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“自分として今を生きる”堤真一と瀬戸康史、大東駿介と浅野和之らで創り出す2作連続上演による相乗効果。

2024/9/20

公演レポ

Bunkamura Production 2024 / DISCOVER WORLD THEATRE vol.14 『A Number—数』 『What If If Only—もしも もしせめて』

Bunkamuraと海外クリエイターがタッグを組む人気企画「DISCOVER WORLD THEATRE」シリーズ。中でも過去3作で抜群の相性の良さを発揮してきたのが、演出家ジョナサン・マンビィと堤真一の組み合わせだ。その新作となる舞台『A Number―数』、そして連続上演の『What If If Only―もしも もしせめて』がついに開幕。その前日には公開ゲネプロと初日前会見が行われ、堤とともに『A Number―数』出演者の瀬戸康史、『What If If Only―もしも もしせめて』出演者の大東駿介、浅野和之が登壇した。

英国を代表する劇作家キャリル・チャーチルによる2作品を、世界で初めての組み合わせで連続上演する本企画。 まず上演される『What If If Only―もしも もしせめて』は約20分の作品ながら、なんとも不思議な感触を残す、“悲しみ”についての物語であった。愛する人を失った苦しみのただ中にいる【某氏】(大東)。彼の頭を埋め尽くすのは、「If もしも……」という後悔と、愛する人に再び会いたいという願いばかり。そんな彼の前に突如、起きなかった【未来】(浅野)や、もしかしたら起き得たたくさんの“未来たち”が語りかけてくる。さらには混乱する彼の前に、【現実】が現れて……。

浅野自身「あまり頭を使って考えたりせず、感じていただければいいかなと思います」と語るように、非常に感覚的な、言語化するのが難解な作品ではある。役者陣にとっても相当な難役だったはずだが、稽古場で行われた、心理学の専門家による“悲しみの段階”についての講義が、演じる上でも大きなヒントになったと言う。人間の“心”の変化を体感する、そんな濃密な20分。大東は「こういったテーマを劇場で体験していただけるということが、本当に重要だと思います」と力強く述べた。と、浅野からは観客に向けてある注意も。「20分しかありません。たったの20分! 寝たらなんだかわからない。おしまいですよ!(笑)」

続いての『A Number―数』は、近未来を舞台にした親子の物語。【ソルター】(堤)には【バーナード】(瀬戸)という息子がいるが、どうやらバーナードにはクローンが存在するらしい。しかも複数人の。その経緯を父親に問いただすバーナードだが、戻ってくる答えはなんとも煮え切らないまま。そして別の日、ソルターの前にはもうひとりの息子【バーナード】が立っていて……。

親子ふたりの緊張感ある会話劇だが、ひとりの親に対し、クローンを含めた3人の息子が対峙するという構図が非常に興味深い。ソルターに関しては堤自身「愚かな父」と言い表すように、かけがえのない息子の切迫した状況、しかもその原因の多くが自分にあるにも関わらず、どこかその場しのぎの言動でしか対応しようとしない。瀬戸は3人のクローンという難役だが、こちらの稽古でも専門家の講義が非常に役立ったとのこと。そのクローンに精通する専門家が繰り返していたという、「肉体は同じでも心は他人である」との言葉を体現するかのように、一人ひとりまったく違う人物として、3人それぞれの心のありようを繊細に演じてみせた。

キャスト陣からも語られたが、演出のマンビィは物語の地盤をしっかり掘り起こし、踏み固め、さらにもう一度掘り起こしたりしながら、じっくりじっくり作り上げていく。それだけに役者陣も自らの役どころに対する理解度が非常に深く、単なるひとつのキャラクターではない、その人そのものとして舞台上に存在する。役者個々の巧さも加わり、非常に見応えのあるドラマに仕上がった。と同時にエンターテインメントとしての舞台作りも秀逸で、巨大なボックスを模した印象的な美術(ポール・ウィルス)、目が離せない映像(上田大樹)など、総合芸術としての舞台の完成度の高さも、さすがのひと言である。

本作について堤は、「人間としての課題が浮かび上がってくる作品」と言い、大東は「“今を生きる”ということが見えてくる作品」と語る。まったく別々ながら、ふたつの作品を通して観ることで、この言葉はより深く、強く響く。連続上演による相乗効果はこれかと、マンビィの選択眼に改めて驚かされた観劇体験となった。

文:野上瑠美子
撮影:細野晋司

■ダイジェスト映像到着!

 

Bunkamura Production 2024 / DISCOVER WORLD THEATRE vol.14
『A Number—数』
『What If If Only—もしも もしせめて』

■作
キャリル・チャーチル
■翻訳
広田敦郎
■演出
ジョナサン・マンビィ
■美術・衣裳
ポール・ウィルス
■出演
『A Number—数』
堤真一、瀬戸康史
『What If If Only—もしも もしせめて』
大東駿介、浅野和之、
ポピエルマレック健太朗・涌澤昊生(W キャスト)

▶▶オフィシャルサイト

大阪公演

|日時|2024/10/04(金)~2024/10/07(月)≪全5回≫
|会場|森ノ宮ピロティホール
▶▶公演詳細

福岡公演

|日時|2024/10/12(土)~2024/10/14(月・祝)≪全3回≫
|会場|キャナルシティ劇場
▶▶公演詳細

 

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