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『東京輪舞』約3時間で体感する、現在の日本における多様化した愛と情事

2024/4/5

公演レポ

PARCO PRODUCE 2024 『東京輪舞』

 数多くの舞台を観続けている見巧者の多くは、この組み合わせが発表されたときから注目していただろう。三浦大輔や福田雄一といった強力な演出家と対峙した経験を持つ髙木雄也(Hey! Say! JUMP)が今度は何に挑むのか。秀逸な演技で観客を作品世界へと引き込む清水くるみがどういう役を演じるのか。しかも、彼らによる二人芝居のカギを握るのが、新進気鋭の山本卓卓と杉原邦生の初タッグだというのだから、髙木や清水のファンでなくとも期待しているはずだ。

 2022年に『バナナの花は食べられる』で第66回岸田國士戯曲賞を受賞した山本の、会話(台詞)の妙で人間の心情や関係性を繊細に浮かび上がらせる戯曲を、杉原が得意とする圧倒されるほど大胆な仕掛けで観客に揺さぶりをかける美術と演出でどう立ち上げるのか。ほかにも、アルトゥル・シュニッツラー『輪舞』(1900年)、デヴィッド・ヘアー『ブルールーム』(2001年日本初演)などキーワードは数多くあるが、まずは純粋に舞台上で起こることに身を委ねることをお勧めしたい。

 テーマは「情事」。10組のカップルにまつわる風景が切り取られ、オムニバスで描かれる。しかも、リレー形式。まずは「十代と配達員」、次に「配達員と家事代行」、そして「家事代行と息子」……といったように、10の関係が輪になるように繋がっていく。舞台はおそらく2024年の東京。一昔前、情事といえば男女の愛や性的な交わりを思い浮かべたが、現代に生きる私たちには、もうそれは当てはまらないのだ、ということを突きつけられる。

 一人+一人=二人の関係はそれぞれ違い、何かの枠におさめることはできない。情事や愛をテーマに描きながら、現在は人間の生き方すべてが多様化していて、それは無限大である、ということを見つめ直すきっかけとなる作品に仕上がっていた。それは、山本が優しいまなざしで現代社会を見つめ、軽妙な筆致で繊細に表現した成果。一つひとつは短編であるのに、各人物が深く描かれていることで、それぞれの関係性や背景が浮き彫りになっていく。

 髙木と清水の演技のナチュラルさが功を奏し、大きなテーマをより自然と受け入れることができる。高木は8役、清水は6役を演じるが、極端に演じ分けるのではなく、それぞれの風景に「居る」人物として舞台に立つことで、それぞれのシーンをつくっている。いずれの役もしっかりと「存在」していることで、物語に集中することができた。髙木はスマートな空気をまといながらも愛嬌があり、にじみ出る包容力も魅力。清水は戯曲に忠実に、丁寧に繊細に役を造形したのが伝わる。この髙木と清水の個性の違いが心地良く、また二人から熱を感じられた。

 この戯曲には情事や愛、人間の関係性のみならず、現代社会の問題をも描かれているのだが、杉原がシャープに演出したことで、それぞれがより現れた。テキストや光、直線的な造形を打ち出した美術は、観客から想像力を引き出す。また、8名のステージパフォーマーを採用した空間演出は刺激的で、胸を高鳴らせる。ともすればウエットになりすぎるテーマだが、音楽の効果により客観性をもたせたようにも感じた。観客をそれぞれの風景に放り込み体感させながらも、クールな視点を忘れさせない。戯曲×演技×演出で生み出された本舞台から、さまざまなものを受け取り、自分自身を振り返るきっかけに。心の中で反芻する日がしばらく続く観劇となった。

文:金田明子
撮影:岡千里

 

PARCO PRODUCE 2024『東京輪舞』
 
 ■原作
アルトゥル・シュニッツラー
■作
山本卓卓
■演出・美術
杉原邦生
■出演
髙木雄也 清水くるみ

▶▶オフィシャルサイト

大阪公演

|日時|2024/04/12(金)~2024/04/15(月)≪全5回≫
|会場|森ノ宮ピロティホール
▶▶公演詳細

 

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