2022/10/27
公演レポ
エン*ゲキ#06「-即興音楽舞踏劇-砂の城」が11月3日(木)より大阪・ABCホールにて上演される。
「エン*ゲキ」シリーズは、俳優・池田純矢が脚本・演出・出演を手がける舞台公演シリーズ。第6作となる本作は、これまでの爽快なエンタテインメント路線から一転し、新たな地平を切り開いている。
物語の主人公は、領主の娘・エウリデュケ(夏川アサ)との結婚を控えた青年・テオ(中山優馬)。この結婚により、テオは温かな家庭と莫大な財産を手にすることとなる。その未来には一点の曇りもないはずだった。
だが、テオの心に棲みつくのは、拭うことのできない孤独と虚無。その空洞を埋めようとして、テオは過ちを重ねていく。そんな人間の卑俗で純粋な業を、池田純矢は時に目を背けたくなるほど生々しく描いている。
注目は、その作劇方法だ。「即興音楽舞踏劇」と冠する通り、この作品に登場する歌とダンスはほぼすべて即興によってつくられている。決まっているのは歌詞とコード進行だけ。メロディも振付も、演者たちがその場でその瞬間生まれたものをそのまま表現していく。だから、全33公演、ひとつとして同じ表現がない作品となる。
音楽に例えるなら、ジャズの即興演奏が近いかもしれない。手練れの奏者たちが、その場でフレーズを繰り出し、音と音が溶け合って、その場限りの演奏が生まれる。同じことがどこまで演劇でできるのか。演劇の最大の魅力である「一回性」を究極的に突きつめたものが、本作と言える。
「即興」という形態が生み出すのは、俳優たちのリアルな心の動き。特に終盤は、まるでギリシャ悲劇のように人間の醜悪な側面がむき出しになっていく。夫に憎しみを向けるエウリデュケと、自己愛に走るテオ。反転した愛は、もはや狂気に近い。
その苛烈な感情のぶつかり合いが渦となり、客席を飲み込んでいくのだが、これほど無防備なまでに拒絶も欲望もさらけ出せるのは、あらかじめ定められている様式に縛られない「即興」だからだろう。
リズムや音程といった制約に支配されることで、俳優の内面に無意識下で嘘が生じる。「即興」ならその嘘を極限までなくせる。それによって、俳優たちがどんどん自らの内奥から溢れ出す衝動に忠実になっていく。それが、理性やモラルという枷を捨て本能的になっていく登場人物たちと重なることで、観客を圧倒する刹那のドラマへと昇華するのだ。
さらに公演を重ねるごとに「即興」の形態も進化し、今では本来歌唱パートではなかった台詞まで、公演によっては歌になっていることもあると言う。演劇作品は公演を重ねるごとに円熟味を増していくと言われるが、ある種、本作はどんどん見えない柵を破り、自由になっていくと言えるのかもしれない。
俳優は、どこまで嘘のない世界を生きられるか。演劇の固定観念に真っ向から挑むような実験が、今、「-即興音楽舞踏劇-砂の城」で行われている。
取材・文:横川良明
撮影:京介
エン*ゲキ#06
即興音楽舞踏劇『砂の城』
■作・演出
池田純矢
■出演
中山優馬
岐洲匠 夏川アサ 野島健児 池田純矢 鈴木勝吾
升毅
佐竹真依 高見昌義 永森祐人 真辺美乃理 森澤碧音
ピアノ演奏:ハラヨシヒロ
|日時|2022/11/03(木・祝)~2022/11/13(日)≪全14回≫
|会場|ABCホール
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