詳細検索
  1. ホーム
  2. KEPオンライン
  3. 【インタビュー】ウーマンリブ vol.15『もうがまんできない』 宮藤官九郎
詳細検索

KEP ONLINE Online Magazine

【インタビュー】ウーマンリブ vol.15『もうがまんできない』 宮藤官九郎

2023/3/4

インタビュー

ウーマンリブVOL.15 「もうがまんできない」

新キャストも迎え、3年越しの有観客上演。
「仲野太賀くんの役は僕自身を投影している」

宮藤官九郎が“今やりたいこと”をストレートに表現し、予想を超えた展開と色濃いキャラクターで引き込む人気シリーズ「ウーマンリブ」。2020年にコロナ禍で上演中止となり、無観客での収録・放送となった幻の作品『もうがまんできない』が、この春待望の上演へ。阿部サダヲら続投メンバーに加え、仲野太賀、永山絢斗、皆川猿時が新たに参加。雑居ビルなどが立ち並ぶ渋谷のとある屋上、解散寸前のお笑いコンビや不倫中の男女など、ワケありの人々が偶然出会い、ノンストップの人間模様を繰り広げる。作・演出・出演を務める宮藤が、新たに向かうこの作品や1996年から続く本シリーズについて、さらに創作での率直な思いまで明かした。

――いよいよ有観客での上演が決まった今のお気持ちは?

「芝居は開幕すると変わり続けるもので、それはお客さんの笑い声によるところが大きいと思います。『お客さんにここウケたからこう変えよう』とか調整していき、結局完成しないのが演劇の面白いところ。3年前は笑いのない無観客の劇場で、ドラマみたいな撮り方をしたので、やったような気がするだけでやっていない、今回が再演であり初演という気持ちです。」

――2023年版として、新たに書き換えられる予定はあるのでしょうか。

「僕はその時その時に面白いと思ったことから発想し、形にしていくことが好きなので、再演ってどう楽しんでいいか分からないんですよ。この芝居はコロナ禍の直前、世の中に不穏な空気が漂い始めた時に書いた本。3年経ってみると、意外と世の中は変わっていない気がして、大筋は変えない予定です。やはり3人のキャストが変わるというところは見どころで、仲野太賀くんと永山絢斗くんのお笑いコンビが屋上でネタ合わせをしている、そのネタの部分は書き換えようかなと思っています。あとは今の時代に合わせ、面白いと思っていることを取り入れつつ大筋は変わらない予定です。」

――新たに参加される仲野太賀さん、永山絢斗さん、皆川猿時さんの印象と、キャスティングの背景を教えて下さい。

「前回柄本佑くんと要潤さんが演じたお笑いコンビが主たる登場人物で、二人の個性をイメージして最初に本を書いたのですが、そこを別のコンビに置き換えたらまた違う物語になるかなと。では誰にお願いしようと考えた時、共演経験があり自分の作品に出てもらったことのある太賀くんだったら、佑くんと違う面白さが出るだろうなと思いました。その相方、要さん演じる隅田役は『イケメンだけど喋るとバカっぽい』感じがあり、今それを演じて面白いのは絢斗くんかなと思って。何より二人とも面白い役者さん、というのが一番の理由です。そして松尾スズキさんが演じた役を大人計画の役者で考えた時、皆川くんならまた違う面白さになるんじゃないか、と思いキャスティングしました。」

――「ウーマンリブ」の公演を観客の前で上演するのは8年ぶりですが、このシリーズへの思いをお聞かせ下さい。

「僕はあまり(大人計画の)本公演や松尾さんの公演に呼ばれないので、うちの劇団員と関わる舞台が『ウーマンリブ』しかなくて(笑)、阿部くんや皆川くんなど劇団の役者さんと芝居を作るのが、最大の楽しみであり面白いところです。阿部くんと皆川くんは僕と同じ歳なので同期と言えばいいのに、僕の方がちょっと早く入ったために同期とは言わないとか、培ってきた関係の面白さがあるんですよ。長く一緒にやってきたから、他の人には見えない部分も見える。みんな家庭を持ちそこそこの歳になったけど、稽古場に集まるとそんなことも忘れて、若い時みたいに動いてほしいと思っちゃう(笑)。やっぱり彼らがいろんな現場で経験した作品よりも、面白いものを作りたいと思うし、絆とは言わないですけど“見張ってる、見張られてる”感じは言葉にしなくてもありますね。」

――阿部サダヲさんと皆川猿時さんが本作の取材会をおこなった時、阿部さんが宮藤さんについて「ゲームやVRの話が入っているのが意外。ネタが尽きることがなくて感心した」とおっしゃっていました。

「そもそもこの舞台は、僕が街を歩いていたら知り合いじゃない人たちが集まって、一生懸命スマートフォンでゲームをやっている光景がすごく奇妙で、『この人たちは何だろう?』と思ったのがきっかけでした。ただ僕は普段からゲームをやらないし、作品の取材のためにやろうと思ったけど、全く楽しめなくて。ネタが尽きないという点では、自分が気になるものがある間は、創作はできるんじゃないかな。いろんなことが気にならなくなったらたぶんおしまいだと思います。」

――コロナ禍となり、タイトルの「もうがまんできない」がますますぴったりくるようなところもあるかと思うのですが。

「みんながちょっとずつ我慢して、身体も心もそっちに慣れていき、やっぱり人間って順応するんだなと思うけど、『仕方ないよね』というところで頑張っていますよね。でもあまりこの舞台の話はアップデートをしたくないかなと思います。我慢できない人たちが“我慢できない”を持て余しているような空気感になるかと。お笑いコンビが解散するのも、夫婦が離婚するのもお互い良いところが見えなくなり、ちょっとの我慢が積み重なって『もういいや』となっちゃうわけで。ただこの3年で、世の中が大きい我慢を強いられると逆に連帯感が生まれるんだ、ということには気づきました。」

――もう少しキャラクターについて伺えますか。

「今日で解散すると決めているお笑い芸人の二人がいて、目の前で起こっていることが自分たちのネタより全然面白くて絶望的な気持ちになる…みたいなことって、僕はネタを書く側だから理解できるんですよ。前回(柄本)佑くんがやってくれた、ネタを書いている方の芸人役は、『周りには好き勝手に生きて楽しい思いをしている人がいっぱいいるのに、なんで俺はつまんないんだ』とずっと思っている人で、すごく僕自身を投影している気がします。」

――創作の場では、最近コンプライアンスなどの問題もあり「書けないことが増えてきた」などありますか?

「舞台も自由じゃないんだなと、やるたびに最近思います。僕はSNSはやってないですけど、それでもいろんなことを言われちゃうし耳に入ってくる。でも、『人に注意されたんで、こういう表現に変えました』みたいなことは、僕は今後もないと思います。」

――お笑いコンビを描くということで、笑いに厳しいと言われる大阪での公演で意識することはありますか?

「東京はいろんなところから人が集まっているので、東京の文化ってあるようでない気がするんですけど、大阪はテレビやラジオで吉本の芸人さんに触れる機会が多いので、日常会話にボケとツッコミが入っている文化がありますよね。温かい目で観て下さいというのも違う気がして、厳しい目で観てもらえればいいなと思います(笑)」

取材・文 小野寺亜紀

ウーマンリブVOL.15
「もうがまんできない」


■作・演出
宮藤官九郎
 
■出演
阿部サダヲ 仲野太賀 永山絢斗 皆川猿時 荒川良々
宮崎吐夢 平岩紙 少路勇介 中井千聖 宮藤官九郎

大阪公演

|日時|2023/05/18(木)~2023/05/31(水)≪全14回≫
|会場|サンケイホールブリーゼ
▶▶ 公演詳細
▶▶ オフィシャルサイト

一覧へ戻る