2024/8/16
インタビュー
――平間さんは2021年の『イン・ザ・ハイツ』再演のウスナビを演じ、今回も続投されます。
平間「僕の演じるウスナビは、何の変哲もない青年なんですけど、周りの友人や人々に感化され、夢を見つけ、成長していくという役どころです」
――松下さんは2014年の初演でベニーを演じ、今回10年ぶりに同役でカムバックされます。
松下「ベニーは大きな夢や野望を強く持っていて、現実はタクシー会社の配車係として働いている。その会社を経営しているのは、恋人のニーナのお父さん。人間的にはポジティブで明るいキャラクターですが、色々な悩みを抱え葛藤している人物でもあります。」
――この作品でお二人の共演は初めてです。
松下「お互い昔から知っている仲なので、本番も楽しみですが、稽古場も楽しみ。壮ちゃん(平間)をはじめ、結構騒がしい人たちが集まっているから、稽古場でバーベキューとかしたいよね? 壮ちゃんは稽古が終わるとすぐ帰るから、ちょっと引き留めて、皆で『イン・ザ・ハイツ』っぽくパーティしたいな。あとはお芝居のことを話したり、一緒にセッションしたりしながらこの作品を作り上げていくことも楽しみだし、何でもない世間話をするのも楽しみですね。調子に乗りすぎないようにしないと(笑)、一番大事なのは本番なので」
平間「そんな優也を見るのも楽しみです。遊んだり、仲を深めたりするだけではなくて、『イン・ザ・ハイツ』はそこに住んでいるご近所さんのお話だから、キャスト皆がお互いの壁を取っ払っていく作業が一番大事だよね」
松下「そうだよね」
――何と言っても、ミランダの楽曲が生で聴けるのは日本では今のところ『イン・ザ・ハイツ』だけです。ミランダは“天才”と言われていますが、お二人は歌ってみていかがでしたか。
平間「天才だよね」
松下「天才だと思う。色んなところに音楽的な伏線が張り巡らされていて、ちゃんとミュージカルとしての作り方にもなっているんだけど、ラテンやヒップポップなど新しい要素も入っていて、やっていて面白い。日本版はKREVAさんが訳詞されているので、日本版ならではの面白さがあると思う」
平間「天才だけど、めちゃくちゃ難しいというところはないんです」
松下「そう。すごく難解なメロディラインかと言われたら、それとは違うのかもしれないです。同じものがループしていたり、積み重なったりしていた時の感じって、古典的なミュージカルにはない要素かなと思っていて。やっぱりそれはカルチャー的なもので、難しいポイントかなと思う。譜面通りにやれば、成立する作品ではない。譜面を超えていこうとしないと、ライブ感みたいなものはなかなか出にくいのかなと。ラップなんてまさにそうですよね?ラップは一応、音符があってないようなもので、それを譜面通りにやるからといって、よく聞こえるとは限らない。ほかの作品と比べると難しいかなと思います」
平間「ミュージカル俳優を目指している人が、『イン・ザ・ハイツ』の楽譜を渡されたらびっくりすると思います。音符が全部“×”なんで、どう歌ったらいいか分からないと思う(笑)。最初、それで苦労したのを思い出しました」
――“×”とはどういう意味なのですか?
平間 「『音がないよ、どう歌いますか?』という状態です」
松下「それが難しいよね。譜面を頼りにしている人からしたら『どういうこと?』になるよね」
平間「言葉のはめ方とかを練習したのを覚えています」
――音楽を聴いて覚えるということなのでしょうか。
平間「それもあるし、自分だったらこうするというのをやっていきましたね。ほかのミュージカルにはないです」
――作品は素晴らしい楽曲や激しいダンスが目白押しですが、今回、楽しみにしているシーンは?
松下「超楽しみにしているのは一幕の終わりのクラブのシーン。ウスナビには気になるヴァネッサがいる。ヴァネッサはいろんな男の人にダンスを誘われ、ウスナビはなかなか彼女の所に近づけない。ベニーも一緒に行っているんですが、彼もその日、色んな問題が起こり、あまりいいマインドではない時に、一緒に酔いながらクラブで踊るというシーンなんです。初演でもあのシーンすごく好きだったんですよ。壮ちゃんと一緒にやるのがめちゃくちゃ楽しみです」
平間「二人で踊るシーンはそこだけなんですよ」
松下「楽曲でラップがあるんだけど、俺らオフ芝居が多くて」
平間「多い、多い」
松下「オフ芝居というのは、マイクを通していない状態で何かしゃべるということ。このシーンでは、皆がクラブで踊っていて、俺らはバーのカウンターで、何かしゃべっているんだけど、妙にリアルで芝居しているっていう感じがしなくて、あのシーンが好きなんですよね」
平間「僕はピラグア屋が女性になっているというのが注目ポイント」
松下「今回、すごく楽しみだよね」
――ピラグア屋は街で屋台を引いて、かき氷を売る人ですね。
平間「世界初じゃないかなと。普段、男性が演じるんですけど、女性になった日本版はどう変わっていくのかというのが楽しみなところです」
松下「ピラグア屋の役は男性じゃないとできないという役ではない。2021年に『イン・ザ・ハイツ』が映画化された時は、ミランダがこの役をやっているんです。今回、ピラグア屋をやるMARUのパンチ力はすごいから、すごく楽しみです」
――映画版と舞台版の違いはどこでしょう。
平間「映画版はCGが使われていたり、近未来、現代的になったりしていてそれも素敵なんですが、昔の話なので、昔っぽさがでる舞台版はいいなと。最先端の技術を使うわけではなく、セットと生身の人間で演じていくのが舞台ならではです」
松下「壮ちゃんが言うように、映画は色んな映像効果やギミックもあり、こういう解釈や作り方をするんだと楽しかったんですけど、舞台のほうがより生感、ライブ感がありますね。音楽も相まって、ミュージカルなんだけどライブっぽい」
――物語にもジーンとさせられますが、公演をご覧になる方が突き刺さるのではないかと感じるシーンはありますか。
平間「ニーナのストーリーは特に突き刺さるんじゃないですかね。大学の授業料の支払いが間に合わなくて、辞めざるをえない」
松下「10年前には気付けなかったんですけど、それぞれが居場所を探しているという物語になっている。そこが共通点になるのではないかと思います。アメリカは多民族の国ですが、日本はそうではない。そうじゃないけど、皆、自分の居心地のいい場所を探しているなと。そこは国や人種が違えど、日本の人が見ても共感できると思います」
平間「めちゃくちゃ日常的だもんね。ヴァネッサはデザイナーになりたいけど、今は美容室で働いている、そんな自分ってどうなんだろうと。本当はこれをやりたいのに、今はできていない。そういう問題に国は関係ないですよね」
松下「ニーナは実は大学を辞めていたんだけど、親にも地元の人にも言い出せない。賢い大学に行っていて、凱旋みたいな感じでハイツに帰ってきたけど、皆がそれを知らずに声をかけて迎えてくれるから、本当のことを言えない。大学に限らず、実世界でもありそうだなと。本当の自分はこうとなかなか言えないことってあると思うんです。親の期待を裏切りたくないしね」
平間「俺らもそうで、やめたいほど挫折することがあったけど、地元であんなに見送ってもらったから・・・と。辞めて帰ることを考えるとその方々の顔を思い出し、やっぱり東京で頑張ろうと思う人たちはたくさんいると思う。そこは突き刺さると思います」
――ダブルキャストでウスナビを演じるDef TechのMicroさんについてはどう思いますか。
平間「人柄が尊敬できる先輩です。初めてお会いする時、誰もが知っている名曲を生み出しているDef Techの方だから、ちょっと怖いなって思っていたんです。(笑)でも『僕は今回役者になるつもりでここに来ていて、ラップがどうだと言うつもりはないから全部教えてください』と挨拶してくださったんです。こんなに純粋で、何事も吸収しようとする姿勢の方だからあそこまで行けて、そして舞台でもバイブスでこの作品に取り組んでいるから、ストレートにズトーンと心に響く。恐ろしいWキャストです。僕はビビっています(笑)」
――それぞれのウスナビの魅力は?
平間「Microさんの良さはカッコつけたいのにカッコつかないというウスナビのキャラクターが自然に出ているところだと思います。あれ?これってMicroさんをけなしてしまっている?(笑)」
松下「いや、そんなことない、大丈夫」
平間「自分の良さはどうだろう?あんまり分かんない。Microさんはラップはもちろんうまいですし、ピュアで純粋だからこそ本当にそこにウスナビがいるみたい」
松下「壮ちゃんのウスナビの魅力はそこかもね。そう思えるところがウスナビらしい」
平間「ハハハッ。そうかな?」
――最後にメッセージをお願いします。
平間「ミュージカルを観たことがない方に観てほしいですし、この作品は入ったら抜け出せないぐらい好きになれる作品だと思います。これまでにない、パワーアップした姿で本番を迎えますので、色んな人を誘って劇場に足を運んでください」
松下「もともと『イン・ザ・ハイツ』を知っている方は、再々演は色んなことを経て、よりクオリティーが高くなると思っているので、ぜひ、観に来てください。普段、ミュージカルを見る機会がなく、ライブやフェスが好きな方には、『イン・ザ・ハイツ』はそういうライブのノリもあるよというのはお伝えしたいです。ミュージカルはハードルが高いなと感じている方には、この作品はそんなことはないよ、と。ライブ感は絶対に伝わります」
取材・文=米満ゆう子
ブロードウェイミュージカル
「IN THE HEIGHTS イン・ザ・ハイツ」
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■原案・作詞・作曲
リン=マニュエル・ミランダ
■脚本
キアラ・アレグリア・ウデス
■演出・振付
TETSUHARU
■翻訳・訳詞
吉川 徹
■歌詞
KREVA
■音楽監督
岩崎 廉
■出演
ウスナビ:Micro [Def Tech]/平間壮一(Wキャスト)
ベニー:松下優也
ニーナ:sara
ヴァネッサ:豊原江理佳
ソニー:有馬爽人
ダニエラ:エリアンナ
カーラ:ダンドイ舞莉花
ピラグア屋:MARU
グラフィティ・ピート:KAITA
ケヴィン・ロザリオ:戸井勝海
カミラ・ロザリオ:彩吹真央
アブエラ・クラウディア:田中利花
ハイツの人々:
SHUN MAOTO LEI‘OH 鈴木恒守
SATOKO MORI TokoLefty 根岸みゆ 秋野祐香
スウィング:梅津大輝 江崎里紗
MUSICIAN
ピアノ・コンダクター:田中 葵
キーボード:伊東麻奈
ギター:齋藤隆広/石本大介
ベース:山口健一郎
ドラム:東 佳樹
パーカッション:一丸聡子
リード:白石幸司/大内満春
トランペット:田沼慶紀/中野 栞
トロンボーン:榎本裕介/脇村佑輔
マニピュレーター:古賀敬一郎
|日時|2024/10/12(土)~2024/10/13(日)≪全3回≫
|会場|京都劇場
▶▶公演詳細
|日時|2024/10/19(土)~2024/10/20(日)≪全2回≫
|会場|Niterra 日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
▶▶公演詳細