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100年前も今も女性は闘い続けている
天文学者の妹役で新しい高橋由美子に

2024/10/25

取材レポ

unrato#12『Silent Sky』

 1900年初頭のアメリカ、女性には研究者・学者の地位がなかった時代、自ら道を切り開いた女性天文学者の生涯を描いた舞台「Silent Sky」が、演劇ユニット「unrato」の主宰で、日本で初演を迎える。実在する天文学者ヘンリエッタ・スワン・レヴィットの妹マーガレットを演じる高橋由美子が来阪し、取材会で思いを話した。

 アメリカでは多くの作品が上演されている気鋭の劇作家ローレン・ガンダーソンの戯曲。「100年前のお話なんですが、全然古く感じないし、教科書で見ていた星の話が、自分が演じることですごく身近に感じて腑に落ちる。最高に面白い読み物なんです」と高橋。

 朝海ひかる演じる姉のヘンリエッタをマーガレットは献身的に支える。ただ、この時代には多かったであろう、ひたすら家族のためだけに尽くすというタイプではないらしい。「姉が外で自分の好きなことをやっていく中で、自分が何をしたいのかを考え、音楽に自分の天職を見つけて突き進んでいく。ただの献身的な女性ではない、自分にないものを見つけ、姉と共に生きていくという女性です」

加えて、ひたすら従順で大人しい人でもないようだ。「マーガレットは家を守りながらも、お姉さんに結構、ズケズケものを言うんですよ。姉妹の会話なのに、ものすごく罵り合ってたりして(笑)。機関銃トークのようにセリフが積み重なっていき、よく疲れないでこれだけしゃべれるなぁと(笑)。色々と我慢しているから、姉と会話する時は思いのたけをぶつけているんですね」と笑う。

朝海のほか、ヘンリエッタの同僚で女性の参政権運動家のアニー役に保坂知寿、家政婦から天文学者になったウィリアミーナ役に竹下景子とベテランが揃う。「朝海さんは私より二つ上で、力強いお姉さん。私はそれにチョコチョコくっ付いていくみたいな、すべて任せっきりの感じなんです。そこに知寿さんと景子さんがどっしり構えてくださっている。“お好きにやりなさい”という感じで自由にやらせていただいています」と楽しそうだ。

 当時は男女差別が激しく、女性は望遠鏡に触れることすらできず、膨大なデータの処理や集計、分類など地味な作業ばかりだった。「100年前に女性は自分の地位を築くためにこんなに闘わないといけなかったんだと。でも100年たっても、まだ闘い続けている女性たちもいる。女性は常に闘い続け、自分の労力をそれに使える女性が新しい地位を獲得できたり、新しい分野で羽ばたいていけたりするのかと思うと、自分も俳優として闘い続けるということをできるだけ長く続けたいなと思いました」と表情を引き締める。

女性キャストが占める中、ヘンリエッタの上司の直属の部下ピーターを松島庄汰が演じる。「松島君は男性の地位を守るために女性たちと闘い続けるんですが、女性が闘うからこそ、男性がサポートすることも重要だとキチンと描かれている。男性は男性で闘っているので、両輪がうまく回っている作品だと思います」

今作ではピアノの演奏も披露。ピアノは全く弾いたことがなく、電子ピアノを買って猛特訓したそうだ。「譜面も読めなくて、ゼロから始めた状態。だから、今回の曲以外は弾けないんです(笑)。皆にせっかく電子ピアノを買ったんだから、ほかの曲も弾けるようになればいいねと焚きつけられ、色んな所から圧がかかっています(笑)」とおどける。

さらに、讃美歌の独唱のシーンも。「今回、ピアノを弾いて歌を歌うので、両方がきちんとできるかなと。演出の大河内直子さんから『応援歌のように姉の背中をドンと押すような歌い方をしてほしい』と言われたので、力強く歌っています。プレッシャーを感じていると思われないように、お届けできればいいんですが」と謙遜しながら話す。

 今年で50歳という節目を迎えた。その前後から本当にやりたい事は何か、自分自身に問いかける日々だったという。「俳優としての人生観の中で漠然と思っていたんです。それが意外とマーガレットに心情が重なる部分が多くて。いわゆる、子育てや料理をする、掃除、洗濯など家の切り盛りをするだけではない、自分の中での自分の価値観みたいなものをマーガレットは姉を通して確立していくんです」

 40代のころは、やってみたい役とオファーされた役のギャップを埋める作業が難しいと思うことがあった。「容姿が若く見られがちなので、どうしても若い役が多くて。50歳というのは私の中では大台だったんです。今回、妹役で若いんですけど、中身が強い、芯が深く描かれている役に50を機に出会えたのは、私にとって次のステップにつながるんじゃないかな」と期待を寄せる。

 変化も感じているという。「今までは受け入れて表現することが多かったんですけど、今回は、皆でディスカッションしながら自分の意見も聞いてもらい、相手の意見も聞く。そんなやりとりがきちんとできるようになった。新しい高橋由美子になってきたのかなと思います」

 大河内からは「甘い声はいらない。できる限り力強く、ちょっとだけ男っぽい感じでやってほしい」と言われているそうだ。「マーガレットは意外とおじさんというか、男気が見えるようにしてほしいと。難しいなと思ったんですが、おじさんだけにならないように(笑)、可愛げがあるように作らなければいけない。今までの高橋由美子のイメージでいくとキラキラ、キャッキャッとしててかわいい感じですが、今回は違いますね」

ヘンリエッタの名前は小惑星や月のクレーターにたくさん残されているという。「教科書の勉強ではない、リアルに人が動いて伝えることによって身近に感じられる作品。星空が描かれて舞台のセットも照明もきれいです。ぜひ、劇場でご覧ください」。100年前の静かな夜を照らした女性たちの姿を目撃してほしい。

取材・文:米満ゆう子

 

unrato#12『Silent Sky』

■作
ローレン・ガンダーソン
■翻訳
広田敦郎
■演出
大河内直子
■音楽
阿部海太郎
■出演
朝海ひかる/高橋由美子/松島庄汰/保坂知寿/竹下景子

▶▶オフィシャルサイト

大阪公演

|日時|2024/11/01(金)~2024/11/04(月・休)≪全5回≫
|会場|ABCホール
▶▶公演詳細

 

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