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『モンスター・コールズ』東京公演観劇レポート

2024/3/6

公演レポ

モンスター・コールズ

リアルと幻想が共存する《マジックリアリズム》の異色舞台

モンスター・コールズ、それは怪物の呼ぶ声。13歳の少年コナーが暮らす家の窓に突如現れ、3つの物語を語り出し、4つ目にはコナー自身がひた隠しにする真実を語れと迫ってくる――。英国の原作は権威ある児童文学賞を受賞し、映画化、舞台化にまで拡大発展。日本でも邦題『怪物はささやく』で広く人気を集める作品で、児童文学のカテゴリーに収まらない深淵なる物語のとりこになる人が後を絶たない。そんな本作が、舞台としては日本初演の日をついに迎えた。2020年に一度予定されたものの、新型コロナウィルスの影響で発表もされず上演延期の憂き目を見た。が、そこから4年越しの悲願がついに実り、日本人キャスト&英国クリエイティブチームというワールドワイドなタッグにて、観た者を必ずや魅了するダークファンタジーを繰り広げる。

舞台上にあるのは白い床と並んだ椅子。オープニングから全キャスト勢ぞろいのパフォーマンスと背後の映像、神経に突き刺さるような音楽で、一気に客席を惹き込んでいく。中央に立った主人公コナーを演じる佐藤勝利。セリフなく通学のための制服へ着替える様子から、早くも彼の抱える悩みが見えてくるようだ。コナーのママ(瀬奈じゅん)は重い病に侵されている。おばあちゃん(銀粉蝶)もママが心配でたまらない。

深夜12時7分。イチイの木のモンスター、山内圭哉が現れる。「コナー…、コナー…」と呼ぶ山内の声は大地から湧き出たように野太い。役者たちの一挙手一投足は、音楽、映像と重なり、ロープを使った演出は我々の想像力を大きくかき立て、シンプルな舞台上に多くのものをありありと見せてくれる。その瞬間の驚きと感動は何物にも代えがたく、我々をどんどん作品の世界へ没入させてくれる。

「私を呼び出したのはお前だ、コナー」と告げるモンスターの迫力に呑まれ、宙に吊るされるコナー。佐藤は渾身の演技で思春期の危うさを表現し、どこから見ても正真正銘の13歳の少年だ。ピュアであるゆえの反発心や意固地な言動、そうとしかできない苦しみが痛々しいほど伝わってくる。ママにも、おばあちゃんにも、パパ(葛󠄀山信吾)にも素直になれない、それ以外の接し方がわからない。物語が進むにつれ壊れそうなほど繊細に少年コナーを演じ切り、儚くも圧倒的な、佐藤にしかできない少年コナー像を熱烈に創り上げていく。

俳優陣はほとんどが出ずっぱりで舞台の両サイドにおり、瞬時に様々な役へ変化していった。実在の人物だったり、モンスターが語る物語上の人物だったり・・・。そうした俳優たちの声や動きの集合体が、そのまま舞台のすべて、物語のすべてとなり、観る者の感覚をえぐってくるのだ。ふだんは忘れている感情や感性を思い出させてくれるようで、片時も目が離せない。舞台背後いっぱいにめくるめく映像美や、心をなぞるような陰影の照明、斬新な音楽も演出効果を盛り上げる。

コメディからシリアスまで的確に演じ分け高い信頼を得る山内だが、そんな彼をしても、本作のモンスター役ほど過去にないものを見せてくれる役柄はないだろう。エアリアルや高足のアクロバティックな演出は初体験だそうだが、威圧感の中に紛れ込むコミカルな歯切れよさ、教訓を言っておしまいにならない人間味(モンスターだが…)などは、山内の新境地かもしれない。

まさに、佐藤が言うように、これまでにない演劇経験ができる本作。美しく、壮絶で、純粋かつ、残酷で、シンプルゆえの奥深さに惹き込まれ、リアルと幻想の入り乱れる《マジックリアリズム》はほかにない。これは、ぜひとも、空気の振動まで共有できる劇場で体感してほしい。

TEXT:丸古玲子
撮影:御堂義乘

 

『モンスター・コールズ』

■原作
パトリック・ネス
■原案
シヴォーン・ダウド
■演出
サリー・クックソン
■翻訳
常田景子
■出演
佐藤勝利 山内圭哉 瀬奈じゅん 葛󠄀山信吾 銀粉蝶
/半澤友美 高橋良輔 大津夕陽 
森川大輝 倉知あゆか 池田実桜

▶▶オフィシャルサイト

大阪公演

|日時|2024/03/08(金)~2024/03/17(日)≪全12回≫
|会場|COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール
▶▶公演詳細

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