2024/8/20
インタビュー
――人間のクローンを作ることが可能となった、近未来を舞台にした親子の物語です。出演が決まった時の心境は?
堤「演出のジョナサン(・マンビィ)とまたやれるならば、正直どんな作品でもいい、と思っていました(笑)。ただまさかこういう作品がくるとは……。実は、ジョナサンはコロスを使うなど、大人数が登場する作品が多いという印象だったんです。だからまさかふたり芝居だとは思わなくて。それは嬉しい驚きではありましたが、はっきり言ってよくわからない手ごわい本(笑)。今はまだ稽古が始まってみないことには、なんとも言えないなという感じです」
瀬戸「僕はジョナサンさんの演出自体は初めてですが、7年前にワークショップを受けたことがあるんです。役者が自由にやることを尊重しつつ、いろいろなことを経験させてもらったなと思っていて。堤さんとも共演は初めてですが、僕、『やまとなでしこ』というドラマが大好きだったんですね」
堤「もう25年近く前だよね(笑)」
瀬戸「それこそ僕が子供のころから活躍されていた方なので、ジョナサンさんの演出のもと、こういった作品で、ふたり芝居をやれることにすごく興奮しています」
――本作で堤さんは父ソルターを、瀬戸さんはそれぞれ育ちの異なる3人の息子を演じられます。現状、どう役を捉えていますか?
堤「ソルターは本当のことを言っているのか、嘘をついているのか、よくわからない人ですよね。息子に対する思いは間違いなくあると思うのですが、それがどこまで本当なのかがわからない。というのも、自分だったらクローンを作ろうなんて思わないし、やっちゃいけないことだと思うんです。同じ遺伝子で肉体は再生出来たとしても、魂は違うもので、それはもう別物ですから。つまり自分の感覚からして、わからない人間なんですよね」
瀬戸「クローンを含めた3人の息子を演じますが、僕自身は『あなたにクローンがいました』と言われたところで、『へぇ~』くらいの感じだと思うんですよね(笑)。それこそ本当に別物というか、まったく別の人生を歩んでいる、たまたま遺伝子が同じなだけの人、みたいな感覚なので。だから今のところは、3人それぞれまったく違う人物を演じようと思っています」
――演じるに当たって、最初の足掛かりになりそうなことは?
堤「稽古の最初の段階で、まずはジョナサンがいろいろなことをやろうとすると思うんです。僕の予想では、遺伝子学の先生を呼んでの講義は恐らくあるだろうなと(笑)。で、クローンを作ることが今の技術でどこまで可能なのか。そういったことをリアルに学ぶことから入っていくはず。だからこちらからあえてああしよう、こうしようという意識は、今のところまったくありません」
瀬戸「ジョナサンさんと軽く話した時、『イギリスには見た目でわかってしまうような階級がある』と聞いて、ちょっとびっくりしたんです。日本の階級って、あるようでなくて、ないようであって、すごくふわふわしたものだと思うので。今はそれがわかるような映画がないか、探したりはしています。あとジョナサンさんが『歌舞伎町の人たちにインタビューしてみようかな』とも言っていて、なるほど、そっちの育ちの悪さなのかと。僕は労働者差別からくるような、そういう類の育ちの悪さだと思っていたんです。でもそうではないんだと。そういった認識の違いはきっとまだまだたくさんあると思うので、これからの稽古で話し合いつつ、共通の答えを見つけていけたらと思います」
――堤さんがジョナサンさんの演出作品に参加されるのは、今回で4度目です。ジョナサンさんとの稽古で印象深いことは?
堤「1作目が『るつぼ』(2016年)という作品だったのですが、稽古が始まる前、僕と松雪(泰子)さんと(黒木)華ちゃんの3人でワークショップをやったんです。正直ワークショップってあまり得意ではなかったんですが、それがとにかく面白くて。『るつぼ』は魔女狩りの話で、ことの発端は僕が演じるプロクターの浮気。そこで当事者の3人でパン作りをするんですが、それぞれにテーマを与えられて、僕は松雪さんに気づかれないように華ちゃんを見るというものだったんですが、もうその緊張感たるや! つまりテーマありきではなく、人間関係ありきだってことが実感できた、あのワークショップは本当に印象深いですね」
――瀬戸さんはジョナサンさんの演出を受けられるのは初とのことですが、なにか堤さんに聞いておきたいことはありますか?
瀬戸「でもすごくラフな方ですよね? 前回のワークショップの時も、『あそこのコーヒーおいしかったですよね』みたいなところから始まって(笑)」
堤「そうそう。すごく明るい人だし、変に構える必要はまったくないかな。演出家によっては、僕らが生徒で、正解を出さなきゃいけないみたいな作業が多い場合があるけど、ジョナサンは、『自分たちの答えを見つけていこう』というスタンス。だからくだらないと思えるような質問も、どんどんしてしまっていいと思う」
瀬戸「なるほど、ありがとうございます」
――堤さんも瀬戸さんも経験済みですが、ふたり芝居ならではのやりがいや面白さとは?
堤「ふたり芝居は毎日が気づきの連続で、毎日違うんですよね。それと、今この時点で、この感覚を味わえているのは僕たちふたりだけ、みたいな不思議な感覚になる。ほかの舞台とはまた全然違ったレベルで楽しめるような気がします」
瀬戸「去年『笑の大学』という作品で初めてふたり芝居をやったんですが、最初は不安のほうが大きかったんです。でもいざ舞台に立ってみたら、ものすごくワクワクしている自分がいて。前回はコメディで笑いという反応でしたが、今回は僕らと一緒に、お客さんも緊張の度合いが高まっていくような場面もあるはず。そういう感覚をダイレクトに味わえるのかと思うと、今からとても楽しみです」
――では最後に、公演を楽しみにされている読者にメッセージをお願いします。
堤「今はポンと粘土を渡された段階で、完成形はもちろん、どんな形にしたいのかもわからない状態。だからとにかく早く稽古を始めたい気持ちが強いです。あともうひとつの作品『What If If Only―もしも もしせめて』との同時上演によって、どういった相乗効果が生まれてくるのか。今は僕自身まったくわかりませんが、そのあたりも楽しみにしていただけたらと思っています」
瀬戸「堤さんのおっしゃる通り、本当に今はわからないことだらけです。ひとつ言えるのは、僕が演じるマイケルという人の生き方、人生の捉え方が、自分はとても好きだということ。そこに希望を感じたというか。ただお客さんがどう捉えるかは、それぞれ観てくださった方に委ねたいと思います」
取材・文:野上瑠美子
PHOTO:ヨシモリユウナ
ヘアメイク:奥山信次(B.SUN)(堤さん)、小林純子(瀬戸さん)
スタイリスト:中川原寛(CaNN)(堤さん)、田村和之(瀬戸さん)
Bunkamura Production 2024 / DISCOVER WORLD THEATRE vol.14
『A Number—数』
『What If If Only—もしも もしせめて』
■作
キャリル・チャーチル
■翻訳
広田敦郎
■演出
ジョナサン・マンビィ
■美術・衣裳
ポール・ウィルス
■出演
『A Number—数』
堤真一、瀬戸康史
『What If If Only—もしも もしせめて』
大東駿介、浅野和之、
ポピエルマレック健太朗・涌澤昊生(W キャスト)
▶▶オフィシャルサイト
|日時|2024/10/04(金)~2024/10/07(月)≪全5回≫
|会場|森ノ宮ピロティホール
▶▶公演詳細
|日時|2024/10/12(土)~2024/10/14(月・祝)≪全3回≫
|会場|キャナルシティ劇場
▶▶公演詳細