詳細検索
  1. ホーム
  2. KEPオンライン
  3. 『舞台・エヴァンゲリオン ビヨンド』開幕レポート
詳細検索

KEP ONLINE Online Magazine

『舞台・エヴァンゲリオン ビヨンド』開幕レポート

2023/5/13

公演レポ

COCOON PRODUCTION 2023 『舞台・エヴァンゲリオン ビヨンド』

 
▶▶「舞台・エヴァンゲリオン ビヨンド」大阪公演特設ページ

急勾配の八百屋舞台を生かした大胆な演出

『エヴァンゲリオン』を舞台化し、新たなエンタテインメントの誕生を目指す意欲作『舞台・エヴァンゲリオン ビヨンド』。東京・新宿に完成した注目の新劇場THEATER MILANO-Zaのこけら落とし公演として5月6日に開幕し、6月には長野・まつもと市民芸術館、大阪・森ノ宮ピロティホールでも上演される。そこで東京公演初日の前日に行われた、公開ゲネプロの様子をレポートする。

14年前、巨大隕石の落下により壊滅的な状況になった地球。そこから出現し始めた「使徒」に対抗するため、特務機関「メンシュ」が誕生、4体の「エヴァンゲリオン」を開発した。エヴァンゲリオンに搭乗できるのは、14歳の少年少女のみ。中にはメンシュの最高司令官・叶サネユキの息子トウマの姿も。そんな中、14年前の真実を知る渡守ソウシが、彼のかつての恋人で、メンシュの戦術作戦部に属する霧生イオリに接触して――。

開幕してまず驚かされるのは、アクティングスペース全体が八百屋舞台、いわゆる傾斜、しかもかなりの急勾配になっているということ。そこに上手から下手までずらりとキャストが並び、奥に向かって歩みを進めて行くと、舞台全体に爆発の映像が投影される。するとその斜面に沿って、いやおうなしに崩れ落ちていくキャストの肉体。巨大隕石の衝突という悲劇を表現した、衝撃的なオープニングだ。

大迫力のエヴァンゲリオンと使徒の戦闘シーン

そして『エヴァンゲリオン』の舞台化と聞いて、やはり気になるのはエヴァンゲリオンと使徒の戦闘シーンだろう。本作で原案・構成・演出・振付を手がける世界的なクリエイター、シディ・ラルビ・シェルカウイは、本シーンにおいてもこの八百屋舞台を非常に効果的に使用している。ワイヤーで吊られたパイロット役のキャストたちは、この斜面を蹴り出し客席に向かってフライング。大小さまざまなパペットで表現されたエヴァンゲリオンと連動することで、ダイナミックな戦闘シーンを実現している。使徒の表現もさまざまで、風や土といった使徒そのものの属性と、観客の想像を喚起させる演劇的な手法をうまくミックス。舞台でしか見られない、印象的な瞬間を誕生させた。

さらにシェルカウイらしい身体的な表現の美しさ、ユニークさは随所に見られ、その主軸となっているのがやはりダンサー陣の存在だ。使徒やエヴァの操作はもちろん、メンシュのメンバーやマスコミ関係者などの芝居、さらに自動ドアや機械システム、登場人物の感情まで、それらすべてを身ひとつで魅せる。中でも倒立の第一人者、渡邉尚のソロシーンは官能的ですらあり、息を飲む。

それら表現としての面白さはもちろんだが、人間ドラマとしても非常に見ごたえのある内容になっている。舞台版ならではのオリジナルストーリーで、シェルカウイは「『エヴァンゲリオン』を舞台化するというのは、まさに道徳観や価値観と向き合い“なにが正しくて大切なのか”を問いかけることだと考えています」と語る。さらに「伝えたいのは“今、我々がどう生きているか”ということ」と続け、「この作品を見てどのように感じたか、そして自分の仕事や人生についてどう考えるか。そんな会話が生まれるのを楽しみにしています」と観客の反応に期待を膨らませる。

主人公・渡守ソウシ役の窪田正孝の好演が光る

本作に込められた強いメッセージの象徴とも言えるのが、エヴァンゲリオンに搭乗する14歳の少年少女たち。大人のエゴの犠牲となり、傷つき、苦悩する子供たちの姿が、この舞台版ではより鮮烈に浮かび上がる。その対比となるのが、ソウシ、イオリ、サネユキという異なる立場にいる大人たち。ソウシ役の窪田正孝は、「今の大人たちは子供たちへバトンを渡すことができるのか」と本作のテーマを掲げ、「渡守の生き方は自分の心を代弁してくれている気がして、舞台はそれをストレートに表現できる場所でもありました」と役や作品に対する素直な想いを明かす。そんな窪田の好演(身体能力の高さを含め)が、作品のクオリティをグッと押し上げていたことは間違いない。

イオリ役の石橋静河は「とても今にリンクした作品になっています。だからこそ表面的な設定や世界観だけでなく、この作品の真髄をご覧になる方々へ伝えたいと思っています」と語り、さらにシェルカウイ作品への参加は10年前から熱望していたとのことで、石橋が劇中で見せるムーブメントの美しさにも、その想いの強さが伺える。またサネユキ役の田中哲司は、「この作品の根底にあるのは人間の力であり、そこに『エヴァンゲリオン』を演劇にする意味が詰まっている」と切り出し、「叶の姿には、今の世界が如実に反映されていると感じています」と、自身の役を通した観る者への問題提起とも言える言葉を残した。

さらに窪田はこう語る。「この作品に僕は余白を作りたいし、観てくださる方の、なにかきっかけになれば」と。その余白になにを見るかは、観客それぞれ。シェルカウイの言うように、観た者同士で語り合い、考えることまでが、『舞台・エヴァンゲリオン ビヨンド』の豊かな観劇体験と言えるのかもしれない。

取材・文:野上瑠美子
撮影: 細野晋司

  

COCOON PRODUCTION 2023
『舞台・エヴァンゲリオン ビヨンド』
 
 ■出演
窪田正孝 石橋静河 板垣瑞生 永田崇人 坂ノ上茜 村田寛奈 宮下今日子 田中哲司/
大植真太郎 大宮大奨 渋谷亘宏 AYUMI 森井淳 笹本龍史 渡邉尚 高澤礁太 権田菜々子/
歌唱:阿部好江[太鼓芸能楽団 鼓童]

■構成・演出・振付
シディ・ラルビ・シェルカウイ
■上演台本
ノゾエ征爾

大阪公演

日時:2023/06/10(土)~2023/06/19(月)≪全10回≫
会場:森ノ宮ピロティホール
▶▶公演詳細

一覧へ戻る