2024/10/22
取材レポ
キャンバスから飛び出してきそうな迫力ある画風と色彩――。動物から昆虫、花まで、“いのち”の輝きを描き続ける、愛媛県新居浜市在住の若手アーティスト・石村嘉成。2歳で自閉症と診断された彼は、来る日も来る日もいきものだけを描き続け、国内外で数々の賞を受賞。岡山・愛媛で開催した個展は約8万人を動員し、彼と家族との絆を描いた映画『新居浜ひかり物語 青いライオン』が、10月18日より全国で順次公開される。
そんな今注目を集める石村氏の作品200点が集結する「石村嘉成展 ~いのちの色たち~」が、兵庫県立美術館 ギャラリー棟3階ギャラリーで10月12日~12月8日に開催されている。10月11日には石村氏と、公式スペシャルサポーターの森泉さんが登壇するオープニングセレモニーが行われた。その模様と本展の魅力をレポートする。
神戸には、幼いころに母と神戸ハーバーランドで鳩を追いかけたりした思い出があるという石村氏。彼の大ファンだという森さんは、「石村くんの絵には、いまにも動き出しそうな臨場感と優しさがあります。会話をしているのではと思うほど、瞬間を切り取った絵が素敵で、不思議なパワーや癒しがあります」と絶賛する。
本展では、生きものの歴史を表現した26メートルに及ぶ圧巻の代表作「Animal History」から、初公開の新作まで展示されている。小学5年のときに、最愛の母・有希子さんを病で亡くした彼の作品には、親子を描いたものも多く、「親と子」をテーマにしたメインコーナーには、有希子さん直筆の手紙や石村氏が描く母の肖像画、安心しきった表情で寄り添う猿の親子、子を守るために険しい表情を見せるヒグマの母など、さまざまな絵が並ぶ。
森さんは自宅で犬や豚、ハリネズミなど23匹のいきものと暮らすほどの動物好きで、一児の母でもある。そんな森さんだからこそ、「親子はやっぱり愛情深く、特別な絆があるなと思います。お母さまの手紙を読むと涙が出そうになります」と話す。
また、本展のエントランスすぐには、兵庫県の県鳥・コウノトリや、関西とゆかりある“阪神タイガース”ならぬシベリアンタイガーの絵が展示され、「入り口からの流れも素敵なので、ぜひいろいろな表情の動物を見てください」と紹介。「コウノトリがピンク色なんですよ! 本当に可愛らしい」。そして何度も彼独特の色使いの素晴らしさを述べ、「実際の動物はそういう色ではないのに、そう見えてきます。色の魅力がすごくあると思います」と彼の豊かな感性を讃えた。
セレモニーでは、石村氏が「森さんがプレゼントしてくださった素敵な羽で作りました」と、胸元に着けた大きな羽のブローチをアピールする場面も。森さんが飼っているルリコンゴウインコの羽が偶然抜けたので、それを贈ったことを打ち明け、「つけていただいて嬉しいです!」と喜ぶ。
また、森さんが着彩し、石村氏が仕上げた共同作品「ミツバチと花」も初公開。「家族みんなで描いて、貴重な体験ができました」と森さんが言うと、「私の作品にきれいな色をのせていただき、ありがとうございました!」と石村氏も笑顔。色鮮やかで温かみのある版画は、本展で展示されている。
セレモニーの後には、石村氏と、彼と二人三脚で歩んできた父の和徳さんとで本展を観て回る。コウノトリの絵の前では、「兵庫県の大空を優雅に飛んでいるコウノトリです。これからも豊かな環境のなかで生きていこうと思って描きました」と石村氏が解説。森さんは「絶滅危惧種ですよね。石村くんは、自然を大切にしなきゃダメだよ、というメッセージのある絵も結構描かれていて、素敵だなと思います」と語った。
また、森さんは石村氏の人柄の温かさにも触れ、「彼のピュアな気持ちと才能が合わさって、動物たちに息が吹き込まれ、本当に生きている感じがします。ずっと動物と目が合い、ぐっとつかまれるような気持ちになります」。「年配の方から若い子たちまでぜひ来ていただきたいです。何回来ても楽しいはず。自分のそのときの気持ちで、動物が語りかけてくることが違うと思います」と、動物との距離が近い彼女ならではのコメントが飛び出した。
本展には、壁の一面が鏡張りになっている「よしなりパレット」という展示があり、壁面に高く並べられた石村氏の作品に囲まれる没入感が味わえる。初期の作品から展示されているので、画風の変遷を楽しめるのもポイントだ。本展の一番奥には、初公開の「幻獣森羅万象」と題した9枚の大きな絵が展示され、伝説のいきものたちが躍動する姿に石村氏の新たな冒険心が感じ取れる。
なお、筆者はこの日初めて石村氏の実物の絵に触れたが、これほど強い生命力を感じるとは驚きだった。鮮やかでダイナミックな彼の作品に触れると、“生きる活力”が湧いてくる。さらに、何かを訴えるような動物たちの繊細な目の輝きは、まさに吸い込まれるような神秘性と迫力が。数々の絵は立体的なキャンバスの四方の側面まで描かれており、5面で一枚の作品なのだと実感する。心がホワッと温かくなる彼の解説文も含めて、エネルギーに満ちた作品の数々を楽しんでほしい。
取材・文:小野寺亜紀
石村嘉成展
~いのちの色たち~
|会 期|2024/10/12(土)~2024/12/08(日)
|開館時間|10:00~18:00
※最終入館は閉館の30分前
|休 館 日|月曜日
※ただし祝休日の場合は開館、翌火曜日休館
|会 場|兵庫県立美術館 ギャラリー棟3階
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