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『たぶんこれ銀河鉄道の夜』観劇レポート

2023/3/24

公演レポ

『たぶんこれ銀河鉄道の夜』 〜The Night of the Milky Way Train(right?)〜

ヨーロッパ企画の上田誠が、宮沢賢治の不朽の名作『銀河鉄道の夜』をモチーフにした新作「『たぶんこれ銀河鉄道の夜』~The Night of the Milky Way Train(right?)~」を発表。東京を皮切りに、3月から4月にかけて、愛知、高知、大阪で上演される。そこで東京公演初日に行われた、ゲネプロの模様をレポートする。

美容師として働きながらも、要領が悪く、先輩のナツキに叱られてばかりのナオ。高校時代の親友で、同僚のレナがナツキと地元で開かれる音楽フェスに行くという夜も、ナオはひとり居残りでカット練習をしていた。その帰り道、母親のために買った弁当は中身を間違えられ、交換を頼んだ店員は目も合わさない。そのむしゃくしゃをつぶやいたツイートは勘違いからナツキの怒りを買ってしまう結果に。すべてが嫌になり、黒い丘へとやって来たナオだったが、ふと気づくと列車の中にいて……。

底辺に死を漂わせながら進む『銀河鉄道の夜』は、常に寂しさと切なさを感じさせる作品だが、上田流の『~銀河鉄道の夜』ではその手触りが一変。ユーモアと意外性をたっぷりと盛り込み、幅広く楽しめるエンターテインメント作品へと昇華させた。その要因は、まず本作が“音楽劇”である点が大きい。ヒップホップやラップといった現代の観客にも耳馴染みのある楽曲は、すべて上田本人が手がけたもの。一方、キャストの声を通して届けられる歌詞は、原作の文中から引用されたもの。時代を超えたこのコラボレーションが、作品に躍動感と推進力を与えている。

前出した“意外性”というのは、銀河鉄道(略して銀鉄)に乗り込んで来た人々が、なんとデスゲームを繰り広げるという点。これは作者である上田本人も「ちょっと信じられない」と苦笑いを浮かべながらも、「90年前に書かれた作品が、いろいろな時代を超え、今なお走り続けている。それくらいすごい列車なので、音楽劇にしようが、デスゲーム劇にしようが、どんなアレンジでも揺るがない。そういう重力を持った作品だと思うので、僕らもそこに引っ張られ過ぎず、なるべく自由に、楽しく、大胆に取り組もうと思いました」と、創作への想いを明かす。

さらに上田が、「『銀河鉄道の夜』を現在に接続するようなつもりで作りました」と語るように、原作ではタイタニック号で犠牲死したと思われる人々などが乗客として登場するが、本作でそれに当たるのは、企画で事故を起こしたYouTuberやバイトテロの実行者など、いわゆる“炎上”してしまった人たち。彼らが、そしてナオやレナが、銀鉄を舞台にしたデスゲームからなにを見つけ、どこに辿り着くのか。キーワードになるのは、“本当の幸(さいわい)”だ。

原作のジョバンニに当たる主人公のナオを演じるのは、昨年の『VAMP SHOW ヴァンプショウ』での好演も記憶に新しい久保田紗友。銀鉄での旅を通したナオの成長を瑞々しく演じ、さらに伸びやかな歌声で作品を引っ張る。カムパネルラに当たるレナ役には、単独での舞台出演は初となる、乃木坂46の田村真佑。真っ直ぐで優しく、さらにナオの背中を押す強さを持った親友として、キラリと光る存在感を残した。さらにかもめんたるの岩崎う大と槙尾ユウスケも出演。上田とは親交が深く、特に岩崎は「劇団かもめんたる」で作演出も手がけているだけに、「上田メソッドを盗んでやろうという気持ちで参加しました」とコメント。上田も「僕とう大さんの二馬力みたいな感じで、ふたりでアイデアを出し合いながら作っていきました」と、岩崎への信頼度の強さを伺わせた。

デスゲームなんて物騒なワードも登場するが、プロジェクションマッピングを効果的に使用したステージングは、銀河そのものを表現したような幻想的な美しさ。さらに賢治の詩的な言葉を、視覚的に楽しめる面白さもある。現代版・銀河鉄道への旅。劇場という列車に乗り込み、ぜひ体感してみて欲しい。

取材・文:野上瑠美子

『たぶんこれ銀河鉄道の夜』
〜The Night of the Milky Way Train(right?)〜

■脚本・演出
上田 誠(ヨーロッパ企画)

■出演
久保田紗友
田村真佑(乃木坂46)
鈴木仁 
戸塚純貴
藤谷理子(ヨーロッパ企画) 
石田剛太(ヨーロッパ企画) 
土佐和成(ヨーロッパ企画) 
中川晴樹(ヨーロッパ企画)
後藤剛範 
加藤啓 
槙尾ユウスケ(かもめんたる) 
岩崎う大(かもめんたる)

大阪公演

|日時|2023/04/15(土)~2023/04/16(日)≪全3回≫
|会場|サンケイホールブリーゼ
▶▶ 公演詳細
▶▶ オフィシャルサイト

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