チェーホフ
■上演台本・演出
ケラリーノ・サンドロヴィッチ
■出演
天海祐希 井上芳雄 大原櫻子 緒川たまき
荒川良々 池谷のぶえ 峯村リエ 鈴木浩介
山中崇 藤田秀世 山崎一 浅野和之

▶▶オフィシャルサイト




大阪公演

|日時|2025/01/06(月)~2025/01/13(月・祝)≪全10回≫
|会場|SkyシアターMBS
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