2024/4/11
公演レポ
スキャンダルをめぐり、芸能界と週刊誌の攻防が苛烈さを増す昨今。そんな現状にグイグイと深いメスを入れた『ハザカイキ』が東京のTHEATER MILANO-Zaで開幕した。今回、世間をざわつかす週刊誌記者に扮するのは丸山隆平。「記者の人も自分の生活や家庭がある。今作でイメージが変わり、考えさせられました」と丸山は言う。言葉は何がOKで何がOUTなのか? 報道の自由の線引きは? 人間のイメージや本質とは? モヤモヤする昨今に一石を投じる快作がまたひとつ誕生した。
タバコを神経質に吸い、サングラスをかけた芸能記者の菅原裕一(丸山)が舞台に現れ、国民的人気タレントの橋本香(恒松祐里)と人気アーティストの加藤勇(九条ジョー)をカメラの望遠レンズで連写する。ふたりの熱愛をリークしたのは香の友人の野口裕子(横山由依)。菅原がスクープし、ネットニュースやテレビ番組ではその話題で連日もちきりだ。
私たちが目にする芸能ニュースのような始まりだが、本作は、作・演出を担う演劇界の鬼才・三浦大輔が、実は7年もかけて構想を練った。「作るきっかけはネタバレになるので言えませんが、とあるシーンをやりたくて構想が始まった。7年経ってここまで時代とフィットするとは予想外だったんですよね。この時期に見るべき作品になったなと強く思っています」と三浦。
稽古場でも日々、台本をアップデートし、「丸山君の素というか、テレビなどで見る地のままを使って演じてほしいと思っていた」と言う。元々は関東弁だったセリフを、地元の関西弁に変えたそうだ。芸能人を追いかけるという逆の立場の役どころを、丸山は気負うことなく自然に演じ、役に溶け込んでいる。ちょっとした仕草や立ち振る舞いにも、記者のプライドや悲哀がにじみ出ている。「途方もない時間を張り込みで使うけど、それだけではない。社会的なことも取り上げるので、時間や労力も使い、精神的なものが削られるんだろうなと思います。記者さんの映像やコメントをいくつか拝見して、信念や志を持ってされているんだなと。そこを念頭に置いて演じています」と丸山。
菅原には何でも話せる親友の今井伸二(勝地涼)がいて、ふたりの軽妙な掛け合いに客席から頻繁に笑いが起きる。舞台初共演の丸山と勝地は漫才コンビのようだ。勝地の得意とするコミカルな演技はもちろんのこと、役者としての幅と本領をより発揮している。
また、登場してセリフをひと言放つだけで、空気がピリッと変わり場が引き締まるのは、風間杜夫。かつて人気俳優だったが、不倫スキャンダルで芸能界を去り、今は香の芸能事務所の社長・橋本浩二に扮する。コンプライアンスやセクハラ、パワハラはどこ吹く風の、頭の古いオヤジぶりに、その存在感は凄みを増していく。
さらに勇の不祥事も発覚。次々と問題が起こり、スピーディーな舞台セットの転換や、粋で冴えわたった演出も相まって食い入るように見てしまう。特に、風間を使ったある演出には、観客は大爆笑で、1幕目があっと言う間に終わった。その面白さで体感時間は20分ぐらいだった。
2幕目は丸山をはじめ、勝地、風間らキャストのリアルで、何かが壊れてしまうほどのギリギリで繊細な表現に胸を突かれる。「ペンは剣よりも強し」というが、毒を盛った言葉の矢は相手を一突きで精神的に葬ってしまう。その怖さと重みが私たちにものしかかってくる。
さらに、国民的タレントの香の最大の見せ場では、恒松の目を見張るほどの長ゼリフに圧倒され、思わず息を呑む。狂気めき、その鬼気迫る姿に役者としての演技力のすばらしさを感じた。
ラストも、若者の欲望や性などを赤裸々に衝撃的に描いてきたこれまでのビターな三浦作品とは少し違う。三浦の「人間は感情よりも理屈が先にある」という視点と言葉が絡み合った彼の転換期ともなる舞台だった。丸山は「ひとつの週刊誌の記事によって、いろんな人たちの生活や何かが変化し、それを受け入れたり、許したり、許されたり…という作品です。じっくりと味わっていただければ」と力を込める。老若男女が今、凄まじいスピードで変容する社会やルール、そして移ろう人間の心にとまどい、もがいているはず。それは進化する上で必要な悪あがきなのかもしれない。だからこそ必見だ!
取材・文:米満ゆう子
撮影:細野晋司
Bunkamura Production 2024
『ハザカイキ』
■作・演出
三浦大輔
■出演
丸山隆平 勝地 涼 恒松祐里 さとうほなみ 九条ジョー
米村亮太朗 横山由依 大空ゆうひ 風間杜夫
日高ボブ美 松澤匠 青山美郷 川綱治加来
▶▶オフィシャルサイト
|日時|2024/04/27(土)~2024/05/06(月)≪全12回≫
|会場|森ノ宮ピロティホール
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