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50周年の加古隆「音楽は深い愛を表現できる」

2023/2/13

インタビュー

加古隆 50thアニヴァーサリーコンサート ソロ&クァルテット~ベスト・セレクション~

NHK『映像の世紀』のテーマ曲など
50年の歩みを凝縮した贅沢なコンサート

心に染み入る繊細で美しい音色を紡ぎ出し、NHKスペシャル『映像の世紀』のテーマ曲「パリは燃えているか」に代表される壮大なメロディを生み出す加古隆。作曲家・ピアニストとして50年間歩み続けてきた彼が、5月に大阪で『加古隆50thアニヴァーサリーコンサート ソロ&クァルテット~ベスト・セレクション~』を開催する。フランスでデビュー後、クラシック音楽だけではなくジャズや現代音楽も取り入れながら、独自のスタイルを築いてきた音楽人生を振り返りつつ、記念コンサートへの思いを語った。

――まず、50周年を迎えられたお気持ちから伺えますか。

「そんなに長くやってきたのか、というのが正直な感想です。健康な身体に生んでもらい、大きな病気をすることもなく一番好きな音楽を50年間続けてこられたことはとても幸せで、支えてくれた人やファンの方に感謝の気持ちでいっぱいです。」

――幼い頃、音楽とはどのように出合われたのでしょうか。

「小学校低学年の時の担任の先生が、合奏を楽しんでいた僕に『音楽の勘がいい』とピアノを習うのを勧めてくれて、そこからピアノのレッスンを始めました。中学生の頃にはクラシックを一日何時間も聴くレコード少年になり、ストラヴィンスキーの『春の祭典』など、クラシックとはまた違う現代音楽も好きになって。当時はピアニストになりたいというのではなく、音楽家になりたいという気持ちでした。中学3年の時レッスンの先生に、『加古くんは作曲をやったらいいんじゃない?』と言われ、作曲はしたことがなかったのですが、作曲家の伝記なども読み憧れていましたから、そのひと言で作曲家を目指そうと決めました。そして、高校生の時にモダンジャズのコンサートへ先輩に連れて行ってもらったら、第一音から鳥肌が立ち、その日からはジャズのレコード少年に変わりました(笑)」

――ジャズのどのようなところに惹かれたのですか?

「リズム感とグルーヴですね。これはジャズにしかないもので、そのリズムやノリと、現代音楽で学んだ音の使い方を合体することで、自分らしい音楽を生み出すことができました。高校時代は見よう見まねでジャズを弾き、仲間とバンドもやったりして、大学は芸大(東京藝術大学)に進みましたが、中退してジャズピアニストになりたいと本気で思ったことも。でも両立は難しいのでジャズは一度封印し、大学の後半からは作曲の勉強だけに集中しました。」

――その後、留学生として渡仏されましたが、1970年代のフランスは文化的にも熱気があったのでは?

「ありましたね。最初に感じたのは、同じ年代の人でもアフリカやアラブ、北欧の国など世界中から集まっているので、バックボーンが違うからすごいエネルギーが溢れているんです。皆が同じ方向を向いている日本とは違い、大変刺激的で面白かったです。」

――今回のコンサートは4つのパートに分かれ、第1部のパート1『巴里の日』と、パート2『ポエジー』はピアノ・ソロで構成されるそうですね。

「コンサートでは1973年にパリでデビューした当時の音楽から、現在までの音楽の流れ、変遷を一望できるようなものを楽しんでいただきたいと思い、そうなると4項目が最後に残りました。フリージャズを弾いていたデビュー当時の音楽、その後日本に帰って始めたピアノ・ソロの活動。そのなかで、現在の自分の音楽スタイルを見つけるきっかけになったのが『ポエジー』という曲です。僕は音の美しさ、自然の美しさを大切に思っているのですが、この曲からは木や森、そういうものの美しさを感じていただけると思います。ここまでが第1部のソロとなります。」

――第2部は10年以上力を入れてこられた『加古隆クァルテット』での演奏になるとのことですが。

「もう一度自分のグループを作りたいと思い、カルテットを結成したのが2010年。楽器はヴァイオリンとビオラとチェロと僕のピアノという、クラシカルな編成になっていて、今の僕にとって欠かせないものです。そして僕を語るうえでどうしても欠かせないものは、映像のために書いた音楽作品だろうということで、なかでも多くの方に聴いていただいた『映像の世紀』をパート4で取り上げました。テーマ曲の『パリは燃えているか』をはじめ、いくつかの曲をカルテットで演奏します。」

――『パリは燃えているか』はどのような狙いで作曲されたのでしょうか。

「100年の歴史、時代をテーマとした番組だったので、100年の時のうねりを感じられるようなスケール感が一つ。また『映像の世紀』は教育番組ではなく、お茶の間で日曜夜9時から皆さんが楽しまれるものだったので、聞いたら忘れられないような印象深いメロディ。この二つに注力しました。今回のコンサートでは今の時代、現実に起こっていることが皆さんの心に大きな影響を与えると思いますので、重層的に感じていただけるかもしれないです。」

――大阪では住友生命いずみホールでの開催となりますが、このホールへの思いもお聞かせください。

「日本で最も素晴らしい響きを持ったホールの一つで大好きです。置いてあるピアノは『ベーゼルドルファン インペリアル』という素晴らしいもので、たくさんのインペリアルを僕は弾いてきましたが、ここのピアノはナンバーワンです。大阪の方はぜひ誇りに思ってください!」

――今後もやはりご自身の音楽を突き詰めていくお気持ちでしょうか。

「突き詰めるというほどたいそうなことはできないですが(笑)、生涯現役と思っていますし、その努力は惜しまないでやっていきたいです。僕が音楽で大事にしているのは“感動”で、それを別の観点から分かりやすく言うと“人の優しさ”なんですね。その優しさを極限まで突き詰めると、やはり“愛”という言葉になる。音楽はその深い愛を表現することができますし、それが表現できていれば、様々な時代やシチュエーションで、きちんと一つのメッセージとして届けることができると思っています。」

取材・文 小野寺亜紀

加古隆 50thアニヴァーサリーコンサート
ソロ&クァルテット~ベスト・セレクション~

|日時|2023/05/20(土)15:00
|会場|住友生命いずみホール
|出演|加古隆(ピアノ)
    相川麻里子(ヴァイオリン)
    南かおり(ヴィオラ)
    植木昭雄(チェロ)

▶▶ 公演詳細
▶▶ オフィシャルサイト

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