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松尾スズキの衝撃作を京都・福岡で初上演「演劇だからこそ可能な世界です」

2024/5/24

インタビュー

COCOON PRODUCTION 2024 『ふくすけ 2024 ー歌舞伎町黙示録ー』

薬剤被害で障がいを持った少年フクスケ、悪意と愛情渦巻く裏社会――。さまざまな境遇で必死にもがきながら生きる人々を描いた松尾スズキ伝説の作品が、12年ぶり4度目の上演を果たす。今回は、フクスケが入院する病院の警備員・コオロギと、盲目の妻・サカエを主軸に台本をリニューアル。これまでフクスケ役をすごい熱量で演じてきた阿部サダヲが、初めてコオロギ役に挑む。松尾自身も演じたクセモノ感のあるコオロギに、プレッシャーを感じるという阿部。再演への意気込みから、舞台というフィールドへの想いまで語ってくれた。

――コオロギ役を演じることが決まったときの心境から教えてください。

「12年前に、『次(再演があるなら)コオロギ役をやったら面白いかも』と、思ったので嬉しかったです。嫌な役柄だけど、すごく印象に残るキャラクターで、彼の台詞も印象的。台本を読むとやっぱり難しい役で、どのようにも演じられそうだし、その時その時でのコオロギの感情が読めない。そこがこの役の面白さなのかと思います」

――“歌舞伎町黙示録”と新たにサブタイトルが付いた再演。稽古に入られる前ですが、現時点でのコオロギ役に取り組まれる意気込みは?

「この作品は得体の知れない人がたくさん出てきますが、コオロギはやっぱり怖い人。空っぽなんだけど空っぽじゃない、みたいな。僕は“怖さ”と“笑い”は紙一重と思っていて、そこをうまく出せたらいいなと思います。僕自身笑いが好きで、笑いの部分を出していきたいと思っているのですが、松尾さんが今回、当て書き的なところを考えてくれているような気もして……」

――具体的にどのようなところで感じますか?

「まだ演じてないので笑いになるか分からないですが、面白いなと思える台詞があるところです。台本としては、新たに松尾さんが書き加えられたところや、逆にカットされたところはありますが、物語の流れは大きく変わっていないです。コオロギは警備員だけど、病院で覚せい剤を打っているような人で、新興宗教にハマり、それっぽいことを言っているのが滑稽。警備員を辞めて、教祖さまの隣にいるいかがわしい男でもあり、家では妻のサカエに毒づいている。そういう目まぐるしさも面白いです」

――妻のサカエ役は初共演の黒木華さんです。

「まだプログラム撮影で一度お会いしただけですが、出演作などを観ていると、笑いもできる方なんだろうなと。僕の勝手な想像ですけど、意外と面白いことをやられる、パンクな感じもあるかもしれない(笑)」

――黒木さんが演じるサカエとコオロギの愛情関係は複雑だと思うのですが、阿部さんはどのように感じていますか?

「今回、コオロギとサカエの出会いが描かれているんです。二人の“エピソードゼロ”的な。そこでお互いどういう愛情を持っているのか、見ていただけると思うし、そういう部分を掘り下げていきたいです。『なるほど、サカエはそんなところに執着しているのか』とか。 “根に持つ”など、色々な感情が面白いなと思います」

――そういうところもキーになってくるのですね。フクスケ役を演じる岸井ゆきのさんの印象は?

「きちんと共演したことはないのですが、少年に見える雰囲気もある方だし、いろんなことにチャレンジされそうなイメージがあるので楽しみです。僕が最初にフクスケを演じた時(1998年)は、途中の長台詞で頭がいっぱいいっぱいで、自分がフクスケを演じて皆さんどう思われるのか、とかばかり考えてましたが、今回は台本の読み方にも余裕が出てきました。これはいろんな人たちの復讐の話で、様々なことが混ざり合っているんだと、あらためて気づきました」

――今の時代にも通じるものを感じますか?

「コオロギにしても、いいところの出身ではないけど、思いついたことをどんどんやって、それがいい方向に転がっていく。詐欺師みたいな? そういう人いそうだな…って思います。今の世の中はよく分からないことが起きて、時代が逆にこの作品に近づいている気もします。だから初めて観る人も、普通に観れちゃう怖さがあるかもしれないです」

――今年この作品が、初めて京都と福岡でも上演されます。楽しみにされていることなどお聞かせください。

「2年前に『ツダマンの世界』をロームシアター京都メインホールで上演しましたが、それが初めての京都での公演でした。周りに神社仏閣があるお洒落な劇場ですよね。そこに『ふくすけ』を持っていくのが、なかなかパンクだなと! 当時はホテルから劇場まで歩いていくのが気持ち良かったけど、今年は夏の公演。京都、暑いですよね(笑)。でも京都の川床に行ってみたいです」

――福岡は2020年に博多座での『キレイ-神様と待ち合わせした女-』に出演されて以来でしょうか?

「そうです。今回のキャナルシティ劇場は初めてなので楽しみです。この作品は新宿歌舞伎町を舞台にしたお話ですが、どの街にも歓楽街みたいなところはあると思うので、似たところを感じていただけるのでは。エスダヒデイチ役の荒川良々くんは九州出身で、九州弁でお芝居すると聞いています。『ふくすけ』はなかなかの問題作だけど、この松尾作品を福岡の方がどうご覧になるのか楽しみです」

――どのあたりが「問題作」だと感じますか?

「30年以上前、松尾さんが20代の血気盛んな頃に、演劇界にケンカを売るみたいなイメージで作ったのではと思うんです。それが今でも上演され、色褪せないことがすごいなと。世の中には『素晴らしいね』と泣ける作品もあるけれど、これはそうじゃない、色々と考えさせられる作品。演劇だからこそ可能な世界だと思います」

――阿部さんはドラマ『不適切にもほどがある!』など話題作にも出演され、多方面でご活躍ですが、“舞台”はどのような場所なのでしょうか。

「ないと困ってしまう場所。松尾さんの作品もですけど、台詞を言うことで発散できるんです。映像だとなかなか言えないこともあるじゃないですか。それをお客様に生で伝えられる。それに対して泣く人もいれば笑う人もいる。そうやって自由に観ていただくことで、ドキドキできるんですよ。もともと僕は大人計画の舞台から始まっているので、自分の身体に合っていて、あの感覚が健康的なんです。それに先ほども言ったように、笑いが好きなので、ずっと笑っていただきたいです」

――この作品のユーモアはどのあたりに感じますか?

「人の脆さに『え!?』となるところかな。強がっている人も実はすごく弱かったりして、人間って滑稽ですよね。それにコズマ三姉妹とか、間抜けなことをしているキャラクターが多い(笑)。登場する風俗も、ありそうでなさそうだけど、それを笑いに変えていくのが松尾さんのすごいところです。お客さんには、『これで笑えた私ってどうなの?』と思ってほしい。そんな自分を好きになる瞬間があるだろうし…。本当に演劇って不思議な世界ですよね」

――松尾さんの世界は毒もありますけど、エンターテインメント性も大いにありますよね。

「はい。今回三味線が登場し、新たに和の音楽も加わるようなので、京都での上演はその面でも面白いと思います。キャストも全く変わり、新しい『ふくすけ』を初めての劇場でお見せできると思うので、新鮮に楽しんでください」

取材・文:小野寺亜紀
撮影:渡部孝弘

 

COCOON PRODUCTION 2024
『ふくすけ 2024 ー歌舞伎町黙示録ー』

■作・演出
松尾スズキ

■出演
阿部サダヲ、黒木 華、荒川良々、岸井ゆきの、皆川猿時、松本穂香、
伊勢志摩、猫背 椿、宍戸美和公、内田 慈、町田水城、河井克夫、
菅原永二、オクイシュージ、松尾スズキ、秋山菜津子

加賀谷一肇、石井千賀、石田彩夏、江原パジャマ、大野明香音、久具巨林、橘 花梨、友野翔太、永石千尋、松本祐華、米良まさひろ、山森大輔

ミュージシャン:山中信人(三味線)

▶▶オフィシャルサイト

各公演ページにて《主催者先行受付中!》

京都公演

|日時|2024/08/09(金)~2024/08/15(木)≪全8回≫
|会場|ロームシアター京都 メインホール
▶▶公演詳細

福岡公演

|日時|2024/08/23(金)~2024/08/26(月)≪全5回≫
|会場|キャナルシティ劇場(福岡)
▶▶公演詳細

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